2023年11月16日、ドイツのミュンヘンの裁判所は、賭博王のビジネスに関するウィキペディアの記事の検閲を正しく拒否したとの判決を出しました。この裁判は控訴されましたが、2024年7月25日に控訴は取り下げられ、ウィキペディアの記事を完全に維持することを支持する最終判決が下りました!
この判決は、言論抑圧訴訟といわれるSLAPP(市民参加を阻止する戦略的訴訟)の特徴を全て備えていると考えられる訴訟に対し、財団の明らかな勝利を示しています。SLAPP訴訟とは、公益に関わる正当な事柄について組織や個人に沈黙を強いる目的の訴訟です。
ウィキペディアの問題の記事には、マルタに本拠地を置くヨーロッパ有数のスポーツ賭博会社ティピコの3人の共同創業者の一人として、ムラデン・パブロビッチの名前が挙げられています。これは既に公表された情報であり、パブロビッチの名前はドイツのニュースメディアや、マルタの公式会社登記簿に記載されているものです。ウィキペディアの記事は、ティピコの株式の一部が、ジャージー島を本拠とする投資家によって取得されたことも書かれ、この情報も訴訟で焦点があたりました。
ウィキペディアコミュニティの指針により、この情報は全て信頼できる外部情報源を典拠としており、中立的な百科事典の方法で提示されています。これに対し、パブロビッチはドイツの評判の良い法律事務所に依頼して、私たちがウィキペディア記事の検閲を受け入れない限り、財団に対し訴訟を起こすと脅かしました。ドイツのウィキメディアコミュニティのメンバーと相談した結果、私たちは弁護士の要求を拒否しました。これはウィキメディアの誠実さとボランティア編集者の信頼できる仕事を守るという私たちの公約に沿ったものであり、私たちは記事の削除やユーザーの特定を求める要求に対し、定期的に実施しています(詳細は透明性報告書を参照ください)。
私たちの拒絶が訴訟に至る必要はありませんでした。パブロビッチが満足しなかったとしても、彼はウィキペディア編集者コミュニティと直接議論することができます。これは「法的な脅かし」でできることではなく、ウィキペディアンに対して、ウィキペディア自身の理念によって記事を改善できると納得させることでできます。ウィキペディアを改善するために、法律以外の理由で内容を削除するのは、編集者にとって自然です。
訴訟について
そのかわりに、パブロビッチは訴訟をエスカレートさせました。彼はミュンヘン第一地方裁判所に対し、財団がウィキペディアの検閲をするように訴えたのです。彼は、2022年のEU司法裁判所(ECJ)の、企業データへのオープンアクセスに大きな打撃を与えた判決を含む、ドイツとヨーロッパ連合(EU)の法律に基づき主張しました。
パブロビッチの訴訟は私たちのチームにとって、私たちが返答しなければならない法的書状が膨大に付けられた、特に集中力のいるものでした。パブロビッチの弁護士が出した質問に私たちが包括的に答えるたびに、彼らは新しい法的書類を法廷に持ち込んだのです。それはたいてい初期の論争を繰り返したもので、私たちからみると、中身が薄くあるいは無関係な主張を持ち込むものでした。彼の弁護団が裁判官の前で口頭弁論した後でも、これは判決前の最後のステップですが、彼らは法的に訴え続けたのです。
ホーガン・ロヴェルズ法律事務所の優秀な地元弁護士たち(こちらとこちらを参照)と共に、私たちは常に強靭で創造的な防御策を講じました。しかしながら、結局のところもっと簡潔な方法で反論することにしました。これは異例なことで、リスクが大きいですが、というのは裁判所によっては失礼に当たるかもしれず、要約だけの書類は「骸骨」と呼ばれ、説得力に欠けると考えられたからでした。しかし地元の法律事務所のための財団の予算は多くはなく、内部の弁護士も少数でした。財団の法律チームには今や世界中の「オンラインの安全性」法の要望の波に対処しなければなりませんでした。例えば、EUデジタルサービス法(DSA)や、イギリスのオンライン安全法などです。こうした状況により、このような訴訟の場合に私たちはできるだけより能率的で、創造的で、効果的に行う必要がありました。
私たちは、パブロビッチのやり方は私たちを打ちのめすように作られている、と考えました。プレッシャーをかけることで相手を黙らせ、あるいは少なくとも、私たちの防御策が法的あるいは論理的誤りを犯すように追い込もうとしたのです。パブロビッチの弁護団が最終的に、彼らが要求した検閲を私たちが実行する場合にのみ訴訟を中止すると申し出た時、私たちは全く驚きませんでした。
パブロビッチは当初、何年もかけて上訴するつもりでした。しかし、実際に控訴したところ、彼は敗訴する可能性がますます高くなりました。続ける代わりに、彼は訴訟を取り下げ、ウィキペディアの記事は正しい情報源と関連性のある公開情報として保護するという、最終判決に至ったのです!
市民参加に反対する戦略的訴訟 (SLAPPs) の詳細
私たちはこの事例を、残念な典型的戦略訴訟と見ています。ヨーロッパにおけるSLAPP問題は、マルタのジャーナリスト、ダフネ・カルーアナ・ガリジア(反汚職報道と2017年の悲劇的暗殺で国際的に有名)に敵対する多くの人々によって起こされた膨大な訴訟によってもっとも醜悪に証明されています。2017年に暗殺されるまでに、カルーアナ・ガリジアは40件以上の名誉棄損訴訟に直面していました。これにより遂にEUは反SLAPP法を成立させました。イギリスもまた「反SLAPP」と呼ばれる改革を可決させましたが、それは「経済犯罪」に関する出版物に限った適用でした。一方では、欧州評議会(EUだけでなく、イギリス、スイス、ウクライナ、トルコなど非EU諸国を含む)が2024年4月に加盟国に対する勧告を採択しました。これらの影響はまだわかりません。
財団は毎年SLAPPに類するいくつもの訴訟に直面しています。彼らは、インターネットをいつでも誰にとってもより良い場所にするのを支援しようとする私たちや関係者の資源を奪おうとしています。たとえ私たちが訴訟に勝ったとしても、私たちが費やしたものを敗者が弁済することはまれです。もっと悪いことに、ウィキメディア財団はアメリカ合衆国に拠点を置く非営利組織ですが、ウィキメディア・ムーブメントの中でこうした問題に対処しているのは財団だけではないのです。個人のボランティアも、提携団体といったボランティアグループも、同様にこうした問題に直面しています。たとえば昨年スペインでは、辞職前のルイス・ルビアレスの評判を「守る」無駄な試みのために、ウィキメディア・スペイン協会に対して起こされた不当な訴訟に財団は対処しなくてはなりませんでした。一方で、私たちのポルトガルの訴訟、セザール・ド・パソ訴訟は、まだ決着していません。そしてこのド・パソ訴訟のように、原告はしばしば地元法務官を説得してウィキペディアのボランティア編集者を攻撃します。非合法に直面した編集者のプライバシーを守るのは、私たちの重要な仕事です。
結論
私たちは世界中の立法府が、反SLAPP改革に勇気を持ち効果的に対応してくれるのを望みます。その際に、彼らはジャーナリストや内部告発者を守ることに加え、ウィキペディアのようなプロジェクトや、それを可能にする何千もの市民や組織を守ることも重要であるのを忘れてはならないのです。
反SLAPP改革は全体像のほんの一面です。フランスのデータ保存法のようなプライバシー侵害法や、オンライン・アイデンティティ要求の出現、政府当局にコンテンツの削除を命令する権限を十分に規制していない法律も、重要な問題です。
こうした問題にひとつずつ取り組むことで、私たちの国会議員と裁判官は、インターネットの最良の部分を保全し発展させるために不可欠な役割を果たすことができるのです。今週、私たちはミュンヘン地方裁判所の裁判官に感謝します。
私たちは、世界中で自由でオープンな知識の創造とアクセスを守るウィキメディア・ムーブメントを支援している、何百万ものボランティア編集者と寄付者の方々に対し、心からの感謝を捧げ続けます!
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