ウィキペディア編集者が東京都の三康図書館を見学

2022年9月、ウィキペディア編集者数名が、東京都港区の三康図書館を見学した。参加したウィキペディア編集者は、さえぼー(シェイクスピア研究者の北村紗衣)、のりまき稲門ウィキペディアン会Eugene Ormandy であった。そのほかにも、琉球史研究者で、ウィキペディアも研究対象としている伊藤陽寿大宅壮一文庫職員の鴨志田浩が参加した。

本稿では、その見学会について詳述する。

三康図書館外観 (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0)

見学会の経緯

2022年の夏ごろから、三康図書館職員の新屋朝貴は、図書館で開催されるウィキペディア編集イベント(エディタソン)に関心を抱くようになった。そのきっかけは、北村が執筆した記事「大宅壮一文庫でウィキペディアを書く」であった(『白水社の本棚』2022年夏号収録)。この記事は、大宅壮一文庫で開催されたエディタソン WikipediaOYA を紹介している。新屋は記事を読んで、三康図書館でも同じようなイベントを開催できないかと考えるようになった。

2022年9月、新屋から相談を受けた伊藤は、さえぼー(北村)、のりまき、Eugene Ormandy に話を持ちかけた。当然ながら全員が興味を示したので、エディタソンの準備を兼ねた図書館見学会を実施することになった。また、WikipediaOYA の開催に協力した、大宅壮一文庫職員の鴨志田も見学会に参加することになった。

書庫見学

見学会当日、まずは書庫を見学した。三康図書館は一部閉架式だが、今回は特別に閉架書庫も案内していただいた。

閉架書庫は「第一書庫」から「第五書庫」の5つのエリアからなり、児童書や学習参考書といった子ども向けの書籍から、戦時中に検閲対象となった書籍まで、様々なジャンルの資料が収蔵されている。三康図書館が収集した資料のほかにも、歴史や軍事関係の資料がそろう「竹田宮文庫」や、仏教書の「増谷文庫」といった、特別コレクションも収められている。さらには、文学作品の同人誌など、通常の公共図書館にはあまり収蔵されていない資料もあった。

三康図書館書架 (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0)

三康図書館は、仏教研究を目的とする三康文化研究所の附属図書館という立ち位置ではあるが、仏教書以外の資料も数多く所蔵している。その網羅性について、大宅壮一文庫職員の鴨志田は「書庫自体がひとつの大きな百科事典とも言える」と述べた。

三康図書館のカード目録 (Eugene Ormandy, CC-BY-SA)

なお、これらの資料の中には、OPACに反映されていないものもあり、そのような資料は冊子体の目録を用いて検索するとのことであった。

エディタソン開催に向けた打ち合わせ

書庫を見学した後、エディタソンについての打ち合わせを行った。

編集する記事について

上記のとおり、三康図書館には様々なジャンルの資料が揃っている。そのため、どの分野のウィキペディア記事も編集できそうだという意見で一致した。また、著作権が切れた資料を撮影し、ウィキメディア・コモンズにアップロードするのも面白そうだという声も上がった。

なお、三康図書館にまつわる写真や各種資料については「図書館がクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付与した独自のデジタルアーカイブを作った上で、ウィキメディア・コモンズに移植するのが本来望ましい形かもしれない」という指摘もあった。

具体的な実施計画について

2022年9月現在、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的として、三康図書館は入場人数を制限している。そのため、エディタソンは招待制で行うこととした。また、レファレンスに対応する職員の数も限られているため、参加者には事前に編集項目を決めてもらうことにした。

なお、エディタソン開催時は、電源タップと Wi-Fi の確保が必須となる。図書館によっては苦労するポイントであるが、三康図書館は電源、Wi-Fi ともに完備されており、全く問題なかった。

イベントのアーカイブ方法について

エディタソンの目標として「きちんとイベントのアーカイブを遺し、発信すること」が掲げられた。発信するメディアとしては、ウィキペディア上のプロジェクトページ、ウィキメディア財団の公式ブログ、国立国会図書館のウェブサイト「カレント・アウェアネス・ポータル」などの名前が上がった。

感想

三康図書館は非常に魅力的な図書館だった。見学会に参加したウィキペディア編集者たちも「貴重な資料を見ることができて楽しい」「ウィキペディア執筆に活用できる資料も多い」「今度友人を連れてきたい」といった感想を述べた。このような素晴らしい図書館でエディタソンを開催するのが、今から待ち遠しい。

また、WikipediaOYAの主催者としては、自分が開催したエディタソンが、別のエディタソンのきっかけになったことが非常に嬉しい。三康図書館でのエディタソンも、新たなウィキメディア・ムーブメントに繋がれば幸いである。