ウィキペディアンの Eugene Ormandy と Takenari Higuchi が、2023年4月のウィキペディアの動向を振り返るオンライン対談を行いました。なお、前月の対談は以下のとおりです。
Eugene Ormandy
稲門ウィキペディアン会のメンバー。編集分野はクラシック音楽の演奏家、喫茶店など。2023年4月の印象に残った音楽は、YOASOBI のシングル「アイドル」、NewJeans のシングル “Zero,” サンダーキャットのシングル “No More Lies.”
Takenari Higuchi
早稲田Wikipedianサークルのメンバー。編集分野はイスラーム、歴史、ポップカルチャーなど。2023年4月の印象に残った音楽は、Serph, Sohn Jamal & Aqira Klosawのアルバム “Simfuman Fortitude.”
2023年4月の気になったニュース
Takenari Higuchi
EUがウィキペディアを “VLOP (Very Large Online Platform)” に認定したニュースが気になりました。VLOPに認定されたプラットフォームは、EUのデジタルサービス法を遵守する必要があるのですが、ウィキペディアを運営するウィキメディア財団は、5月4日の声明でこの決定を非難しています。
Eugene Ormandy
今後の動向を注視する必要がありますね。
Takenari Higuchi
そうですね。Eugeneさんはどんなニュースが気になりましたか?
Eugene Ormandy
4つあります。1つ目は、Online Safety Bill により、イギリスでウィキペディアの閲覧ができなくなるかもしれないというニュースです。Takenari さんが紹介した EU の事例と同様、こちらもオンラインプラットフォームの規制に関するニュースですね。BBC, ガーディアン、ザ・テレグラフといったいわゆる「高級紙」が、一斉にこのニュースを報じたのも印象に残りました。日本のメディアも頑張ってほしいところです。
- “Wikipedia will not perform Online Safety Bill age checks” – BBC
- “UK readers may lose access to Wikipedia amid online safety bill requirements” – The Guardian
- “Wikipedia could be taken offline in the UK” – The Telegraph
2つ目は、「アカン語」版ウィキペディアが閉鎖したニュースです。閉鎖に至る議論によると、「アカン」は1つの言語を指す言葉ではないとのこと。「アカン」を構成する言語の一つであるトウィ語で書かれた記事が、「トウィ語版ウィキペディア」と「アカン語版ウィキペディア」に混在しているなどのトラブルを受けて、アカン語版ウィキペディアが閉鎖となったそうです。
3つ目は、ウィキメディア財団の年次計画草案が公開されたことです。草案によると、財団の財政状況はなかなか厳しいようで、今後どうなるか注目です。EUやイギリスによる規制への対応で、さらにコストが増加することも考えられますしね。
ウィキメディア運動はその成長のほとんどを特定の財務モデル(バナー告知による募金)に頼って進めてきましたが、限界に達しつつあります。
年次計画草案(日本語訳)より引用。Meta [[ウィキメディア財団 年次計画/2023-2024]] 2023年4月25日 (火) 01:56 (UTC) 版。
4つ目は、The Museum of Northern California Art で “Northern California on Wikipedia” という展示が行われたことです。この展示では、ウィキメディア・コモンズのユーザーでもある写真家 Frank Schulenburg さんの作品が展示されました。
美術館でウィキペディアを編集するイベントや、美術館の資料をウィキメディア・コモンズにアップロードするイベントは、これまでも色々と行われていますが、ウィキメディアンの作品等を展示対象とするイベントは珍しいなと感じました。今後、ウィキペディアをモチーフとした美術作品の展示などがあれば面白いなと思います。
2023年4月の編集活動
Takenari Higuchi
4月はあまりウィキペディアを編集しませんでした。その代わり、ウィキメディア財団のブログ Diff に「データベースとWikimediaのさらなる連携に向けて:メディア芸術データベースの活用事例」という記事を寄稿しました。日本の文化庁が運営するメディア芸術データベースを、ウィキペディアやウィキデータに活用した事例をまとめています。
Eugene Ormandy
4月は各種イベントにあわせて小規模加筆を行いました。
神奈川近代文学館と神奈川県立図書館で開催された第9回 Wikipediaブンガクに参加した際は、ウィキペディアの各種映画記事に、映画監督の小津安二郎による評価を書き加えました。このイベントは、小津に関するウィキペディア記事の充実を目標としたものだったのですが、私は映画が大変苦手で、小津に関する知識もほとんどなかったので、その状態でどうすれば有意な編集ができるか知恵を絞りました。その模様は Diff にまとめています。
また、東京23区の公共図書館を訪問してウィキペディアを編集するというシリーズを立ち上げたので、その一環として東京都の荒川区に関する記事をいくつか加筆しました。
また、ウィキペディアに言及している書籍等の、読書感想文シリーズも新たに立ち上げました。ウィキペディアに関する言説はきちんとアーカイブされないとマズいという危機感を抱いているので、無理のない範囲で続けていこうと思います。
他にも、いくつか Diff の記事を作成しました。
2023年4月の気になった記事
Takenari Higuchi
大幅に加筆された [[アイヌの歴史]] という記事が印象に残りました。このような重要な記事が整備されるのは良いことだと思います。Eugene さんはどのような記事が気になりましたか?
Eugene Ormandy
ジェルジ・リゲティが作曲した [[ル・グラン・マカーブル]] という「オペラ」の記事が新規立項されたことに狂喜乱舞しました。特に演奏会用に編曲された『マカーブルの秘密』という作品が私は大好きなので……。
あとは、[[東京オーケストラ団]] という記事も興味深かったです。スポンサーや演奏機会の確保はどこも大変だよなあと感じました。
まとめ
今月も楽しい対談でした。EUやイギリスによる規制に、今後どのような動きがあるか注目ですね。