キャリア教育とウィキペディア / 松原市の中学生向けライフ・キャリア図鑑「COMPASS」にウィキペディアンとして登録する

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松原市は、大阪府の南河内地域にある自治体です。2023年10月、このまちで初めてのウィキペディアタウンが開催され、筆者はWikipediaのコミュニティや編集方針などについて説明する講師として協力しました。このエディタソンでは、参加人数としては小規模ながら地元の高校生から高齢者までの幅広い年代の地域住民が参加し、Wikipedia日本語版に以下の4つの項目が新たに立項され(うち、3記事がメインページ掲載)、2つの項目が加筆されました。

主催者の松原市から、新たなプロジェクト「COMPASS」へのお誘いをいただいたのは、それから2カ月後の2023年12月のことです。松原市教育委員会では、義務教育の中学校で従来から行われてきた職場体験学習に変わる取り組みとして、「人生のコンパス(羅針盤)」となるようなウェブサイト「COMPASS」を、静岡大学の研究室と共同で開発していて、それは、様々な大人たちが「現在(いま)」「経験」「これから」を通じてそれぞれの人生を語り、時にオープンチャットで中学生たちの質問に回答するというキャリア教育システムでした。

1回目の試験運用は数ヶ月かけて行われ、利用した中学生から効果や使い勝手などについて意見を集められました。今後、さらに対象範囲を拡げて試験運用が行われ、本格始動をめざすこのシステム…………中学生が将来豊かな人生を歩むための「COMPASS」に、2024年8月現在、登録されている初期メンバーは30人。そのうちのひとりに、「ウィキペディアン」として私も登録されました。

中学生への羅針盤 / ライフ・キャリア図鑑「COMPASS」にウィキペディアンとして参加する 

「人が100人いれば、働き方、余暇の過ごし方、価値観、大切にしていることなど、その生き方も100通り」……大阪府松原市が静岡大学と協同で開発を進める中学生向けのライフ・キャリア図鑑「COMPASS」のウェブサイトは、そんな一文から始まります。

  • 松原市の公式発表「ライフ・キャリア図鑑「COMPASS」の開発を進めています」
  • ライフ・キャリア図鑑「COMPASS」の概要
  • 教育新聞の報道「仕事重視のキャリア教育を転換 多様な大人の生き方図鑑」

私は、「小・中学生の頃はどんな子どもでしたか?」や「今の仕事をしている中で、どのような学びや経験・体験が役に立ちましたか?」など5つの質問に回答する形でプロフィールを作成し、最後に「中学生のみなさんへのメッセージ」として、「あなたがそこにいることが当たり前という場所を大切にしましょう。まず家族、それから学校、そしてもうひとつかふたつ、社会のなかに、あなたがそこにいることが当たり前になるような、居心地のいい場所を持ちましょう。人生には様々なことがあります。あなたの未来はだれにも予測できませんが、何があっても、その喜びや悲しみを共に喜び、共に悲しんでくれる人との出会いが、あなたを強くするでしょう。」と書きました。

このプロジェクトへの協力は、無償のボランティアです。なにかコメントが届いたら、仕事など生活の負担にならない範囲で回答してあげてほしいと求められていましたが、まあ、そんなにがんがんと問い合わせがあるようなものでもありません。数週間後、「Wikipediaはすぐに、たくさんのことを知ることができるので、何かを知ることに興味がわくようになりました。」というコメントをいただいたので、「Wikipediaには日本語版だけで現在140万項目以上、毎日100本前後の項目が新しく作成されているので、たいていのことは書いてあるように思われ、気になることをちょっと調べたいときにとても便利ですよね。ぜひ、興味を持った項目の記事から、青リンクをどんどんクリックした先を読んでいくなど興味を広げてみてください。でも、ひとつだけご注意を。Wikipediaはボランティアで誰でも簡単に編集できてしまうので、書いてあることが正しいとは限らないし、書きたいと思う人がいなかった内容は書いていないんです。Wikipediaは便利だけれど、書いてあることが全部とは思わず、出典となっている本や新聞やその他のウェブサイトなどとも読み比べながら活用してほしいなと思います。そしてもし、あなたが何かの本や新聞などで読んだ情報がWikipediaに書いていないのを見つけたら、ぜひそれを出典に「編集」してみてくれたら、嬉しいです!(ちゃんと出典が付いている記事なら、文章の終わりにある青い数字をクリックすると情報源がわかります。)」と返しました。

そんなある日、ふと松原市に関係するWikipediaの記事で、きちんと文献から出典を付けて数十バイトの編集をしている新規アカウントを見つけました。さらに数週間後、そのアカウントと同じ日に同じ記事で、同じように小さいながらもきちんと方針を守って編集している新規アカウントがもうひとつ、デビューしていました。(これは、もしかしてCOMPASSの影響? 喜んでいいやつかな……)と思っていたら、「喜んでいいやつだよ」と関係者が教えてくれました。

Wikipediaは自由なものです。どこかでWikipediaの編集を学んだとしても、その人がその後もWikipediaに関わり続けるかどうかは、他の誰にも予想も把握もできず、私たちは、私たちのアウトリーチ活動の影響をはっきり証明できることは多いとは言えません。私たちは日々、砂漠に水を播くように、いつか芽が出ると信じて活動を続けていますが、それでいいのだ、と、改めて感じた経験となりました。

(*画像はイメージです。University of Michigan School for Environment and Sustainability from Ann ArborCC BY 2.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)

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