イベントレポート2024 / №15 ウィキペディアタウン in 半田運河 

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2022年11月、日本最大の図書情報学分野のフォーラムである図書館総合展に、広く多くの人々のウィキメディア活動を紹介する場として初めて「ウィキペディア展覧会」を出展しました。このとき、広く日本各地のウィキペディア・アウトリーチ活動に関連する情報を蒐集する中でエントリーされたウェブセミナーのひとつに、有形文化財の保存活用に関わるシンポジウム「情報発信による登録有形文化財の保存と活用」があります。

そこで発表された事例のひとつが、「文化財×ウィキペディアタウン −基礎知識と成功のコツ」 と題した愛知県半田市観光協会の職員による、2019年2月に半田市で開催されたウィキペディアタウン「ふるさと半田応援団」の取り組みのねらいと、反省点でした。

シンポジウムを主催した「愛知登文会」では、その翌年から定期的にウィキペディア勉強会を開催し、これは愛知県内の登録有形文化財項目のWikipedia項目を網羅するプロジェクトに発展します。このウィキペディア勉強会についての詳細はまた後日のお楽しみとして、本稿では、5年ぶりとなる2024年10月27日に開催された半田市でのウィキペディアタウンについて紹介します。

半田運河と運河沿いの倉庫群 名古屋太郎, CC BY-SA 3.0, https://w.wiki/CCto ウィキメディア・コモンズ経由で

(半田運河と運河沿いの倉庫群 名古屋太郎, CC BY-SA 3.0, https://w.wiki/CCto ウィキメディア・コモンズ経由で)

edit Tango参加イベント2024 / №15 愛知県半田市 ウィキペディアタウンin半田運河

2019年2月に半田市で開催されたウィキペディアタウン「ふるさと半田応援団」は、この頃、日本各地の公共図書館等で急増していたウィキペディアタウンの取り組みを把握していた市や大学講師によって、半田市に関する情報を充実させたいと企画されたものでした。2項目が新規立項、3項目が加筆修正され、参加者20余名の満足度はおおむね高かったと言われています。しかし、このイベントで新規に立項された2項目はイベントに参加していないウィキペディアンにより即時移動(記事名の簡略化)と即時削除(既存記事からの履歴継承不備)の対応が取られました。それぞれ、コミュニティの方針に則りよくある展開でしたが、初めての試みでいわば無言でダメだしを食らったことになる講師や主催者は、引き続きウィキペディアタウンに取り組む意欲を挫かれることになりました。

シンポジウムに登壇した半田市の池脇氏は、2019年の経験を踏まえ、Wikipediaの有用性をアピールする一方で「実際の編集企画の開催にあたってはWikipedia編集者に相談し、慎重に検討するべき」と繰り返され、ウィキペディア展覧会事務局担当としてシンポジウムをZoom聴講していた私から、その場で簡単にWikipediaの方針と編集上の留意点について解説する流れになりました。

このシンポジウムでの出会いが翌年からスタートするウィキペディア愛知登文会開催のきっかけになったわけですが、その愛知登文会の会長の自宅である重要文化財「小栗家住宅」を拠点に、2024年4月に半田市の観光やまちづくりの拠点として、ワークスペース付きのカフェ「_unga」(スペースウンガ)が開業します。「_unga」は観光客にとっては地域情報を提供するカフェであり、このまちづくり団体の名称でもあります。

「ウィキペディアタウン in 半田運河」は、この「_unga」メンバーを中心とするWikipedia編集会として企画され、担当者は異なりますが半田市観光協会としては二度目のウィキペディアタウン・チャレンジとなりました。

小林家住宅の白モッコウバラ OGXIV, CC BY-SA 4.0 , https://w.wiki/CCtr ウィキメディア・コモンズ経由で

(小林家住宅の白モッコウバラ OGXIV, CC BY-SA 4.0 , https://w.wiki/CCtr ウィキメディア・コモンズ経由で)

地元まちづくり団体メンバーの勉強会という性格が強めのウィキペディアタウンということで、「ウィキペディアタウン in 半田運河」は、まちあるきなど観光要素を採り入れた終日企画ではなく、団体の主催する他のイベントの合間をぬっての2時間がイベント時間と設定されました。ほとんどの参加者がWikipedia編集の未経験者であろうイベントで、ガイダンスも含めてWikipedia編集を2時間で行う、というのはかなり短い時間設定です。しかし、地域の事情は様々で、過去にも他方では「この地域の多くの人は家族のご飯を支度する必要があるから、昼過ぎから遅くとも夕方17時くらいまでのイベントしか参加しない」といった地元の人の分析をされたイベントもありました。ボランティア活動であるWikipedia編集を普及させるには、人々の暮らしの中に無理なく取り組める活動でなくてはいけないので、そこは配慮しなくてはいけません。

このスケジュールの制約により、当日には①題材である半田運河についての解説や紹介は無い(参加者には既知の内容であるという理由もある)、②会場は図書館ではなくその場で文献探しはできない、というわけで、まず地元民ではない講師の私が、いちばん事前に半田運河について勉強し、題材をあらかじめ把握しておく必要がありました。しかし、ローカルな題材の文献は、せめて同じ愛知県内の公共図書館や、場合によっては同市の図書館でレファレンスをしないとなかなか揃えられるものではありません。半田市は私の居住地からは遠く、高速道路を使っても片道3時間以上のコストがかかる事前調査はむずかしいと思われましたが、幸運にも10月上旬に北海道栗山町でのウィキペディアタウンへの移動のルート上に半田市を加えることは難しくなかったため、北海道移動の使用空港を半田市の隣の常滑市にある中部国際空港を利用することにし、その帰路で半田市中央図書館で関係資料をあたりました。この時に複写しておいたいくつかの資料が、イベント後の項目のブラッシュアップで大いに役に立つことになります。

また、ウィキペディア愛知登文会に参加していた同県のウィキペディアン達も協力し、事前に半田市を訪れて写真を撮影したり、県内その他の公共図書館で、当日は持ち込むのが難しいだろう新聞記事などの出典資料を集めてくれていました。

1935年の木版画「尾州半田新川端」 川瀬巴水, Public domain, https://w.wiki/CCtn ウィキメディア・コモンズ経由で

(1935年の木版画「尾州半田新川端」 川瀬巴水, Public domain, https://w.wiki/CCtn ウィキメディア・コモンズ経由で)

当日は、夜に予定されている「_unga」主催企画の準備と並行し、途中の出入りもある10余名参加のエディタソンとなりました。事前に企画進行を相談していた3名以外は全員がWikipedia編集は初めてで、当日にアカウントを取得した人もいます。まずは1行でも出典を付けてWikipediaを編集してみようというのが、このような短時間イベントでよく設定される目標ですが、「半田運河」は新規立項なのである程度きちんと内容を網羅しておかなくては、項目そのものが存続できませんし、この企画の参加者のねらいは半田運河の情報を発信することにあり、出典の付け方ひとつ学んで満足というものではありません。「半田運河」は、地理や歴史のみでなく、産業やまちおこし、芸術の観点からも言及する内容があり、Wikipedia項目としては多様性がある魅力的な題材でもありました。そのため、参加者全員で興味ある部分について、細かく節を分担しながら「半田運河」の項目を立項するもの、と、想定していましたが、半田運河エリア全体を俯瞰すると他にも「この項目がまだ無いの!?」という題材が多々あり、参加者の希望する編集題材は割れることになりました。

予定していなかった題材は文献も用意がないのでWeb出典だけで立項することになり、通常自分が立項したい題材であれば、私は「いまは難しいので、また後日に改めて」と判断します。イベントに協力していた他のウィキペディアン達も、これが自分自身の興味関心事であれば、同様の判断をしたでしょう。しかし、1回きりかもしれないイベントに参加してサポートを受けながらそれを書きたい・書けると思った人に、「また後日」という選択はありません。そしてWikipediaはその題材が「Wikipedia:独立記事作成の目安」を満たしているなら、それを書くなと言う権利は他の誰にもなく、編集参加への意欲は奨励されるべきものです。

ごく短時間のイベントで文献を読み解いて題材を理解し適切な文章を練ることを、初めてイベントに参加する人々の多くはもっと簡単な作業だと考えており、そのような人々にとっては、Wikipediaの方針やガイドラインも実感を伴わない段階では正確には理解できないことも多いです。しかし、「できない」ことを実感しただけでイベントが終わってしまったら、その参加者はもう二度と編集活動に参加してくれないでしょう。誰かにウィキペディアンになってくれることを期待するなら、そのひとりひとりに対して丁寧なガイダンスやサポートをすることが必要ですが、イベントの場では、このサポートは時間とのたたかいでもあります。

私ひとりではおそらく多くを取りこぼし、サポートを期待していた新規参入者にとって不満の残る結果になったであろうところを、user:円周率3パーセントさんやuser:Asturio Cantabrioさんといった地域事情にも明るい地元ウィキペディアンのふたりがイベントに参加していて、私の耳目の及ばないところで多くのフォローや初心者へのガイダンスをしてくれたおかげで、短くも濃密な、参加者の皆にとって満足度が高いといえるだろうエディタソンにすることができました。

ウィキペディア編集に慣れた経験者たちが、そうした不慣れな参加者に共感し彼らに寄り添い丁寧にサポートをした影響は、今後、半田市のウィキペディアタウンの継続開催や、参加された地元の皆さん個々のWikimedia運動参加への大きなモチベーションとなることでしょう。みなさん、ありがとうございました。ウィキペディアタウンの取り組みは一朝一夕で成果を得られるものではなく、課題は多くありますが、まずは最初の一歩を進めたことを喜びたいと思います。

漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://w.wiki/CCtk ウィキメディア・コモンズ経由で

(漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://w.wiki/CCtk ウィキメディア・コモンズ経由で)

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