イベントレポート2024 / №17 Wikipedia ブンガク vol.12 安部公房

Translate this post

Wikipedia ブンガクは、神奈川県の神奈川近代文学館の企画展にあわせて年2回開催されているWikipediaエディタソンです。近代文学館の学芸員から企画展の解説をしてもらい、展示鑑賞で題材について自主学習した後、神奈川県立図書館に移動して任意の項目を文献調査し、Wikiepdiaを編集するというスタイルのWikipediaエディタソンで、近代文学館の取り組みを応援したいと考えた同県の図書館司書により2018年2月に初開催されて以来、連続企画として12回目を数えました。

edit Tango参加イベント2024 / №17 神奈川県横浜市 Wikipedia ブンガク vol.12 安部公房

題材が日本の高校ではおなじみの文学者ばかりということもあり、伝統的に神奈川近代文学館での「Wikipediaブンガク」は、神奈川県近郊の学校図書館司書、すなわち筆者の同業者の参加が多いエディタソンです。なかには私がウィキメディア活動を始める以前からの知り合いも毎回何人か参加していたりするため、私はこのWikipediaブンガクを旧友との知的交流機会として個人的に楽しみにしており、初期の頃から日程の都合があえば参加してきました。といっても、自家用車で片道8時間を要する道程は近くはないので、過去12回のWikipediaブンガクで参加したのは今回が4回目になります。

今回は、同じ横浜市内で11月5日から7日にかけて開催される図書館総合展にウィキメディア運動の普及啓発ブース「ウィキペディア展覧会」を出展する予定があったことも、大きな参加理由でもありました。日程の都合が合うというばかりでなく、Wikipediaブンガクには、ウィキペディア展覧会に登壇したりスタッフとして参加する予定のウィキペディアンがこの日、少なくとも4名は参加するとわかっていたため、ウィキペディアストアでまとめて購入したスタッフ・ユニフォームや、総合展の出展者用入場券の受け渡しなどの手続きを、このイベント前後で片付けてしまうことができたのです。また、この前日の11月2日に愛知県名古屋市で参加した「Wikipedia ARTS in AOAA」(イベントレポート2024 / №16)の主催者が次回開催を予定している「Wikipedia ブンガク 小酒井不木」企画の広報資料も預かっていたため、その情報も伝達し、広報に協力いただくことができました。郵送やメールといった手段ももちろん現代にはあるわけですが、直接出向く機会があるなら直接行ってしまうほうが気楽な気がするのです。みなさんはどうですか?

第12回目のWikipediaブンガクとなった今回の題材は、映画やラジオドラマの脚本も多く、海外でも人気が高いという安部公房でした。代表作のひとつ『砂の女』は、日本の高校では夏休みの宿題・読書感想文の課題図書としてお馴染みの作品で、実は私が高校の学校図書館司書の仕事に就いて一番最初に購入した本でもあります。もともとの蔵書が多数の人に読み継がれるあまりにボロボロになっていたので見かねて買い直したのですが、正直、当時の私にはこのお話がどうしてそこまで人気があるのか、理解に苦しむ1冊でもありました。私自身が高校生の頃には、ホラーのようなファンタジーのようなよくわからない話、と、途中で読むのを止めた作品だったのです。しかし、今回「Wikipediaブンガク」に参加するにあたり、Wikipediaで「砂の女」の項目を読んで概要を把握し、ラジオ番組で専門家の解説を聞いてから改めて読んでみると、これが面白い! 安部公房が作品に込めた時代背景と風刺をそこかしこから読み取ることができました。私が年齢を重ねて視野が深まったのか、はたまた単にWikipediaであらすじを把握したから物語の不可思議な世界観の理解に悩むことなく作品の本質に迫れたのか、理由は定かではありませんが、「映画は2度観ると伏線を見逃さず良い」というのと同様、文学はWikipediaで概要を把握してから読むといいのかもしれません。

(会場に用意されていた資料の一部 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 ウィキメディア・コモンズ経由で)

そんな安部公房は、たんに文学者というだけでなく、多彩な趣味や家族関係も作品世界と関係が深く、理解するには複雑かつ特筆性の高い人物です。近代文学館でも取り上げる内容の多さに苦慮したのか、通常の企画展よりもかなり広いスペースが今回の特別展には割かれていたようでした。たいへん見応えのある企画展であり、図書館に用意された文献資料もこれまでのWikipediaブンガクと比べても多く感じられたのですが、その多さゆえに、安部公房に関わる何を編集したものか、私は題材を決めるところでたいへん悩むことになりました。なにを選んでも書くことは多く、しかし、私の地元の図書館では安部公房についてあまり多くの文献は参照できないことがわかっていたので、このイベント時間内で一段落できるくらいの題材を扱いたいと考えていたからです。

まず興味を持ったのは、Wikipediaに項目が無かった『兵士脱走』という1958年作のラジオドラマでしたが、これが原作小説を探しても見つかりません。この物語、実は1957年に書かれた小説は『夢の兵士』というタイトルで、さらに1959年に書かれたテレビドラマの脚本では『日本の日蝕』、1960年に書かれた戯曲では『巨人伝説』とタイトルをがらっと変えていることは、近代文学館の企画展で知りました。企画展を観ていなかったら、私はこれらをベースが同じ作品と気づくことはなかったかもしれません。改題にはそれなりの理由があるのだとは思いますが、なんと読者泣かせの作家なのだろう、と思ったところで、この改題に悩まされる“第二の私”のため安部公房のWikipediaに「同一作品の改編」歴の一覧表を付け加えようと思い立ちました。

安部公房全集の索引巻から、片っ端から引いては分野別に制昨年を書き込むだけという単純作業のような編集でしたが、自分の本業である学校図書館での読書指導にも役立つ題材と思えば達成感も一際大きなものがあります。Wikipedia編集は趣味だという人も多いと思いますが、日常生活や仕事に役立つ趣味ということに気づいてもらえたら、もっと多くの人がWikipedia編集に取り組んでくれるだろうと思うので、特に出典となる文献に近しい場所にいる図書館員には、ぜひ、ウィキメディア活動に取り組んでもらえたら嬉しいです。

(会場に用意されていた資料の一部 漱石の猫, CC BY-SA 4.0 ウィキメディア・コモンズ経由で)

Can you help us translate this article?

In order for this article to reach as many people as possible we would like your help. Can you translate this article to get the message out?