ウィキメディアンの読書記録:大野和基『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』

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稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。本稿では、大野和基『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』に登場した、ウィキペディアに関連する記述を紹介し、簡単に感想を述べます。

Uraniwa, CC0

書誌情報

オードリー・タン (CC0)

概要

本書では、ウィキペディアに関連する記述が3つ登場していました。以下引用します。なお、全て編者大野によりまとめられた、台湾の元デジタル担当大臣オードリー・タンの発言です。

1つ目の記述

私にとって「学校」とは、人々が一緒に学ぶところを意味します。それは公のインフラのようなもので、いまでは誰もがオンライン上でも情報収集や学習ができたり、人々と共通の価値のもと意見のやりとりをしたりすることができます。皆が編集していくウィキペディアも、ある意味で学校と言えます。実際、私は12歳のときにインターネットに出会い、帰国後は台湾の公立中学校へ進学しましたが、校長をはじめとする学校の計らいによって、試験以外は学校に通わずに自主学習に切り替え、インターネットの世界から多くを学びました。

上掲書、85ページ。

2つ目の記述

民主主義の維持と投票率の因果関係については厳密に研究をしたことがありませんが、私の感覚では、やはり人々が日々の継続的な民主主義を通して、公共のイシュー(課題・論争点)について気にかけていると、「誰が選挙で勝つか」についても気にするようになり、投票に行くのだと思います。台湾が実行している参加型民主主義の長所は、民主主義をより自分と直接関係があるものにすることでしょう。少なくとも余暇があれば、市民全体に関わる公共のイシューについて考えるようになります。

重要なのは、いかに公共のイシューに注目を集められるかです。人々はそれが価値のあるものだと納得できれば、考えたり貢献したりするために時間を費やそうとします。

それはウィキペディアに似ています。記事の表記に間違いを見つけて、その箇所を修正すれば、すぐに人々のプラスになります。そうして皆がもっと貢献しようと思います。それに対して、ブリタニカ国際大百科事典のように、間違いを見つけて直そうとしても数ヶ月間のプロセスを経ないといけないとわかれば、人はもっと貢献しがいのあるプロジェクトを見つけようとするでしょう。

上掲書、146-147ページ。

3つ目の記述

何か調べ物があってグーグル検索などで情報にあたるときにも、その情報の出所となる情報源の出典がある場合とない場合がありますが、出典がないものは、偏った情報であるかもしれないと認識した方がいいでしょう。私のアドバイスは、デフォルトで文脈が組み込まれているようなメディアを熟知することです。そういう意味では、ウィキペディアは文脈化された情報と言えます。情報元の出典や引用文、編集歴、再編集歴なども示されているので簡単にたどることができるからです。実際のところ、最もアクセスしやすいメディアだと思います。

上掲書、158ページ。

感想

オードリー・タンがこれほどウィキペディアに好意的なのはありがたいなと感じました。ウィキメディア財団の最高製品技術責任者セレナ・デッケルマンのブログ記事『ウィキペディア:多世代にわたって追い求めるとは』などから、オードリー・タンがウィキペディアを高く評価しているのは知っていましたが、ここまでとは思いませんでした。以下、それぞれの記述について、一介のウィキメディアンとして簡単に感想を述べます。

1つ目の「ウィキペディアは学校」という発言は、自分にとって新鮮でした。WikiEdu英日翻訳ウィキペディアン養成セミナーなど、教育現場にウィキペディアの編集を導入する活動は多少知っていましたが、ウィキペディアそのものを学校とみなす発想はありませんでした。しかし、これまでの経験を振り返ると、たしかに自分はウィキペディアという学校から色々なことを学んでいるなと納得。たとえば、短縮リンクやリダイレクトといった基本的なIT知識は、ウィキペディアの編集を始めて知りました。

2つ目の「市民参加の成功例の1つとしてのウィキペディア」については、そのとおりだと思いました。実際、私も「自分の作業がただちに誰かの役に立つこと」に魅力を覚え、継続的にウィキペディアを編集していますからね。また、飽き性で記憶力も悪い自分にとって「ガイドライン等を遵守してさえいれば、作業を完了させた途端にその作業内容を忘れてしまって構わない」という仕組みも魅力的です。

3つ目の「文脈化された情報としてのウィキペディア」についても共感しました。「Wikipedia:出典を明記する」などのガイドラインを遵守しながらウィキペディアを編集していてよかったなと思いつつ、編集履歴を明記するシステムを維持しているウィキメディア財団は偉いなとも思いました。同時に、他のメディアももう少し出典の明記を重視してほしいものだと感じました。

まとめ

大野和基『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』に登場した、ウィキペディアに関連する記述を紹介し、簡単に感想を述べました。本稿が何かのお役に立てば幸いです。

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