今年の1月に鶴見太郎の『ユダヤ人の歴史』という本が中公新書から出たと聞き、早速本屋で買って読み始めました。著者は鶴見俊輔を父に持つ歴史学者と思ったのですが、同姓同名の別人でした。巻末経歴によると、1982年生まれの著者は東京大学で博士号を取得した後、エルサレムのヘブライ大学、ニューヨーク大学、埼玉大学などを経て現在は東京大学で准教授を務め、専門はロシア東欧・ユダヤ史、シオニズム、イスラエル・パレスチナ紛争、とのことです。副題に「古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズム」までとあるように、3000年にわたるユダヤ人の歴史を縦横にまとめた本書は、実に読みごたえがありました。
ユダヤ人についてもその歴史についても、通り一遍の知識しか持ち合わせませんでしたので、最初から最後まで初めて聞く言葉や出来事、そして人名の連続でした。読み飛ばした部分も多いですが、これはと思ったものはウィキペディアで検索しました。すると思いのほか多くの記事がでているのを知りましたが、英語版にあっても日本語版に無いものも多いことがわかりました。
最初に気になったのは、「カイロ・ゲニザ」です。「ゲニザ」というのは、ユダヤ人の使うヘブライ語で書かれた文書の保管庫のことです。ユダヤ人は「神」という言葉が書かれたヘブライ語の文書を破棄するのを忌避し、何世紀にもわたり文書を保管していたそうです。19世紀末にエジプトのカイロ旧市街で見つかったゲニザには、宗教書、公私にわたる商業文書、書簡など数十万点が含まれていました。これは貴重な歴史文書として研究が進められているそうです。ウィキペディアの日本語版には「カイロ・ゲニザ」の記事がありましたが、右のツールバーから対応するウィキデータをみると日本語版には項目を表わす「ラベル」しか書かれていませんでした。そこで「説明」の欄に「ユダヤ教徒の文書」と入れ、「別名」の欄に「ゲニザ」「ゲニザ文書」と入れました。いずれも鶴見の本に書いてあったことです。
次に目を引いたのは「アシュケナジーム」で、ドイツ系のユダヤ人のことだと書いてありました。ドイツのことをヘブライ語で「アシュケナーズ」ということから来たそうで、ソ連出身のピアニスト、ウラディーミル・アシュケナージの名前はここから来ていると知りました。ウィキペディア日本語版は「アシュケナジム」となっていましたので、ウィキデータの「別名」に「アシュケナジーム」と入れておきました。実績ある研究者の著作に使われている言い方は別名に入れる価値があると考えたからです。追記の情報源の入力はこちらの記事が参考になりますが、それをやっていると読み進めないので後回しにしました。
このほか中世のイスラム世界での繁栄、その後のオランダやポーランドでの広がり、近代のドイツやロシアでの状況、ポグロムとホロコースト、そして現代のソ連、パレスチナとイスラエル、アメリカ合衆国それぞれのユダヤ人について、目から鱗の連続の読書でした。ウィキデータの項目に加筆したのは、人物だけでも ボクサーのルー・テンドラー、弁護士のルイス・ブランダイス、ラビになった最初の女性レギナ・ヨナスなど、何人もいます。また野村真理など日本のユダヤ研究者の名前も何人も出てきたのに、ウィキペディア記事があっても対応するウィキデータの「説明」欄はほとんど空白でしたので、そこにも加筆しました。
ウィキデータの加筆作業はほんの一瞬でできる、ケシ粒のようなものです。しかしそのデータが集積され、他のプロジェクトと縦横につながることで、実に多様で有益なデータベースが構築されています。私が知っているのはほんの入り口だけですが、それでもウィキデータの魅力は計り知れないと感じています。そのケシ粒作業でウィキメディア・ムーブメントに貢献できるのは嬉しい限りです。
参考:本を読みながらウィキデータを整備する / Eugene Ormandy (Diff)

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