「Wikipediaってどうなってるの? 対面相談でのQ&A」ウィキペディア展覧会2024報告書 vol.2

Translate this post

2024年11月5日から7日の3日間に、パシフィコ横浜の第26回図書館総合展フォーラム会場では、ウィキメディア財団一般支援基金を運用したアウトリーチ活動「ウィキペディア展覧会」の提供プログラムのひとつとして、「ウィキペディアなんでも相談所」を開設しました。ここでは、1日あたり4~6名のウィキメディアンが相談者となり、ウィキペディアの仕組みや編集の実際を来場者ひとりひとりのニーズにあわせて紹介し、対話を通じてウィキメディアへの理解を深めることを図りました。

来場者ひとりひとりの質疑に、1対1で対応するウィキペディアンたちがかける時間は「来場者が満足するまで」。5分で相談終了することもあれば、1時間以上に及ぶこともあり、多くは10~30分くらいの相談時間になっていました。一見すると地味で費用対効果の悪い活動にみえるかもしれませんが、この相談会こそが、ウィキメディアの魅力を伝え、編集参加ハードルを下げることを目指す私たち「ウィキペディア展覧会」の最も重要なミッションであり、図書館総合展という一般社会の大きなイベントに出展する理由でもあります。

本稿では、Wikipediaコミュニティ内やSNSなどオンライン上での文字のやりとりでは相互理解のむずかしい編集者や、1対多数のエディタソンでは取りこぼされた初心者の“困った”を解決してきたこの相談会で、実際に寄せられたWikipediaへの疑問・質問・不平不満や期待の声と、それに対応したウィキペディアンたちの回答を紹介します。

なお、これらの事例は相談会当日にその場で記録したものではなく、翌日以降に、相談会で対応したウィキメディアンたちに書き取りしてもらった結果のまとめです。実際にはもっと数多くの質疑応答をしていますが、特に印象に残った事例として、共有された内容になります。

図書館総合展フォーラム in パシフィコ横浜 ウィキペディア展覧会「ウィキペディアなんでも相談会」

「ウィキペディア展覧会」ブースへの来場者の多くは、ここでウィキメディアについての相談会が行われているとは知らずに来場した通りすがりの人々で、そこに時折、過去にWikipedia編集経験があるもののなんらかの理由により今現在は活動していない(ほんとうは活動したい)人々が混ざっていました。相談内容やブース訪問の理由を、大きく分けて「ウィキペディアに関する疑問や質問」「WikipediaやWikimediaコンテンツの編集について」「ウィキペディアへの不満や困惑」「ウィキペディアタウンや教育利用などについて」などがありました。

ウィキペディアに関する疑問・質問

ウィキペディアの基本的な仕組みや運営主体については、特に多くの質問が寄せられました。例えば次のような質問です。

  • 「Wikipediaというサイトの仕組みについて知りたい」
    ウィキメディア財団の役割や編集者コミュニティについて説明すると、「情報の入り口として有用であり、草の根活動として素晴らしい」との意見が聞かれました。
  • 「Wikipediaは企業ではないのか?」
    「誰が作ったのか?」といった基本的な疑問も多数寄せられ、ウィキペディアが営利企業ではなく、ボランティアの手で作られていることを解説しました。
  • 「どうして図書館総合展にWikipediaが出展しているのか?」
    編集活動に典拠となる資料が必要なWikipediaと、図書館などGLAMとの親和性について詳しく説明しました。

Wikipediaの概要を説明すると、興味を持ってくれた方々の反応は様々でしたが、おおむね好意的に受け止めてもらえたように思います。例えば書店の若手社員Aさんは、話を聞いてWikipediaの基本的な考え方を理解し、編集のデモンストレーションを熱心に見学してくれました。新聞記者のBさんはWikipedia編集経験は無いとのことでしたが、「小さな記事から編集を始めたい」と言ってくださり、Wikipediaの功罪について関心があるという大学図書館員のCさんは、やや難しそうな反応を示しつつも、編集の意義について熱心にウィキペディアンと議論を交わしてくれました。

漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

Wikipedia編集方法の相談

編集方法についての質問は、Wikipediaを編集したことが無い人だけでなく、過去にウィキペディアタウンなどのエディタソンで1~2度編集経験があるもののやり方を忘れてしまった、とか、個人で編集活動に取り組んでいるもののわからないことがあるので相談したいという、ある程度の経験者が、相談に訪れるケースが多くありました。例えば、次のような事例です。

  • 「記事が作られている文人が、本名は非公開にすることを希望して筆名に変更したので、筆名にすべきと思うが、記事名の変え方がわからない」
    記事名の改名の方針ページと手順を説明しました。このとき相談されたWikipedia記事は、この時点では筆名についての公的な情報源が見当たらなかったのですが、約1ヵ月後に記事本人のSNS投稿を受けて改名提案が出され、適切な手続きを踏んで改名されたのを確認しています。
  • 「写真を載せる方法がわからない」(多数)
    Wikimedia Commonsへのアップロード手順を実演し、実際のWikipedia記事に写真を貼るところまで解説しました。なかには、「エディタソンで講師がWikimedia Commonsに写真をアップロードする場面は見たことがあるが、どうやったのか説明がなくてわからず、気になっている」という意見もありました。オフライン・エディタソンは時間的な制約があるため、図書館主催企画なら図書資料を活用するWikipedia、ハッカソン的イベントであればWikidateなど、講師が紹介する内容も限定的になるものです。エディタソンで初めてアカウントを取得して編集を始める方のように、もともとオンライン上でのつながりに馴染みの薄い人々にもウィキメディア編集者となってもらおうとするなら、この相談会のようなフォローアップの機会を作ることの大切さを痛感します。
  • 「いきなり編集するのは、なにか間違えてしまいそうで不安」
    誤って記述を削除してしまっても履歴から復元できることや、サンドボックス機能を使って練習できることを伝え、安心して編集を始められるようサポートしました。
  • 「新規記事を作りたいが、なにか準備することが必要なのか」
    記事作成には出典が必要であることを説明し、Wikipedia編集マニュアルの冊子を提供しました。

また、ウィキペディア展覧会は図書館総合展の他の出展者が企画した「ブースクイズ・スタンプラリー」にも参加し、Wikipediaの編集方法は何種類あるか?という設問をしていたので、その回答を探しに来られた流れで「ソース編集とビジュアル編集の違い」について解説する機会もあったようです。

Wikipediaに対する不満や困惑

Wikipediaに関する不満や、編集を行う上での難しさについても相談がありました。多くはWikipedia編集をしたことがある人々からで、その内容の多くは「いつのまにか編集内容が消えてしまった。何が起きたのかわからない」というタイプと、「作成した記事に警告タグが出た。どうしたら良いのかわからず、それ以来、編集するのが怖い」というタイプがほとんどでした。例えば次のような相談です。

  • 知人の大学教授のページを新規で作ったが、単独の資料からだったため『ウィキペディアは名簿ではありません』というアラートが出た。その後、追々他の資料から追記するつもりだったが、どうしたら良いかわからず、それ以来編集に近寄っていない。
    この相談者に対応したウィキペディアンは、「立項されたことで、今後追記する基礎ができたのは良いことだと思いますよ」と慰めたそうです。新規立項は初心者にはハードルが高いので、加筆する先の項目があれば少しずつでも編集を重ねるうちに、良い記事を書ける編集者になれたりするものですが、この方のその後は不明です。
  • 「自分の記事がいつのまにか消えたのだが、理由がわからない。」(複数)
    この質問は、別々の記事・別々の方から、少なくとも3人のスタッフが相談を受けたようです。いずれも新規立項しようとすると、“宣伝目的の記事”などの理由で除去されたことが確認できますが、多くの人は除去された記事を再び立てることができるとは思っていないので、「検索して、書いたはずの記事が見つからない」時点で落胆し、その原因を知ることができないままでいます。相談会では削除理由の確認方法を伝え、Wikipediaの「独立記事作成の目安」や「ウィキペディアは何ではないか」などの方針と出典にできる情報について解説しています。

なかには、読者としてWikipediaへの不満や不快を抱えている人もいました。ある女性は、自分のブログ記事がWikipediaのある記事の中で役者の死去を伝える出典として使用されていることに、「まるで自分がこの人の死を喜んでいるみたいで不本意だ」と、長年にわたり精神的苦痛を感じており、これを除去したいと相談に来られました。対応したウィキペディアンが、個人サイトは典拠に適さないというWikipediaの方針に基づいて代理で除去編集を行ったことで、「Wikipediaは長年見たくもないサイトだったが、ようやく心のつかえがとれた」と安堵した様子でした。

その他のQ&A

このほかの質問では、「自分の知らない街で開催されるウィキペディアタウンに参加しても楽しめるか?」といった質問や、「大学のレポートでのコピペ問題について、どう対応すべきか」という大学教職員からの相談もありました。

また、「数年前にイベントでWikipediaを編集したが、アカウントを忘れてしまった」という人もちらほらいらっしゃり、それぞれ編集したという記事の履歴を確認して、思い出してもらうことができました。

ウィキペディア展覧会のブースでは、過去にWikimediaについて言及された書籍や雑誌記事と、複数台のパソコン、さらには、この時期にオンラインで開催されていた「ウィキペディア・アジア月間」にあわせていくつかの文献を用意していたので、ウィキペディアンのレクチャーを受けながら既存記事の編集をしていった人も幾人かありました。

3日間の正確な来場者数は、個別対応に忙殺されてカウントしきれていないのですが、回答いただいたアンケート数や、ブース巡りツアーで巡ってきた団体の参加者数などから計算して、少なくとも300~400名以上の方にはウィキペディア展覧会ブースで足を止めて私たちの説明を聞いていただいており、おおむね満足してもらえたように思います。ウィキペディア展覧会は2022年から毎年図書館総合展に出展していますが、今回初めてウィキペディア・ストアから公式グッズをいくつか取り寄せてそのままの価格で販売したことも、興味を持って足を止めてくれた人が多くいた要因のようでした。こうしたブースでの企画内容については、また次回のレポートで紹介します。

漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

まとめ

ウィキペディア編集は基本的にボランティア活動だからこそ、忙しく毎日を送っている人々の日常生活のなかでは優先度が低く思われます。しかし、今の暮らしや仕事のなかにWikipedia編集を取り入れることに多くのメリットがあると知ってもらえたら、その優先順位は上がるのではないでしょうか。

今後もこうしたイベントを通じて、世間一般の社会の人々に、Wikipediaの意義や編集の重要性を広めていければいいなと考えています。

この前のレポート「編集経験者は3割以下、イベント参加への関心は高め」ウィキペディア展覧会2024報告書 vol.1(Diff)もぜひご覧ください。

Can you help us translate this article?

In order for this article to reach as many people as possible we would like your help. Can you translate this article to get the message out?