ウィキメディアンの読書記録:松尾豊『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』

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稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。本稿では、書籍『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』におけるウィキペディア関連の記述を紹介し、ごく簡単にコメントを付与します。

稲門ウィキペディアン会のロゴ (Uraniwa, CC0)

書誌情報

内容

本書では人工知能の歴史が振り返られますが、ウィキペディアに関する記述が3つ登場していました。以下、順に引用します。なお、上記のとおり本書の刊行は2015年、すなわち Chat GPT 登場以前であるということにご留意ください。

1. ライトウェイト・オントロジー

1つ目の記述は、オントロジー関連です。「ということはウィキデータが解説されているわけだね」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ここではウィキペディア記事同士のリンクに着目した研究が紹介されています。以下引用します。

オントロジー研究によって、知識を適切に記述することがいかに難しいかが明らかになり、大きく分けて2つの流派ができた。

私の解釈でざっくり言うと、「人間がきちんと考えて知識を記述していくためにどうしたらよいか」を考えるのが「ヘビーウェイト(重い)・オントロジー」派と呼ばれる立場であり、「コンピュータにデータを読み込ませて自動で概念間の関係性を見つけよう」というのが「ライトウェイト(軽い)・オントロジー」派である。

ライトウェイト・オントロジー派は、完全に正しいものでなくても使えるものであればよいという、ややいい加減ではあったが、現実的な思想であった。そのため、ウェブデータを解析して知識を取り出すウェブマイニングや、ビッグデータを分析して知識を取り出すデータマイニングと相性がよかった。たとえば、図12は、オンライン百科事典ウィキペディアのどのページからどのページにリンクが張られているか(引用者註:原文ママ)を統計処理し、それを概念同士の関係性として表したものだ。

上掲書、96-97ページ。

補足します。引用文中にある「図12」ですが、J-Stage に掲載されたオープンアクセス論文「Wikipediaマイニング」の図1(554ページ)が類似しているので、ご興味ある方はご覧ください (https://doi.org/10.1527/tjsai.24.549) 。

  • 中山 浩太郎, 伊藤 雅弘, Maike ERDMANN, 白川 真澄, 道下 智之, 原 隆浩, 西尾 章治郎, Wikipediaマイニング, 人工知能学会論文誌, 2009, 24 巻, 6 号, p. 549-557.

2. ワトソン

続いてもオントロジー関連です。こちらではIBMの「ワトソン」が紹介されています。以下引用します。

98ページ

ライトウェイト・オントロジーのひとつの究極の形ともいえるのが、IBMが開発した人工知能「ワトソン」である。ワトソンは、2011年にアメリカのクイズ番組「ジョパディ!」に出演し、歴代のチャンピオン(もちろん人間)と対戦して勝利したことで一躍脚光を浴びた。手法としては、従来からあるクエスチョン・アンサリング (Question-Answering:質問応答)という研究分野の成果である。ウィキペディアの記述をもとにライトウェイト・オントロジーを生成して、それを解答に使っている。

上掲書、98ページ。
プロトタイプの「ワトソン」(Clockready, CC BY-SA 3.0)

3 AIの知識獲得

最後は、人工知能による「人類の知識の吸収」についてです。以下引用します。

コンピュータが人間の言葉を理解できるということは、コンピュータの中に何らかのシュミレータが備えられており、「人間の文章を読むとそこに何らかの情景が再現できるようになっている」ということである。

するとコンピュータも本が読めるようになる。いろいろな小説を読んで、「望遠鏡で覗くのは男のほうが多い」ことも理解するかもしれない。また、ウィキペディアをはじめとした膨大なウェブの情報も読めるようになる。そこまでいけば、コンピュータはものすごい勢いで人類の知識を吸収していくだろう。

上掲書、190ページ。

なお、改めて明記しておきますが、本書が刊行されたのは2015年です。このブログ記事を執筆している2025年2月、すなわち OpenAI 社が Deep Research を公開した時期から見ると、上記の記述は隔世の感がありますね。

まとめ

書籍『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』におけるウィキペディア関連の記述を紹介し、ごく簡単にコメントを付与しました。本稿が何かの役に立てば幸いです。

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