稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。先日「調べ物する時って、どんなツールを使っているの?」と尋ねられたので、本稿にまとめておきます。ウィキメディアンに限らず、色々な方の役に立てば幸いです。約20の方法を紹介している長い記事なので、好きなようにピックアップして読んでください。
なお、本稿は、日本語、英語を用いた調べ物を行う日本居住者が執筆しています。そのため、上記以外の言語を使用して調べ物をしたい方や、日本以外に居住する方にとっては役に立たない可能性もありますので、お含みおきいただけると幸甚です。

1. 国立国会図書館サーチ
日本語で調べ物をしたい場合、まずは国立国会図書館が運営する「国立国会図書館サーチ」で気になる単語を検索し、役立ちそうな図書、雑誌をチェックしましょう。そして、面白そうなものは最寄りの図書館、本屋、通販などで入手しましょう。
2. リサーチ・ナビ
ついで、同じく国立国会図書館が運営する調べ物マニュアルのデータベース「リサーチ・ナビ」でキーワード検索をしましょう。たとえば、リサーチ・ナビで「喫茶店」と検索すると「外食産業について調べるには(統計・名鑑・インターネット情報源等)」などのマニュアルがヒットします。言うまでもなく無料で読めます。
3. 国立国会図書館デジタルコレクション
日本語のテキストを対象とした調査研究を行う以上、国立国会図書館デジタルコレクション(デジコレ)は避けて通れない存在と言っていいでしょう。利用者登録が必要ですが、300万点以上の大量の資料を対象とした閲覧、全文検索が可能です。特に古い資料を研究対象とすることが多い人文系の大学生、大学院生で、利用資格がある方は絶対に登録してください。
4. CiNii Research
CiNii Research は、国立情報学研究所(NII)が運営する日本の学術情報データベースサービスで、論文などの幅広い学術情報を検索できます。オープンアクセスではない(無料で読めない)論文もヒットしますが、書誌情報(論文のメタデータ)を入手できるだけでも儲けものです。オンライン上で見ることができない資料は、最寄りの図書館の相互貸借制度などを活用して取り寄せましょう。
なお、CiNii Research は、1で紹介した国立国会図書館サーチと併用しましょう。同じキーワードを打ち込んでも、結果が異なることが多いからです。
5. JSTAGE
J-STAGE(科学技術情報発信・流通総合システム)も使いましょう。J-STAGE は、国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) が運営する電子ジャーナルプラットフォームです。閲覧可能なオープンアクセス資料が多くヒットします。ものすごくざっくりと「CiNii は幅広い資料がヒットし、J-STAGE はある程度絞られた資料がヒットする」と考えておくとよいかと。
6. Google Scholar
Google 社は、Google Search(いわゆる “Google”)以外にも検索のエンジンを複数提供しています。そのうちの1つが、学術情報の検索を目的とした Google Scholar(グーグルスカラー)です。日本語、英語、その他言語にも対応しているほか「ある論文がどのような論文に引用されているか」も確認できます。無料で利用できてかなり便利なので、絶対に使いましょう。
7. Google Books
Google Books は、書籍を対象とする全文検索サービスです。書籍が全文読めるというわけではなく、検索キーワードの前後が抜粋されて表示されます(スニペット表示といいます)。こちらも便利なのでぜひ。また、興味が湧いた方は、Google Books を成立させる仕組み(大学図書館との協力体制)についても調べてみてください。
8. OpenLibrary
Open Library は、Internet Archive が運営する電子書籍提供サイトです。多くの書籍を対象とした全文検索が可能で、私もウィキペディア編集のための出典収集にしばしば活用しています。英語書籍が中心ですが、日本語のものもいくらかあります。また、資料によっては「Borrow」機能を用いて全文読むことも可能です。
9. ジャパンサーチ
絵画などの画像や、古い書籍を調べたい方は、ジャパンサーチも活用しましょう。ジャパンサーチとは、日本の様々なデジタルアーカイブを横断的に検索できるサービスです。調べ物の息抜きに、色々な画像を眺めるのも楽しいです。
10. Europeana
Europeana(ヨーロピアーナ)は、EU版のジャパンサーチです。EU内の様々なデジタルアーカイブを横断的に検索できます。”Making Culture” のような特集も組まれており、ぼーっとブラウジングするのも楽しいです。
11. DPLA
DPLA (Digital Public Library of America) は、アメリカ合衆国版のジャパンサーチです。私はクラシック音楽の愛好家なので、しばしばDPLAでニューヨーク・フィルハーモニック関連の資料を探しています。
12. 教育機関や図書館が契約しているデータベース
世の中には有料のデータベースがいくつも存在します。そして、一部の教育機関や図書館は、それらを契約してユーザーに無料で使わせるための仕組みを整えています。たとえば、東京大学は「literacy」というサービスを提供してますし、東京都の千代田図書館・日比谷図書文化館は以下のウェブページに利用可能なデータベースをまとめています。
上記のようなデータベース利用サービスを用いてアクセスしてほしいデータベースを、下記にまとめます。
12-1. 新聞データベース
「朝日新聞クロスサーチ」や「読売新聞 ヨミダス」のような新聞データベースは、様々な分野の調査に役立ちます。政治の動向から小説の書評まで、思いもよらぬ掘り出し物が見つかります。
12-2. Web OYA bunko
いわゆる大衆文化に関心がある人にとって、雑誌専門図書館の大宅壮一文庫が構築する Web OYA-bunko は心強い味方です。というのも、大宅壮一文庫は雑誌記事に独自の索引(キーワード)、分類を付与しているので、より精度の高い検索ができるのです。例えば、2025年5月某日に「名曲喫茶」と検索した際のヒット数は、国立国会図書館サーチで88件、CiNii Researchで17件、Web OYA-bunko で137件でした。すごい。
ただし、Web OYA-bunko は索引データベースであり、本文は読めないことにご留意ください。本文を読みたい場合、大宅壮一文庫から該当箇所の複写を取り寄せましょう。
12-3. 横断検索
複数の有料データベースを提供しているサービスが、それらを横断的に検索するシステムを構築していることもあります。例えば東京大学は「TREE(UTokyo REsource Explorer)」という横断検索サービスを提供しています。個々のデータベースをいちいち確認しなくてもいいので、大変便利です。
13. ウィキペディア図書館
ある程度編集経験があるウィキペディアンは、ウィキメディア財団が提供する「ウィキペディア図書館」を利用できます。こちらも様々な有料データベースを無料で利用できるサービスです。以下、おすすめのデータベースを紹介します。なお、上記の大学等のサービスでもアクセス可能なものもあるので、ウィキペディアン以外もチェックしてみてください。
13-1. JSTOR
JSTORは、学術論文や書籍が検索、閲覧できるサービスです。英語資料が多いですが、広い分野に対応しています。英語論文を探したい際は、とりあえずアクセスしましょう。
13-2. GALE
GALEも同じく、様々な学術情報を検索できるサービスです。ウィキペディア図書館経由の場合は、『タイム』紙のアーカイブである “THE TIMES DIGITAL ARCHIVE” や、人物事典を検索できる “BIOGRAPHY”、そして電子書籍 “GALE eBooks” などが活用できます。私は、他の検索サービスで大まかな情報を把握したのち、細かい情報の補足をするためにGALEを使うことが多いです。
13-3. ProQuest
ProQuestも同じく、様々な学術情報を検索できます。私は、 ProQuest 経由でニューヨーク・タイムズのアーカイブを閲覧することが多いですね。また、上述のGaleと同じく、他の検索サービスで大まかな情報を把握したのち、細かい情報の補足をするために使うことが主です。
14. ウィキメディア・プロジェクト
ウィキペディアをはじめとするウィキメディア・プロジェクトも、調べ物に役立ちます。内容も去ることながら、特にそのカテゴリ構造を確認することで、類似概念や上位概念を把握することができます。
例えば、日本語版ウィキペディア「IBM Db2」を(PC版で)確認すると、そのカテゴリは「Category:データベース管理システム」であることや、同じカテゴリに分類される類似概念として「MySQL」などがあることがわかります。このように、調査対象をメタ的に把握することが可能となります。
なお、注意しなくてはいけないのは、ウィキペディア記事(およびカテゴリ)そのものを出典としてはいけないということです。「ウィキペディアが出典としている資料」を実際に確認し、その資料を出典としましょう。我々ウィキペディアンは、一生懸命出典を探し出して明記していますからね。なお、出典が示されていないウィキペディア記事は、あまり信用しないようにしましょう。
15. 図書館のレファレンス
あまり知られていませんが、図書館は「レファレンス」というサービスを提供しています。「xについて調べているのだけど、役立つ資料はありませんか」という質問に、図書館司書が対応してくれるサービスです。司書は検索のプロです。思いもよらない資料を紹介してくれることも多いので、大いに頼りましょう。また、日本各地のレファレンス事例を集めたデータベース「レファレンス協働データベース」も読み物として面白いので、興味がある方はぜひ。
16. 生成AI
いわゆる「生成AI」も、調べ物に大いに役立ちます。「xについて教えて」という簡単な質問から、Deep Research機能を活用した出典収集までできますし、「yについて知りたいのだけど、役立ちそうなデータベースはない?」「調査にあたり以下のように予想を立てているのだけど、この妥当性を判断して」など、プロンプトを工夫して柔軟な情報収集を行うことも可能です。ただし、生成AI自体を出典とはしないように注意しましょう。極力出典となる論文、書籍等を確認しましょう。
まとめ
本稿では、調べ物に役立つツールをまとめました。以上を踏まえた私からのアドバイスは「実際に役に立つかどうかわからなくても、とりあえず無料で使えるものは試してみよう」「複数のプラットフォームを併用しよう」という2点です。本稿がどなたかの役に立てば幸いです。


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