2022年、日本最大級の図書情報分野のフォーラム「図書館総合展」で、私はウィキペディア展覧会の事務局として、たまたまウィキペディア活用が議題のひとつにあがっていたある団体のシンポジウムを聴講しました。その団体とは、愛知県内の登録有形文化財(建造物)を所有する人々が、その私有財産でもある文化財の保全と活用をめざす「愛知登文会」でした。
この偶然をきっかけに、その後2年間かけて愛知県内の登録有形文化財項目のWikipedia及び関連コンテンツを飛躍的に充実させるに至る「ウィキペディア愛知登文会」の取り組みがスタートしました。
2023年と2024年の夏の3か月間をかけて行われた「ウィキペディア愛知登文会」には、愛知県内や関西地域で10年以上活動する熟練のウィキペディアンたちとともに取り組み、大きな成果は愛知県在住の2人のウィキペディアン、user:円周率3パーセントと、user:Asturio Cantabrioが築いてくれました。私は2018年6月に参加した名古屋市でのウィキペディアタウンで彼らから多くを学び、以後も様々なアウトリーチ活動の現場で価値あるサポートをもらっていますが、シャイな彼らはいつも自分の善行をまったくアピールしようとしないので、おせっかいおばさんの私は彼らの分まで、その貢献をここにレポートしようと思います(笑)
edit Tango参加イベント2024 / №11 愛知県 ウィキペディア愛知登文会
「愛知登文会」は、愛知県に所在する登録有形文化財建造物の所有者で構成された団体です。これは全国に約10ある都道府県別の文化財所有者団体のひとつで、文化財の保全と発信を目的に、毎年秋に登録有形文化財の特別公開イベント「あいたて博」を開催したり、文化財の紹介冊子『あいちのたてもの』シリーズを刊行したりしています。
2022年~2024年当時、会長だった小栗宏次さん(愛知県立大学情報科学部教授)は、半田市にある小栗家住宅の所有者で、小栗家住宅はのちに国の重要文化財に指定されました。情報工学の研究者でもある小栗さんは、データとしてのWikimediaの各コンテンツの価値に高い関心をお持ちで、当初から効率的にWikipediaに登文会会員の全項目を作成する手法に高い関心をお持ちでした。というのも、登録有形文化財は愛知県だけでも数百件を数えるうえ、毎年数件は増えていくのです。しかし、あいにくWikipediaは編集者の手仕事を抜きにしては成り立ちません。ワークショップでは、所有者の会のみなさんにWikipedia編集に気軽に取り組んでもらえるよう、まずは会のメンバーが所有する登録有形文化財の項目の充実を目指すことになりました。

(漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)
イベントの参加者と雰囲気
年数回行われたワークショップの参加者は毎回約10名で、そのほとんどが登録有形文化財建造物の所有者でした。所有物件も多彩で、名古屋市や半田市の住宅、新城市の近代建築、さらには美術館など、地域の文化財を実際に守る方々ばかりで、その知識は確かなものです。公共図書館などが主催する「ウィキペディアタウン」とは異なり、自分自身が所有する文化財の情報を、正確に、そして丁寧に発信したいという強い思いを持った方々なだけに、編集活動は慎重を極めました。
ウィキペディアン達は各自でも図書館や現地に足を運んで資料を集め、できる限り信頼性のある情報に基づき、読みやすく、文化財の魅力が伝わるよう心がけて執筆してきました。所有者の方と直接お会いするたび、「記事としては役立つが、まだまだ書けることはある」と言われることもありますが、これは実際に題材当事者と接することが多いアウトリーチの現場では珍しいことではありません。ウィキペディアンとして、改めて編集の責任と奥深さ、そして、確かに読んでくれている人がいるとその意義を感じる瞬間です。
このプロジェクトを通じて、user:Asturio Cantabrioは、40件以上の登録有形文化財の項目を、いずれもスタブではない品質の項目として立項し、愛知登文会会員(当時)の所有する文化財については網羅されました。さらに、user:円周率3パーセントは、これらの項目や関連カテゴリの有無を可視化するコンテンツの作成に取り組み、愛知県の全ての登録有形文化財のWikipedia項目を立項するための準備を進められました。

(漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)
知識の共有と発信のかたち
このプロジェクトに協力した熟練のウィキペディアンの中には、毎年の「あいたて博」を楽しみにし、ウィキペディア愛知登文会の開催前から、自主的に愛知県内の登録有形文化財の項目充実に努めていた人もいました。彼らは今後も自主的にワークショップへ参加し、愛知県の文化財に関する項目を、他県で同様の取り組みをめざす人々のモデルとなるような水準へと充実させていくでしょう。
こうした取り組みのノウハウを広く共有するため、私は彼らに、日本において最も影響力ある学術団体のひとつである奈良文化財研究所の「全国文化財総覧」への寄稿を提案しました。そして2025年3月、「「愛知登文会」Wikipedia全会員項目作成とその展望」と題したレポートが正式に公開され、誰でも自由にアクセスできる形で共有されています。

(漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)

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