本稿では、2025年5月22日から24日までフィリピンのマニラで開催されたESEAP戦略サミット2025に参加した、日本のウィキメディアン5人による座談会の模様をお届けします。
日本のウィキメディアンがESEAP戦略サミットに参加したのは、今回が初めてです。そのため、座談会では、日本以外のウィキメディア・コミュニティがどのようにコミュニケーションを取っているのか、どのようにすれば日本語コミュニティからより多くの方がESEAPの活動に関われるのか、といったテーマについても話が及びました。たとえすぐに答えがでなくても、外にも目を向けながら自分の日々の活動につなげていくことの大切さを再確認できることも、カンファレンスの存在、そしてそこに参加する意義といえるかと思います。本稿にて、会話の一部をご紹介いたします。
なお、ESEAPは隔年でカンファレンスと戦略サミットを開催しています。2024年のマレーシアでのカンファレンスの参加記はこちらをご覧ください。
■全体の感想
VZP10224(Wikipedians of Japan User Group):今回のESEAPサミットには多くの人が集まりましたが、あれだけの人数をまとめるのは難しい事だと思いました。それでも話を聞くだけではなく、グループディスカッションのセッションなど、自分から話すセッションがあって、よかったです。
Eugene Ormandy(稲門ウィキペディアン会):サミットでは、ESEAPハブおよびリエゾン制度についての議論がさかんに行われましたが、そもそもそれらに参加するメリットがもう少しクリアになるとよいのでは、と感じました。くわえて、今回のサミットは事例発表よりも議論に重点を置いていましたが、議論の深化を目的とした事例共有がもう少しあってもよいのではないか、とも思いました。
ともあれ、旧友やら新しい友人やら、いろいろな人と話せたのでよかったです。また、ESEAPの自由な雰囲気も大いに楽しめました。もともと「中東欧のウィキメディアンからなるCEEハブが、各種制度を厳密に整備して効率的に成果をあげている一方、ESEAPはいい意味で緩やかだな」とは感じていましたが、今回それを再認識しましたね。私はどちらのハブも好きなので、お互い学び合えるといいなと思います。
門倉百合子(User:Wadakuramon、『70歳のウィキペディアン』著者):昨年のカンファレンスは事例発表が多かったですが、今年は議論を深める工夫がいろいろみられたのが興味深かったです。ロールプレイングなどもあったし。やはり議論中心なので、英語力のある方にもっと参加していただきたいと思いました。
北村紗衣(User:さえぼー、英文学者):ウィキメディアのガバナンスは、中央が無いのが特徴で、面白いけど決定には時間がかかります。今回のサミットでは、スケジュールの組み方に不満がありました。全体に時間管理がゆるかったし、大事な議論の時に二会場になって参加者が二分されてしまうこともありました。
VZP10224:去年のカンファレンスはお祭り的な集まりでしたが、今年のサミットは議論中心でしたね。議論には若い人がもっと参加してほしいので、OSC(オープンソースカンファレンス)のライトニングトークやししょまろはんなど図書館イベントで宣伝しています。
門倉:確かに若い人の参加は大事ですが、今回私は同年代のウィキメディアンと交流できて嬉しかったです。
北村:若い人はまずカンファレンスに行っていただくのが大事で、あんまり面白くないのかもしれないガバナンスの議論はベテランがやったほうがいいではないかという気もします。興味のある若い方にはガバナンスにどんどん入ってきてもらいたいですが、別にそんなに楽しい活動ではないですよね?長年ウィキメディアコミュニティにいる人だからこそできることというのもあると思うので、自分もそろそろそういうことをしたほうがいいのでは…とも思いました。
■ガバナンスの議論
中山純子(ウィキメディア財団スタッフ):ガバナンスを題材とした話し合いについて(参加のしやすさなど)はいかがでしたか。
VZP10224:ロールプレイングはもう少し少人数のほうがよかった気がします。私の英語力はまだまだ発展途上ですが、もし日本でサミットをするなら、自動翻訳など新しいテクノロジーを駆使することになるでしょうね。
中山:同時通訳者を手配することは可能ですが、通訳者がウィキメディアの語彙や仕組みを理解していることが重要になるかと思います。
Eugene:ガバナンスの議論は、前提知識が一定程度要求されるので、難易度が高いですね。また、コミュニティごとに、どのようなウィキメディア・ムーブメントが想定されているかも大きく異なるので、上手くすり合わせを行う必要もあります。それでも、まずは多くの人に参加してもらうのが大事でしょうね。
北村:ロールプレイングですが、それをやることでハブの仕組みの理解にはなったかもしれませんが、参加者がそれに参加する気になったかどうかは疑問です。私はこんなに大変なら委員にはなりたくないなと思いました。
VZP10224:「リエゾン」という役割ですが、やりたい人がどのくらいいるのでしょうか?ボランティアでできるのか疑問です。オープンソースのコミュニティではお金をもらわないのが前提ですが。
Eugene:無給でリエゾン制度を実施する以上、希望者を募るためにも、そのメリットを提示した方がいいのではという気がしました。
北村:メリットはたとえば、ESEAP以外の大きなカンファレンスに、年〇回までは無償で参加できる、とか。現状でリエゾンになれる時間があるのは、学生か自営業者でしょう。
Eugene:「リエゾン制度が実施されることで、こんなメリットがある」「リエゾンに就任すると、このような権利と義務が発生する」というビジョンが示されるといいですね。
VZP10224:Capacity Exchangeのしくみなどを活かしていくのでしょうね。
■コミュニケーションツール
VZP10224:ところでコミュニケーションツールはウィキメディアではTelegramが中心ですが、それだけにたよるのは危険かもしれません。ウィキメディア財団としてプラットフォームを作る必要性があるかもしれません。
中山:例えば、英語版ウィキペディアでは管理者のコミュニケーションの一つとしてもDiscordが使われており、目的や用途に応じチャンネルを分けているようです。
VZP10224:Discordは管理者がちゃんとしていますね。Telegramはグループチャットが無限に立っている感じで、私には使いづらいです。日本では根付いていないですしね。ESEAPに日本から多くの人に参加してもらうためのツールをよく考える必要があるでしょう。
北村:Telegramのほうがカジュアルに話しやすいだろうとは思いますね。あと、CEEはTelegramのシェアが大きいですし。
門倉:アメリカでは何が主流なのでしょう?
VZP10224:アメリカはWhatsAppですね。
門倉:なるほど。そういえばインドネシアの人たちは、日常はみんなWhatsAppだと言ってました。
中山:Telegramを使って他のウィキメディアンとやり取りをすることに対して、日本では障壁と感じられるでしょうか。
Eugene:日本では忌避感があるかもしれませんね。
VZP10224:LINEは日本、韓国、台湾以外には広まってないですね。特に日本語版ウィキペディアでアクティブな参加者の中には、オフウィキのコミュニケーションに嫌悪感を持つ人がおり、日本語版井戸端でも他言語のプロジェクトへの関心は薄いと感じます。
■これからのESEAP
Eugene:次のESEAPには、いつもと同じ人ばかりでなく、初めての人もぜひ参加してほしいです。
北村:早稲田Wikipedianサークルの方たちとか、ぜひ参加してほしいですね。
Eugene:VZP10224さんは、OSCに積極的に出展されていますが、どのような方を対象として宣伝を行なっているのでしょうか。
VZP10224:ウィキペディアにさわったことはあってもよくわからないという人たちとか、少数ですがもうすこし深いところまで関わっている人たちとか。ウィクショナリーとかウィキボヤージュとかを知ってる、使っている、という人もいました。寄付しています、という方は何人もいました。現在進行形でウィキペディアで活動している人たちにもユーザーグループに参加してほしいのですが、それとは別に、目の前の人たちに知ってもらうことが大事でしょう。図書館やCode4Libの活動にもっと日が当たってほしいとも思います。
門倉:先日のOSC京都で少し話をする機会をいただいたのですが、ウィキペディアと生成AIについてちょっと話したら、興味をもってもらえた印象です。そうした話題はほとんど知られていない気がするので。
VZP10224:ユーザーグループとしては、現時点ではOSCがベストな場になっています。ウィキペディアの中の人に知らせるよりも、慣れてない人たちにアウトリーチしていきたいです。
門倉:名古屋のもくもく会は話が盛り上がってとても楽しかったです。
VZP10224:そうした動きをこれからもどんどん広げて、次のESEAPにつなげていきたいと思います。
(2025年6月8日、オンラインで開催)

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