Eugene Ormandy の ESEAP Strategy Summit 2025 参加記録

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稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。2025年5月23日から25日にかけてフィリピンのマニラで開催された ESEAP Strategy Summit 2025(ESEAP戦略サミット2025)に参加してきたので、その模様をレポートします。

なお、本稿ではウィキメディア・プロジェクトやウィキメディア・ムーブメントに関する初歩的な解説は省略しているので、少々読みにくいかもしれません。適宜ハイパーリンク先などをご覧ください。

稲門ウィキペディアン会のロゴ (Uraniwa, CC0)

会議概要

ESEAP Strategy Summit 2025とは、ESEAP地域(東アジア、東南アジア、太平洋地域)のウィキメディアンが集い、ESEAPハブの今後について議論するイベントです。ESEAPハブとは、ESEAP地域のウィキメディアンたちからなる緩やかなコミュニティです。

今回のサミットは、ほぼクローズドな形で行われました。サミットを運営するコア・オーガナイジング・チームは、サミットへの参加希望を表明したウィキメディアンたちの審査を行い、60名程度を選出。彼らのホテル代、交通費を負担した上で、マニラでサミットを開催しました。

ESEAP Strategy Summit 2025 の参加者たち (Venus Lui, CC BY 4.0)

サミット参加者は基本的に、ウィキメディア財団から公認されたボランティア団体(の総称)「アフィリエイツ(ウィキメディア運動提携団体)」のメンバーおよび有給スタッフでした。しかし、そうでないボランティアたちも数名参加しました。実際、私もその1人です。私は稲門ウィキペディアン会のメンバーですが、同団体はアフィリエイツではなく、単なるボランティアグループです。

この参加者構成は、ESEAPハブが単なる「アフィリエイツの寄合」ではなく、アフィリエイツのメンバーも、そうでないメンバーも含んだ、緩やかな大きいコミュニティを志向しているゆえと私は理解しています。国単位で結成されることが多いアフィリエイツ制度(例外は多々ありますが省略)がリーチできない活動、ボランティアも巻き込んだムーブメントを、ハブという枠組みを通して醸成したいということかと。

とはいえ「アフィリエイツ中心のサミットと、様々な人が参加するカンファレンス」という対比構造は存在するわけですが、長くなるので本稿では割愛します。

East, South East Asia and Pacific Wikimedians (ESEAP) family photo in Singapore 2023
シンガポールのウィキマニア2023内で開催されたESEAP Summit 2023。筆者も部分的に参加した (Exec8, CC BY-SA 4.0)

誤解のないよう記しておきます。私は日本のアフィリエイツである Wikimedians of Japan User Group には参加していませんが、これは同団体と対立しているからではなく、あくまで私のタスクがこれ以上増えないようにするためです。私はUser Group さんと友好な関係を築きたいと思っていますし、実際ある程度築けていると思います。具体的には日本韓国エディタソンなどで編集協力を行なっていますし、ウィキマニア等の各種イベントでも User Group メンバーの方々とご一緒しています。今後も外部から、私の能力の範囲内で User Group さんに協力できればと思っていますし、その活動を心から応援しています。

参加の経緯

私は2022年ごろからESEAPのオンラインコミュニティには参加していました。また、2023年にシンガポールで開催された国際会議ウィキマニアに現地参加してから、より深くコミットするようになりました。具体的には、マレーシアとの友好プロジェクト Wikimedia Japan-Malaysia Friendship を立ち上げたり、韓国のウィキメディアンとの編集イベントを支援したり、マレーシアのコタキナバルで開催された ESEAP Conference 2024 に参加したりしました。

今回の ESEAP Strategy Summit 2025 についても参加申請をしたところ、幸い審査を通過したので、マニラへ飛ぶことになりました。

2024年5月にマレーシアのコタキナバルで開催された ESEAP Conference 2024 の様子。日本からは筆者、門倉さん、VZP10224 さんが参加した。(Ahmad Ali Karim, CC0)

各日の記録

以下、各日の流れを概説します。なお、サミットの具体的なプログラムについては、メタウィキ「ESEAP Strategy Summit 2025/Program」をご覧ください。

0日目

5月21日、マニラに到着しました。なお、フライトおよびホテルまでの道のりは、シェイクスピア研究者の北村紗衣さん(利用者:さえぼー)、書籍『70歳のウィキペディアン』著者である門倉百合子さん(利用者:Wadakuramon)と一緒だったので心強かったです。

その後、Wikimedians of Japan User Group 有給スタッフの 利用者:VZP10224 さん、ウィキメディア財団職員の中山純子さんとホテルで合流。日本から参加した5人でショッピングモールへ行き、夕飯を一緒に食べました。

夕食後、ホテルに戻り自分の部屋へ。ルームメイトの Aue Nai さんも部屋に到着していたので、挨拶をしました。Aue はミャンマーから来たモン語ユーザーで、主にウィキペディアを編集しているとのこと。お互いの自己紹介をしたのち、モン語の概要、大規模言語モデル、言語保存の話などをしました。

ルームメイトの Aue Nai さん (Aue Nai, CC BY-SA 4.0)

1日目

1日目は主に、ESEAPハブ全体のガバナンスに関する議論が行われました。特に印象に残ったセッションは「Finalizing: The Governance System」です。このセッションでは、ESEAPハブにおけるリエゾン制度や実行委員会制度について議論が行われたほか、ロールプレイングゲームも行われました。

リエゾンとは、ESEAP地域のボランティアのウィキメディアンたちの代表者のようなものです。リエゾンはESEAPハブの実行委員会に様々な提案を行い、実行委員会(こちらも主にボランティアのウィキメディアンたちから構成)はそれに基づき、ESEAPハブの有給マネージャーを雇うという構造です。

リエゾン制度および実行委員会制度の案をまとめた図 (User:Joycewikiwiki, CC BY-SA 4.0)

個人的には、リエゾンを務めるメリットが提示されるといいのではと感じました。「ESEAP関連の国際会議に優先的に参加できるようになる」なり、「様々な人と交流できるようになる」なり、何かしらのメリットが提示されないと「リエゾンって義務だけある面倒臭いポジションだよね」という空気になるのでは?と心配になりました。とはいえ、会場で何人かと話したところ「是非立候補したい」という人もいたので、今後の動向に要注目ですね。

なお、上記の制度および図については、メタウィキ「ESEAP Preparatory Council/ESEAP Hub Governance Systems Proposal/22 May 2025 version」にまとまっています。今後、(同階層のページにて)アップデートが行われるはずです。

リエゾン制度のロールプレイングの様子 (Suyash Dwivedi, CC BY-SA 4.0)

なお、1日目には、集合写真の撮影も行われました。色々な人が集まっている光景を見て「今後もみんなで頑張らないとな」という気持ちになりました。撮影後は夕飯まで自由時間だったので、フィリピンのユーザーたちとおしゃべり。楽しかったです。

フィリピンのユーザー Ernest Malsin さん(左)と日本のウィキメディアン3名 (Exec8, CC BY 4.0)
日本とフィリピンのウィキメディアン (Ernest Malsin, CC BY 4.0)

余談ですが、1日目のサミット冒頭で放映された、ウィキメディア財団のCEOマリアナ・イスカンデルからのビデオメッセージにて、自分が携わった Wikimedia Japan-Malaysia Friendship や日韓友好エディタソンが言及されていました。嬉しかったです。

ウィキメディア財団CEOマリアナ・イスカンデル (Gabriel Diamond, CC BY-SA 4.0)

2日目

2日目のセッションで印象に残ったのは “Strategic Tactics for Building External Partnerships” でしょうか。私も数年来お世話になっている、ウィキメディア財団職員の Sakti Hendra Pramudya さんが、ウィキメディア・ムーブメント外の各種機関といかに提携できるかについてのレクチャーを実施しました。

Sakti Hendra Pramudya さん (Rachmat04, CC BY-SA 4.0)

なお、Sakti 自身も各種機関との提携を積極的に推進しており、特にユネスコのジャカルタオフィスとは何度もウィキメディアイベントを共催しています。また、私が国立国会図書館職員向けのレクチャーを行う際も、情報収集などの協力をしてくれました。

閑話休題。外部機関との連携に関する Sakti のレクチャーでは、単なる編集協力のみならず、ファンドレイジングの観点からも話があったのですが、ここについて参加者から質問がいくつか出ました。というのも、ウィキメディア・プロジェクトの有償寄稿をめぐる見解はコミュニティごとに様々だからです。賞金を設定した編集イベントを実施するコミュニティもあれば、そもそも交通費等の必要経費を受け取ること自体に馴染みがないコミュニティもあります。また、ウィキメディア財団以外の資金源を模索するアフィリエイツもありますし、完全にボランタリーな団体もあります。

本件は、考え方を統一することが難しい問題の一つではありますが、少なくともこのような(ウィキメディア財団職員が参加している)場で「コミュニティごとに色々な意見がある」と明示されたのはよかったと思います。

レクチャーの様子 (Rachmat04, CC BY-SA 4.0)

他に印象に残ったセッションとしては、”Global Trends Workshop (Breakout 2: Content and AI)” です。ここでは、AIに関する議論をウィキメディアン間で行いました。私は Deep Research 機能がウィキペディアの出典収集にかなり役立つことを共有しました。

AIに関する議論の様子 (Ralff Nestor Nacor, CC BY-SA 4.0)

2日目の夕飯は、参加者全員で Bistro Remedios というレストランへ行きました。私はオーストラリアのウィキメディアンたちとウィキデータ(および生成AI時代におけるセマンティック・ウェブの意義)の話をしたり、韓国やシンガポールのウィキメディアンたちと各国における電子決済の状況について情報共有をしたりしました。

さらに、ウィキメディア財団の理事を務める、ポーランド出身の Maciej Nadzikiewicz さんともおしゃべり。Maciej が携わったウィキマニア2024や、共通の友達について、楽しく話しました。また、今後ESEAP地域出身の理事が誕生するといいねという話もしました。

レストランでカラオケを楽しむウィキメディアンたち (Ralff Nestor Nacor, CC BY-SA 4.0)
ウィキメディア財団理事の1人 Maciej Nadzikiewicz さん (Rachmat04, CC BY-SA 4.0)

3日目

いよいよ最終日。この日のスケジュールは、午前中にまとめを行い、午後はミュージアムツアーというものでした。

午前中のまとめでは、サミットの振り返り、ウィキメディア財団理事会からの挨拶、そして翌2026年に ESEAP Conference を行う台湾チームへの引き継ぎなどが行われました。

コア・オーガナイズ・チームのメンバーに拍手をおくる参加者たち (Rachmat04, CC BY-SA 4.0)
ESEAP Strategy Summit 2025 を主催したフィリピンチームから、ESEAP Conference 2026 を主催する台湾チームに、ESEAP の横断幕とマスコットの人形が手渡される様子。(Wiki Asmah, CC BY 4.0)

午後は2班に分かれ、ミュージアムツアーを実施。人類学博物館と国立自然史博物館を観覧したのち、マニラ大聖堂周辺を歩きました。第二次世界大戦期のフィリピンの戦禍を記録したモニュメントを見た際は、日本に住む人間として言葉を失いました。

人類学博物館 (Ralff Nestor Nacor, CC BY-SA 4.0)
国立自然史博物館 (Bahnfrend, CC BY-SA 4.0)

夜はレストランに再集合し、夕食を一緒に食べました。みんなで楽しくおしゃべりをしながら「ああ、これが『コミュニティ』というものなのだな」と思いました。

夕食会場の The Bayleaf (Ralff Nestor Nacor, CC BY-SA 4.0)
3日目の夕飯の様子 (Eugene Ormadny, CC0)

なお、私は主に友人の Asmah Federico さん、ウィキメディア財団理事の Lorenzo Losaさんと話していました。お互いの国におけるウィキメディア・ムーブメントの共有ができてよかったです。

感想

以下、雑多に感想を述べます。

再会と新たな出会い

とにかく旧友たちと再会できてよかったです。みんな元気そうで何よりでした。今回のサミットには参加しなかった旧友たちも、友人伝いに近況を聞けて嬉しかったです。また、新たに会った人たちとも様々な話ができてよかったです。

ハブのガバナンスに参加するメリット

ハブのガバナンスに関する議論を聞きながら「今後重要なのは、ESEAPハブのガバナンスに参加するメリットを明確にすることなんだろうな」と思いました。各地のウィキメディアンと交流できるようになることでも、スキルが向上することでも、ESEAPハブからのグラントを獲得しやすくなることでも、ESEAP関連の国際会議に参加できる可能性が高まることでも構いませんが、何かしらのメリットを明確にしないと、ハブのガバナンスに参加するモチベーションを一定以上高めるのは難しいなと思います。

上述のとおり、ハブのガバナンスをめぐる制度としてリエゾン制度や実行委員会制度などが取り上げられましたが、意地悪な見方をすれば、これらに携わることは、アフィリエイツにとってもボランティアにとっても「タスクの増加」を意味します。もちろん、ウィキメディアンはボランタリーな稼働に慣れている人が多いですし、このようなガバナンスに参加すること自体を楽しむ人も多いです。しかし、義務もそこそこ発生するタスクを、メリットを提示せずに善意に期待して提示するのは、持続可能性の観点からも不安があるかなと感じます。

事例共有よりも議論を優先

私はこれまで、ウィキメディア関連の国際会議にいくつか参加していますが、今回のサミットは「事例共有よりも議論を優先する」タイプの会議だなと感じました。具体的には「図書館でこのようなウィキペディアイベントを開催しました」「ウィキメディア・ムーブメントをめぐる議論として、このようなものがあります」といった事例共有よりも、「このテーマについて皆さんはどう思いますか」というフロアディスカッションが多かった印象です。

個人的には、もう少し事例共有が多いといいかなと思いました。「ウィキメディア・プロジェクトの意義」のような抽象的な理念や、ガバナンスをめぐる議論を行う上で、参加者がある程度知識を共有していなければ、ともするといわゆる「空中戦」になる可能性があるからです。

とはいえ、もちろん議論を中心とするスタイルのメリットもあります。実際、かなり多くの国際会議に参加しているウィキメディアンは「私は議論中心のスタイルが好きだな。事例共有が多くなると、参加者たちのバックグラウンドや考え方をする機会が減ってしまうからね」と言っていて、なるほどと思いました。

CEEハブとESEAPハブ

私は、2024年にイスタンブルで開催された「Wikimedia CEE Meeting 2024」に参加し、中央・東ヨーロッパのウィキメディアンからなるCEEハブの動向を見聞きしてきたのですが、CEEハブとESEAPハブはやはり文化が違うなと思いました。具体的には「CEEハブはシステムがかなり強固に構築されており、ESEAPハブは自由度が高い」という印象です。もちろんどちらもメリット、デメリットがありますし、私はどちらも好きです。ただ、ESEAPハブの自由な雰囲気は残っていてほしいなとも思います。今後の動きを注視したいところです。

2024年にイスタンブルで開催された Wikimedia CEE Meeting 2024 の様子 (Adem, CC BY-SA 4.0)

セッションごとの概要

細かい要望ですが、ウィキマニアのように、セッションごとの概要やスライドが事前に公開されているといいなとも思いました。予習がしやすいので。

日本での開催?

この手の国際会議に行くと必ず「いつになったら日本で開催されるの?」と言われます。個人的には「一定以上の英語力を有し、その上ウィキメディア・ムーブメントに通じた運営スタッフをどの程度確保できるのかしら?」と思うので、正直なところあまり前向きではないです。

とはいえ、今回は随所で「日本でこのような国際会議を開催するとしたら、どのような準備が必要か」という話がされていました。「様々なトピックが論じられるカンファレンスよりも、話題がガバナンスに絞られているサミットの方が、運営側の負担は小さいのでは」「通訳はどのように用意すればいいか」などの話が聞こえてきました。

まとめ

ESEAP Strategy Summit 2025 に参加した感想をまとめました。本稿が何かの役に立てば幸いです。

おまけ

以下、サミットの写真をいくらか紹介します。なお、全てウィキメディア・コモンズにアップロードされている写真です。

フィリピンのウィキメディアン Anthony(左)と、日本のウィキメディアンたち (Kunokuno, CC BY-SA 4.0)
初心者向けハンドブックについての意見を書いたポストイットを貼る台湾の友人 Reke。 (Rachmat04, CC BY-SA 4.0)
会場のラウンジにて休憩するウィキメディアンたち (Rulwarih, CC0)
会場に置かれた軽食。ウィキメディアンたちが持ち寄った。(S8321414, CC BY-SA 4.0)
会場受付の様子 (Kunokuno, CC BY-SA 4.0)

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