稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。2025年8月6日から9日にかけてナイロビで開催された国際会議「ウィキマニア2025」に参加してきたので、ごく大雑把な感想を記しておきます。

セッション
ウィキマニアでは、数多くのセッションが開催されました。どれも素敵でしたが、特に印象に残ったのは、ナイジェリア国立図書館によるウィキベースを用いた典拠データ作成プロジェクトについての発表 “How to Wikibase: National Library of Nigeria Authority Semantic files on Wikibase” です。リンクト・オープンデータというデータ構造のしぶとさを再認識しました。

ほかにも、「オフライン版ウィキペディア」でもある Kiwix の活用事例についての発表 “Let’s Travel: who needs Wikipedia offline, and why” も印象に残っています。インターネットへの接続が不安定な地域はいまも多く存在すると示された上で、それを乗り越えるための意欲的な実践が紹介されました。GPT-5が公開されたタイミングでこのセッションを聞けてよかったと思います。
余談ですが、Kiwixは One Laptop Per Child project の系譜にあるということが、今回よくわかりました。趣味としてコンピュータ史を少し学んだことで、既知のメディアを違う観点から考えられるようになったのは良かったな、と思います。

なお、自分でも “Overview of Wikimedia movement in Japan” と “Wikimedians of the Year Showcase” という2つのセッションを主催しました。
前者については、その名のとおり日本のウィキメディア・ムーブメントについての概説です。日本のムーブメントは他国と比べてもそこそこ繁栄している方ですが、いかんせん英語による発信が今まであまり行われていなかったので、他国のウィキメディアンからは「活動は盛んらしいが、その情報が一切不明な謎のコミュニティ」と捉えられていました。それを改善するためにも、このような発表は必要だろうと思ったので、力不足を承知で実行しました。何かの役に立っていれば幸いです。

もう1つのセッション “Wikimedians of the Year Showcase” は、ウィキメディアン・オブ・ザ・イヤーの歴代受賞者たちが、自身の関心を短時間でシェアするというものです。
ウィキメディアン・オブ・ザ・イヤーの制度は2011年から存在しますが、歴代受賞者たちの交流はこれまでそれほど盛んではなく、協働プロジェクトも存在しませんでした。2023年に自分が受賞者の1人となって以来、この状況は変えたいなと常々思っていたので、チャットグループを立ち上げ、セッションを企画しました。来年以降も、同窓会として開催し続けたいですね。
なお、今回のセッションには、ロージー・スティーヴンソン=グッドナイト、アンドリュー・リー、タウフィク・ロスマン、Yılmaz Caner Özyayıkçı、User:DerHexer、ロバート・シム、および私 Eugene Ormadnyが参加しました。

ウィキメディアンたち
セッションのみならず、世界各地から集ったウィキメディアンと交流できるのもウィキマニアの魅力です。初めて会った方から、もう何度も会っている友人まで、いろいろなウィキメディアンと交流しました。多様なウィキメディア観、テクノロジー観、さらには人生観に触れることができ、勉強になりました。


話は飛躍しますが、データ作成、そしてデータの背後にあるオントロジーの整備において、人間の価値判断を完全に排除することは難しい、と自分は常々感じています。もちろんAIエージェントがオントロジー調整からデータ作成まで全てこなす時代はもう来ているわけですが、少なくとも、それらのデータのうちどれを人間の活動に採用するか、というフェーズではまだ人間の判断が必要だと思いますし、排除しようと思ってもしきれないと思います。
だからこそ、データ、ひいてはテクノロジーについて考える際は、テクノロジーをめぐる人間についてもよく知っておく必要があるのだろう、と個人的には思っています。そして、ウィキマニアは、人間について学ぶための機会としても非常に優れているとも感じています。

私が中堅になったよ
2025年5月にフィリピンで開催されたESEAP Strategy Summit 2025に参加した際、北村紗衣さんは「本当に歳をとりました」「これからは若手をサポートしなければ」と言っていましたが、今回のウィキマニアで、私も同じようなことを感じました。

私は2018年に北村さんからウィキペディアの編集方法を教わり、2023年に初めてウィキマニアに参加し、その後何度も国際会議に参加しました。「中堅」と言われてももう否定できないキャリアです。そんな私にとって「今回が初めてのウィキマニアなんだ」「半年前にウィキペディアの編集を始めたんだ」と語る人々は、眩しく見えました。
そして「今後、彼ら彼女らがどのような人生を送るにせよ『たまにウィキメディア・プロジェクトを編集する』という選択肢があり続けるといいな」という思いと、「自分はそれをサポートしなくてはいけないな」という思いを抱きました。
今後、自分があと何回ウィキマニアに現地参加するかわかりません。今回で最後になってしまうかもしれませんし、尊敬する友人たちのように「参加歴十数年のベテラン」として参加し続けるかもしれません。とはいえ、どんな人生を歩むとしても、ウィキメディア・ムーブメントのサポートはしていきたいなと思う所存です。

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