日本遺産の地域が持つ魅力と広域自治体展開の可能性を考えるー北海道の小樽でのウィキペディアタウンを終えて

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日本遺産は、日本国内で104件が認定されており、全国的に展開するポテンシャルはあるのですが、日本遺産ストーリー、構成文化財の情報は必ずしも一般市民の認知が高いわけではありません。実際に、理解のための情報発信、プロモーションツール(パンフレット、ガイドマップ等)の整備は今後の課題となっており、日本遺産の情報発信手段としてのウィキペディアタウンの意義は大きいと考えられます。その上で、先日公開した「ウィキペディアタウン in 小樽」の開催報告とともに、その将来性と課題を考えていきたいと思います。

北海道の小樽で日本遺産の記事をつくってみた

広域展開の重要性と課題

日本遺産の観点においては、ストーリー、構成文化財の情報をわかりやすく伝えるガイドやインタープリターの育成も必要とされています。以上の現状から、小樽以外の日本遺産認定自治体へ積極的に展開させていくことが求められているといえます。

特に、北海道内の日本遺産認定自治体(「北前船」:函館市、松前町、石狩市)、「炭鉄港」関連:空知地域・室蘭市、「ニシン」:江差町、「アイヌ」:上川管内の自治体、「鮭」:標津町など道東)では、単独の自治体による開催をはじめ、他地域が連携するシリアル型日本遺産の認定地域での広域連携による開催も十分可能性があると思われます。

そのうち、「北前船」については全国52市町(東北、北陸、山陰、山陽、四国、近畿)と最広域の日本遺産であり、情報共有が課題となっていることから、個々に開催するだけでなく、ストーリーの繋がりを意識して開催することで、面的な展開が期待できます。

そうすることで北海道内に限らず、全国各地の日本遺産関連の自治体、関連団体・施設等、幅広く開催の可能性があります。例えば今年の3月には、島根県津和野町で初めてのウィキペディアタウンが開催され、多くの地域住民が参加しました。実際に参加した方からは好意的な感想を多くいただきました。

https://japan-heritage-tsuwano.jp/jp-news/diary/7401

Presentation of Wikipedia Town in Tsuwano 2025.jpg on Wikimedia commons / Photo by Hurohukidaikon / CC-by-4.0

持続可能な運営のための解決策

小樽では充実した記事を作成することができ、参加者の満足度も高かったのですが、運営側のマンパワー不足が課題であることなど、持続可能な運営の実現は重要な課題であることがあらためて認識できました。参加者募集の方法・プロセス、関連施設・団体との連携体制構築、事前資料収集の方法、タイムテーブル、昼食や休憩の時間・場所の確保などを含む、共通の実施ノウハウの確立が急務です。

今回、ウィキメディア財団の助成金予算の調整上、現地コーディネーターを確保できなかったことで、運営に支障が出ることが確認できました。申請段階で、コーディネーターの必要性を説得力がある形で説明することが必要です。他地域での開催に際しても、参加者募集、連携先との連絡、資料準備など、地域情報・ネットワークのハブとなる担当者に加え、現地コーディネーターを確保することが円滑かつ効果的な運営に寄与すると思われます。

参加者の高い評価と継続意欲

そんな中でも小樽で開催後に実施した参加者アンケート(n=10)では、全項目で高い評価が記録されました:

  • 期待達成度「参加前の期待はどれくらい達成されましたか?」:平均7.9点(10点満点)
  • 新しい発見「小樽の歴史、文化、日本遺産について、新しい発見がありましたか?」:平均7.9点
  • 興味の変化「小樽の歴史、文化、日本遺産について、興味に変化はありましたか?」:平均7.6点
  • 愛着の変化「小樽の歴史、文化、日本遺産にについて、愛着や親しみに変化はありましたか?」:平均8.2点
  • 経験の共有「今日の経験を誰かに伝えたいと思いますか?」:平均9.0点

特に、経験の共有(経験を他者に伝えたい度合い)が9.0点と極めて高い評価を得たことは、参加者がこの体験を価値あるものと認識し、積極的に周囲に推奨したいと考えていることを示しています。

また、「今後も小樽の歴史、文化、日本遺産に関わるイベントに参加してみたいと思いますか?」という質問に対して、回答者全員が「参加したい」と回答。実際に「追記は近日中に大幅にしたいと思っております」というコメントも寄せられており、一過性のイベントではなく、継続的な活動への発展が期待できます。

北海道特有の課題と解決への模索

北海道全域を対象としたイベント開催には、他の都府県にはない独特の課題があります。今回、札幌からは車で1時間弱、岩見沢からは1時間強、函館からは4時間という移動時間が必要でした。特に遠方からの参加者の場合、列車移動では往復1万円程度の交通費が必要となり、参加への大きな障壁となっています。これはスタッフ側も同様です。また、この地理的制約は、イベントの周知(リーチ)と参加の両面でハードルとなっており、持続可能な開催のための重要な検討課題となっています。

同時に、北海道の冬季における「まち歩き」は気候的に困難です。この課題に対してはバス移動の採用や、街歩きを省略した屋内完結型のプログラム構成などの工夫を検討していきたいと考えています。

とはいいながらも、今回の成功を受けて、旭川や函館など道内他都市での開催も視野に入れています。しかし、講師やコーディネーターの移動コストが課題となっており、費用捻出が大きな懸念事項です。オンライン併用についても検討しましたが、実際のレクチャーや編集指導においては「非常に難しい」というのが現場の実感です。

さいごに

北海道の広域性という地理的制約は確かに課題ですが、同時に多様な地域での展開可能性も示唆しています。特に歴史的な観光資源を持つ地域にとって、このモデルは地域情報の発信力強化と住民の地域愛醸成の両面で有効なツールとなり得ます。

デジタル時代における新しい地域づくりの形として、今後もエディタソンが多くの地域で展開されていくことを祈っています。

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