カーリル図書館MCPを活用して、出張時の自由時間におけるウィキペディア用調査を効率化する

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稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。2025年10月18日、カーリル図書館MCP で遊んでみたところ「これを使えば、出張時の自由時間におけるウィキペディア用調査を効率化できそうだな」と感じたので、記録しておきます。

稲門ウィキペディアン会のロゴ (Uraniwa, CC0)

カーリルとは

カーリルとは、株式会社カーリルが運営する、図書館の蔵書を横断的に検索する無料のサービスです。このサービスを使うと、例えば「『ユニコーン企業のひみつ ―Spotifyで学んだソフトウェアづくりと働き方』という図書は、東京都のどの図書館で借りることができるか」を調べることができます。詳細については、公式サイトや、日本語版ウィキペディア「カーリル」をご確認ください。

カーリル図書館MCPとは

カーリル図書館MCPは、簡単に言えばAIからカーリルの機能を使えるようにする仕組みです。公式サイトでは、AIから利用できる図書館サービスという新しい体験を提供するための総合的な取り組みの第一歩として紹介されています。なお、MCP は Model Context Protocol の略です。

Claudeとの連携

カーリル図書館MCPを利用するには、自分が使っているLLM(大規模言語モデル)との連携を許可する必要があります。ただし、残念ながら本稿執筆時点では、全モデルに対応しているわけではありません。例えば Claude Pro には対応していますが、ChatGPT 無料版には対応していません。この状況は今後変化すると思われますので、気になる方は公式サイトをご確認ください。

私は Claude Team に加入しているので、カーリル for AI(カーリル図書館MCP)との連携が可能でした。ということで、マニュアルに沿って設定。簡単な作業でした。

チュートリアル

設定が済んだので、まずはマニュアルに沿って「中津川市立図書館で1Q84を検索して」と指示。すると、以下スクリーンショットのように、単行本版、新潮文庫版、関連書籍を提示してくれました。

Claudeによる回答のスクリーンショット。(Eugene Ormandy, CC0)

続けて、「1960年代のカウンターカルチャーがテック産業に与えた影響について調べている。品川駅からアクセスしやすい公共図書館で入手できる、調査に役立ちそうな資料を列挙して」というプロンプトを入力してみました。上記とは異なり、調査テーマが複雑で、対象となる図書館も特定されていない難しいタスクです。こちらについても、Claudeはカーリル図書館MCP を参照しつつ、以下スクリーンショットのとおり適切に回答してくれました。長くなりますが、いわゆる「思考過程」についてのスクリーンショットも貼りますね。

スクリーンショットその1。調べるべき対象を、プロンプトからAI自身が判断し、実行している。(Eugene Ormandy, CC0)
スクリーンショットその2。思考を重ねていることがわかる。(Eugene Ormandy, CC0)
スクリーンショットその3。結果を提示している。所蔵図書館と資料概要も明記している。(Eugene Ormandy, CC0)

出張中のウィキペディアンのニーズをプロンプトへ

せっかくなので、さらに難しいタスクを設定してみます。どうせなら、ウィキペディアンとしての私のニーズも盛り込んでみましょう。しばらく考えたのち、以下のプロンプトを作成してみました。

  • 10月22日の午前中は自由時間なので、広島駅周辺の図書館で調べ物をしようと思います。私が現在調べている、コンピュータをめぐる特許争いの歴史についての資料で、かつ私の最寄りの岡山県立中央図書館に所蔵されていないものを所蔵している図書館を教えてください。なお、12時30分広島駅発の電車に乗る必要があるので、それを考慮した上で図書館を選定してください。また、私が宿泊しているホテルは広島駅徒歩0分で、出発時間は朝早くても大丈夫です。
広島駅。2024年7月29日撮影。(Wikiyasu, CC0)

上記のプロンプトには、2つの要素が新たに追加されています。「別の地域に所蔵されていない資料を優先的に示すこと」と「条件を踏まえた旅程を作成すること」です。さらに厄介なポイントもあります。私がプロンプトに記した「岡山県立中央図書館」は実在しないのです。というのも、正式名称は「岡山県立図書館」なんですね。さて、Claude およびカーリル図書館MCPは、上手く回答してくれるでしょうか。以下、回答の一部のスクリーンショットを提示します。

スクリーンショットその1。思考過程を示している。(Eugene Ormandy, CC0)
スクリーンショットその2。推薦図書館および推薦図書を示している。「岡山県立図書館」にない図書を優先的に表示している。(Eugene Ormandy, CC0)
スクリーンショットその3。推薦図書および推薦図書館を踏まえ、調査プランを作成している。(Eugene Ormandy, CC0)

私のニーズを満たす回答を提示してくれたと判断してよいでしょう。プロンプト内の「岡山県立中央図書館」を「岡山県立図書館」に修正した上で、同館に所蔵されていない「コンピュータをめぐる特許争いの歴史」をテーマとする資料を所蔵する広島駅近辺の図書館を示した上で、帰りの電車の時間を踏まえた調査プランまで作成してくれています。ありがたい。

もちろん、このプランはAIを用いずとも、「検索」だけで作成することができます。しかし、間違いなく工数がかかります。その点、プロンプトを作成して入力しさえすれば、AIはこれだけのクオリティのプランを1分程度で提示してくれます。しかも「岡山県立中央図書館」のような細かいミスも、よしなに修正してくれます。

感想

複雑なタスクも想像以上に上手く処理しており、感心しました。今度出張をする際は、Claudeにカーリル図書館MCPを参照させて、ウィキペディア用調査プランを組んでもらおうかと思います。ブログ記事「名古屋都市センターまちづくりライブラリーをウィキペディアの編集に活用する」などに記録している「ひとりウィキペディアタウン」の良いお供になりそうです。

また、カーリル図書館MCPの今後についても、きちんと考えておこうと思いました。カーリル for AI の公式サイトに書かれているように、アフィリエイトに基づく従来のカーリルの無料モデルは曲がり角を迎えており、予断を許さない状況です。カーリル図書館MCPについても、今後いつまで無料で利用できるかはわからないでしょう。AI時代におけるワールド・ワイド・ウェブの持続可能性、そしてカーリルのような良質な無料サービスを提供する企業をいかに支援できるかについても、市民として向き合わなくてはと感じます。

以下、参考までにカーリル for AI の公式サイトの「新しいビジネスモデルへの挑戦」より引用します。

カーリルはこれまで、アフィリエイトと広告収益で、無償のウェブサービスを維持してきました。しかしAI時代、この前提は崩れつつあります。ユーザーは検索結果ページを直接訪れなくなり、ウェブページへのアクセスは減少が見込まれます。実際、コンテンツ連動型広告の収益性は、ここ数年で顕著に低下しており、広告の品質も低下しました。広告に依存しないサービスモデルへの転換はもはや不可欠です。

MCPによってAIと図書館が連携できるようになれば、ユーザーはカーリルにアクセスすることなくシームレスに図書館の情報資源にアクセスできるようになります。それこそが私たちの理想です。しかし、その実現には持続可能なビジネスモデルを確立する必要があります。

難しい挑戦ですが、目指す姿は明確です。すべての個人ユーザーが無償で使い続けられることを前提に、サービスを応援したい方が任意で支援できる仕組みを検討しています。図書館総合展をはじめ、様々な場で皆様のご意見を伺いながら、新しい「費用負担モデル」の実現を目指します。

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