ウィキメディア財団年次計画/2026-2027のご紹介

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ウィキメディア財団の2026–2027会計年度の年次計画草案を公開しました。この投稿ではその概要の注目点をまとめてあります。まずは草案の全文をメタウィキで ご確認の上、ぜひそちらのトークページにていずれかの言語でご意見をシェアしてくださるよう、よろしくご検討願います。

Dietmar Rabich – 撮影者による画像, CC BY-SA 4.0 Dülmen, Börnste, Teiche in der Heubachniederung, Baum

私たちは世界から今、何を求められているのか? 

転換期を迎えたインターネット。ウィキメディア財団とボランティアが過去数年にわたって世界的なトレンドを追跡してきましたが、もはやそれは遠い未来の話題でも理論上の案件でもなくなりました。今や、ウィキペディアを含むウィキメディアのプロジェクト群に影響が波及しています。ウィキペディアの場合は、Google 経由のページ閲覧数と参照トラフィック referral traffic の割合は減って、ボットによるトラフィックは前例のないほど増加してきました。これは単に一過性の現象にとどまらず、構造変化だと私たちは考えています。ウィキメディア運動もウィキメディア財団も、進化と適応を進めるように世界に迫られているのです。

ウィキメディアの使命は喫緊であること。誤情報や信頼性の低いAI生成コンテンツが蔓延する時代にあっても、ウィキペディアはウェブ全体にわたり、信頼できる知識の重要な基盤を提供し続けていて—まさに「デジタル世界全体を支える事実の網」と言うことができます [出典] 。しかしながら、世界にとって一方で依然としてボランティアの皆さんが作成されたコンテンツは不可欠である反面、他方でその存在感はますます薄れつつあり、人々が得る情報とは、AIが作る要約やチャットボットその他、第三者による再利用という形になってきたからです。 

ここからウィキメディア運動にとって重大な問題が提起されます。

  • トラフィック:ページ閲覧(ビュー)が減り視認性が低下し、検索による参照トラフィックを遠ざける構造の変化にどのように対応すべきでしょうか?
  • 責任ある再利用を:ウィキメディアのコンテンツを持続可能に再利用するとはどういうものか、また私たちのインフラを悪用から保護する方策とは?
  • 人間という要素:AI生成コンテンツや「ゼロクリック」zero-click 体験があふれる世界において、ウィキペディア独自の価値とは何でしょうか? 私たちというグローバルなコミュニティ独自の力をどうすればさらに強化できるでしょうか?
  • 私たちのモデルの保護:ウィキペディアのボランティア貢献者モデルと収益モデルをどのように保護するとよいですか?
  • 長期的な持続可能性:ウィキペディアと関連プロジェクトが今後25年 — そして永続的に — 発展していくために、私たちはどのように支えていくべきでしょうか?

ウィキメディアのプロジェクトでもその外でも繁栄を

ウィキペディアの未来を左右するものは、以下の2つの要素の働きがどう連携するかであると私たちは考えています。ウィキメディアのプロジェクト内でもその外でも繁栄を。その意味するところとは私たちのウェブサイトやアプリにおいて、強力な目的体験にもっと投資することであり、読者や貢献者、寄付者が夢中になって何度も戻ってきたくなるようにすることです。そして持続可能な再利用モデルを構築して利用者がいる場所と結び、単にトラフィックを遠ざけた状態ではなく — 将来の貢献者と価値とをウィキペディアに呼び戻すことにあります。ウィキペディアがオンウィキでもウィの外でも繁栄してこそ、この新たな状況下で繁栄し存在意義を保つことができます。

ウィキメディアのプロジェクトでもその外でも繁栄を

財団の2026-27年次の目標

その実現とは具体的に? 2026年-2027年次には、以下の主要目標4件に焦点を当てます。

  1. 普及の拡大:トラフィックを従来の検索以外に多様化すること。これまでウィキペディアの訪問者のおよそ90%は、Google 検索経由でアクセスしてきました。この「無料」トラフィックの流れは、しかしながら構造的な減少傾向にあり — これはなにもウィキペディアに限ったことではなく、インターネット上に出版するあらゆる存在に影響が及んでいます。つまり(例えば新しい典拠やモバイル版アプリのダウンロードなどにより)新たに「直接の」トラフィックを増やし、トラフィックの源流を多様化して、単一のソースへの依存度を下げる必要があるということです。人々は従来のようにウィキメディアのコンテンツと偶然、遭遇するのではなくなり、ウィキメディアの全般的な認知度、ひいては編集者のやる気や収益に影響を与える可能性があります。そのため将来の読者や編集者、貢献者に普及するには新たな方法(そして多くの場合、より困難で費用のかかるもの)への投資が求められます。
  2. 踏み込んだ関与を求めること:貢献者を支援し、たまにしか訪れない読者をリピーターや編集者やひいては寄付者へと育成すること。ウィキペディアを利用する人の多くは、サイトをごく短い時間だけ訪れ、情報を1つ見つけるとすぐに離れてしまいます。読者体験をもっと魅力的にして読者の滞在時間を延ばし、リピーターから活発な読者になってもらい、さらに編集者や寄付者へと成長してもらって人数を増やさなければなりません。現在はどんな訪問も重視されるので、私たちは観衆ファネル(audience funnel=下図参照)に注力し、人々を誘導して「オフ・ウィキ」off-wiki から「オン・ウィキ」on-wiki のコンテンツ体験へと立ち返ってもらう、そしてたまに訪問するリピーターを活発な読者へと変えるばかりか参加者や寄付者、さらにコミュニティの次世代のリーダーへと育成することを目指します。
  3. プロジェクトを保護:私たちのモデルを維持し、守り抜くこと。ウィキペディアのボランティアの皆さんも価値観も、ますます脅威にさらされています。事実がいちいち争われ政治に左右される世界において、ボランティアの皆さんに必要な安全と法的支援を提供し、中立的な視点を守り抜きます。ウィキメディアのインフラに関して、ボットによる不正行為に対する保護体制を強化し、単に奪われたトラフィックに限定せず、責任ある再利用を推進してウィキペディアに価値を取り戻します。

これらの実現は第4の目標が担っています。

  1. スピードと耐性の構築:この活動を支える人々やシステムを支援すること。財団の職員やシステム、技術インフラ全体のスピードと効率性を向上させます。この目標には、私たちの使命達成に求められる資金の確保をめぐる作業、すなわちウィキメディアのプロジェクト群が将来も確実に持続可能であるように遺産基金やウィキメディア・エンタープライズ Wikimedia Enterprise など多様な収入源を継続して拡大することが含まれます。

このアプローチを選んだ理由は?

トラフィックとコンテンツ再利用の変化とは、将来の読者や寄付者、貢献者が従来と異なる方法でウィキペディアにアクセスするという意味です。ウィキメディア運動が2017年に掲げた戦略方向性では —「無償の知識の生態系(エコシステム)の不可欠なインフラ」となるとしていて — ほぼ達成済みです。ところが無償の知識の未来を確保するには、「不可欠なインフラ」となるだけでは十分ではないかもしれません。そこで今、ウィキペディアの貢献者モデル、中核となる価値観、財政の持続可能性を守りながら、どのようにその役割を果たしていくかと問われています。現在、ウィキメディア運動が直面する世界的な動向があり、2030年運動戦略勧告の提言に沿って対応する私たちは提言を強く意識して「評価、反復、適応」していく必要があります。

ウィキメディアのプロジェクト群の中で最も目立ち、いちばん再利用されているのはウィキペディアです。来年、ウィキメディアのコンテンツに集まるトラフィックと知見性を高める基盤にすえるのは、情報エコシステムに占めるウィキペディアの基本的役割です。これはますます増えていく課題に直面しつつ、ウィキペディアへのトラフィック増の取り組み、編集者への支援を深めること、さらに拡張権限を預かる利用者が必要とする改善版ツールと支援の提供が含まれます。また新しい読者や貢献者、寄付者をもう一度ウィキペディアに集めるには「ウィキメディアの外」beyond wiki への投資によりウィキメディアのプロジェクト群は財政的に持続可能になり、社会に信頼され、一般の人たちと関連性を保ち、構造として独立であると保証できます。

読者から貢献者へ、さらに寄付者へ:観衆の絞り込み(ファネル)

カジュアルな読者から高効率で活発な読者や編集者ならびに寄付者に変わってもらうには、ターゲットを絞った実験、利用者経験の改善、段階ごとに指標を活用した「観衆ファネル」を介して人々を誘導し、受け身の消費者から能動的な参加者への変換に注力します。
この機会は規模が非常に大きいこと。インターネット利用者のうち、私たちの推定ではおよそ約50億人が既に何らかの形でウィキペディアのコンテンツを当サイト上または第三者による再利用によって利用した経験があります。そのうち33億人はウィキペディアの存在を知っています。さらにおよそ15億人は — 全インターネット利用者の約27%相当 —、毎月、ウィキペディアのコンテンツをウィキ環境で閲覧しています。

挿し絵:観衆ファネル(現状)
「ウィキメディアの外」
インターネット利用者総数:およそ55億人
ウィキペディアから再利用されたコンテンツを消費:およそ5億人
ウィキペディアを知っている:およそ33億人
「オン・ウィキ」
読者層:およそ15億人(インターネット利用者総数の27%)
寄付者:およそ770万人(読者総数の0.51%)編集者:およそ27万3000人(読者総数の0.02% )

これは、この変革期を乗り切るウィキペディアが、非常に規模の大きな戦略資産を得ることを意味します。しかしながら普及 reach とブランド認知度がまだ高い今のうちに、この強みを最大限に活用しなければなりません。現状のトラフィック減少が意味するのは — ウィキメディアの全体的なコンテンツ再利用とウィキペディア認知度を高めることが必須で – 各種の数値をファネルのほぼ上限まで増やす必要がありますし、読者コンバージョン率をファネルの下部付近で高めて、単なる読者からリピーターに、継続して活動する編集者に、さらには寄付者にと転換してもらう必要があります。これらの目標達成に向かう今年は、観衆ファネル audience funnel の測定に徹底的に注力し、正しい方向に向かって適切な方法で実験と改善を繰り返していきます。

編集を手軽にして高効率に

健全で成長を重ねる編集者コミュニティは、ウィキペディアの未来にとって不可欠であること。そのためには編集者になる読者を支援するダッシュボード・システムに投資し、利用者ごとにパーソナル化して、新規参加者が編集者やモデレータとして経験を積んで成長していく過程を支えます。ここでいうダッシュボードとは編集初学者にとって前よりも高度な役割へ進むステップアップを助けるものであり、経験を積んだボランティアの皆さんの場合は注意が求められる事柄、例えば各人が関心を寄せる記事で展開する議論や潜在的な不正行為すなわち荒らしの発生などに注目しやすくなります。もっと明確に示すものは目標や影響度指標、そして貢献者同士の人脈であり、やる気を向上させて編集者が定着していくと長期の参加促進にもつながります。

編集者対象の新たな方法も開発、読者がンテンツといつ、どのように関与するか把握できるようにすること。これには他のウェブサイトの集計データとして、Google や TikTok などから個別のページへ、どれくらいの頻度でリンクを貼っているか表示することなどを含みます。目標は、読者がどんな知識を最も求めているか洞察し、編集者がそれに基づいて編集作業の優先順位を決められるようにすることです(一例として、検索上位のキーワードに対して表示する記事が誤っている場合は読者のニーズにもっと適応させることが可能で、編集者の作業はリダイレクト設定、コンテンツ拡充など。)

製品技術諮問委員会(PTAC=Product and Technology Advisory Council)の推奨事項に基づき、引き続きモバイル編集の利便性向上に注力します。一例として「構造化した編集」Structured edits は、モバイル編集の単位をより小さく割り、ガイド付きのタスクに分けるのに役立ちます。

拡張権限を預かる利用者(UWER=Users with Extended Rights)を対象に、よりスマートな自動化機能を導入し(例えば不審な操作に関する調査の提案など)、新規利用者の増加に伴って発生しがちなUWER の皆さんの調整作業の反復を軽減し、より重要な業務に集中してもらったりできます。あわせてセキュリティ強化により、利用者アカウントの保護にも努めていきます。

画像:「羊飼いの木」Shepherd’s Tree の記事の画面キャプチャ、英語版ウィキペディアより

知識のいきいきとしたエコシステム

他のウィキメディアンの皆さんもすでに指摘しているように、私たちのプロジェクト群もウィキペディアも、時間とともに進化し適応していく生態系のように生きています。ウィキペディアを過去20年にわたって支えてきたのは、Google 経由の無料の検索トラフィックという、いわば偶然の「滝」 — 読者や寄付者ならびに貢献者が絶え間なく続く流れによってでした。しかし今日、その滝が変化して流れが移り、水が枯れそうな危機が訪れています。また長年にわたりウィキペディアのボランティアの皆さんが目撃してきた(1, 2)のように、コミュニティの礎 — つまり最も活動的な管理者と拡張権限を預かる利用者も — 将来の世代も繁栄するウィキペディアを実現したくても、必要な割合が補充されていません
生きている植物の組織が水不足のストレスにさらされると、その反応は主に2つあります。

  1. 新しい水源を探すこと。そのため私たちはトラフィックの多様化 を重視して、従来の Google 検索から参照するルートにこだわりません。
  2. 根をもっと深く張ること。そのためには「踏み込んだ関与」を私たちは重視したまにしか読まない読者を頻繁な読者に、そしてその人たちを編集者ならびに寄付者に変えていきます。

2026-27年次計画にふさわしいシンボルは何かと考えるなら、地球上で最も深く根を張ると知られたボスキア・アルビトランカ(Boscia albitrunca)という、通称を羊飼いの木 shepherd’s tree と呼ぶ植物でしょう。その根は最長で68メートル(230フィート)もの深さに達します。この樹木は地表から浅い層の水は追いません。根を深く張るからです。そうすることでカラハリ砂漠でも繁栄し、世界で最も過酷な環境の一つで生きています。

ウィキペディアも同様の環境ストレスにさらされており、同様の適応策が必要と私たちは考えています。ウィキペディアは単なる読者を熱心な読者や編集者ならびに寄付者へと変え、長期にわたって関与を続けていくよう、より深く根を張るように求められています。その実現にはウィキペディアの基本モデルをまるで「羊飼いの木」(訳注:世界で一番深く根を貼る植物)のように刷新すると、オンライン環境がますます過酷になっていくとしても、インスピレーションと栄養を配る源泉となるのです。

さて、ここに示したのは年次計画の草案であり、皆さんからご意見を募集します。グローバルなトレンドに関してどのような経験をされましたか、それはこの先、ウィキメディアにどのような影響を及ぼしそうですか? 今から5月31日までのおよそ1ヵ月にわたり、どのような実験に取り組み適応して共に対応するとよいか、皆さんからそれらの方法についてご指摘を集めたり協議したく考えます。

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