Ga2byです。世界中のウィキメディアンの皆様がウィキマニア2026に参加している間(厳密には直後)の7月26日、デジタルアーカイブ学会開催のシンポジウム「デジタルアーカイブ推進基本法の実現に向けて」に参加してきました。
デジタルアーカイブの現状や目指すべき方向性について、国内外のさまざまな事例や法制度の紹介を交えて活発に議論がなされていました。世界各国におけるデジタルアーカイブへの向き合い方を知る機会であるとともに、デジタルアーカイブとしてのウィキメディア・ムーブメントを考える上で参考になるお話も多いと感じたので、特に印象に残っているお話を記録してみます。
欧州のデジタルアーカイブ例あれこれ
今回のシンポジウムでは、海外の事例として特にヨーロッパ圏のデジタルアーカイブが紹介されていました。
その筆頭はEuropeana。ヨーロッパ各地の文化機関から提供された絵画・映像やテキスト、音楽などを参照できるサイトです。アクセスできるデータの数を挙げてみると(以下すべて概数)、画像約3370万件、テキスト約2408万件にも上ります。そのほか、動画や音声、3Dデータなど、種類も多様。
Europeanaに関して、特徴的なのはその運営形態。各機関と個別に連携するのではなく、Europeanaと外部団体の間でアグリゲータと呼ばれる機関が存在し、位置情報などの情報追加や、他のデータセットとの連携を担っています1。
そしてこのEuropeana、さらにEuropeanaを取り巻く各国のアグリゲータの周辺に、研究クラウド、クリエイティブ産業支援機関などがつながっているとのこと。
そのほかに言及されていたものをリストアップしてみると、
ヨーロッパ各地の大学や研究機関から成るコンソーシアム、ECHOESが構築したプラットフォーム。文化財関連データの活用の推進を目的に、3Dで表現された文化財のアノテーション補助などを行うツールやアプリケーション等のリソースを提供しています。関連するメタデータのインポート元として、Wikidataも利用されているようです。
20のパートナーにより創始された、2年間のパイロットプロジェクトです。研究論文や記事を含むデータベースであるHeritage Library構築のほか、関係者同士のコミュニティの設立や政策提言にも携わっています。
EIT(European Institute of Innovation, 欧州イノベーション・技術機構)によって2023年に設立された組織です。クリエイティブ産業の推進に向けた教育プログラムの提供やビジネス創出の支援を行っています。
情報技術の中でも特に3D技術やAIに焦点を当て、デジタルアーカイブに関わっているプロジェクトです。オンラインで3Dによるデジタル化を体系的に学べるコースの公開や資格制度の設置、先端技術を活用したツールの提供、研究支援に従事しています。
19世紀にベニン王国(現在のナイジェリア・エド州)から略奪され、世界各地に分散した文化財や史料を集めたプラットフォームです。5000件超にわたる、地図や物語、口述伝承などのデータが保存されています。
などなど。ここまで色々と見ていると、オンラインで気軽にアクセスできる文化財関連のデータセットの存在、そしてそこに記録されているデータ量の豊富さに驚かされるばかりです。
市民の批判的思考のためのデジタルアーカイブ
上記の事例に加えて印象的だった話題は、アーカイブ運営の背景にある課題意識です。
シンポジウムでは、東京大学大学院情報学環・学際情報学府の渡邉英徳教授により、オンライン海上交通追跡サービスであるMarine Trafficを用いた、ホルムズ海峡周辺の船舶往来状況の分析結果が提示されていました。そしてこのような事例におけるデジタルアーカイブの価値とは、その時その時のデータを保存しておくことで、何か起こったときに市民が自らアーカイブにアクセスし、自らエネルギー調達の状況を調べることができる、また分析結果を発信することで別の個人や団体が情報を足してくれる、そのようなシステムが提供されることである、と語られていました。「自分が何か示せば、誰かが編集してくれる」という部分は、ウィキメディア・ムーブメントとも類似していると感じます。
この事例を敷衍した話題として、欧州における上記の事例に代表される価値観も議論に挙がっていました。当時のお話によると、デジタルアーカイブは単に見て・触れて楽しむ、あるいは失われる前に保存する、という目的のみならず、市民が判断力を磨き、社会のあり方を考え、自ら更新・改善するための拠り所として活用されるものだ、とのこと。
シンポジウム内では、このような考え方はEpistemic Infrastructureという単語で言及されていました。人の価値観の基礎を作るという観点から、文化財の保存が電気や通信のネットワークとも並置される社会基盤としていかに重視されているかが見て取れます。
私自身のイギリス留学中の体験を思い返してみても、国立博物館や美術館には無料で入場することができていました。文化に触れる豊富な機会の裏には、このような意識が流れていたのかとも思います。
「批判的思考を鍛えるためにアートに触れるべき」とはよく聞きますが、ヨーロッパでは実際にそれが政策にも落とし込まれ、種々の機関や人々によって実践されているのだなと感じました。
ウィキメディア・ムーブメントに関わる人々のお話を伺うと、デジタルアーカイブに関心を持っていたり、記事執筆やデータ編集で活用していたりする例も耳にします。そのようなデジタルアーカイブの裏にある考え方に触れてみると、ウィキメディア・ムーブメントについても、読み書きやツール作成を超えた別の活用方法も見えてくるかもしれません。
参考文献
- Europeana. (n.d.). About. Retrieved July 29, 2026, from https://www.europeana.eu/en/about-us ↩︎
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