去る9月初旬、大学が募集していたボランティアプログラムの一環で富良野に行った。大学のプログラムではあるが、せっかくめったに行けない場所に行くのだから、ウィキメディアン・ムーブメントに資することができればと思っていた。本稿では、富良野での活動とウィキメディアン・ムーブメントをどのように結びつけたか、私個人の事例について書いてみたい。
コケとウィキメディア
私の好きなもののひとつにコケがある。幼少期に屋久島に行った際には、現地のコケの写真を撮りまくり、自由研究としてまとめていたほどだ。今回も、面白そうなコケを見つけたらぜひ鑑賞しようと思っていた。
プログラム中に赴いたのは富良野岳。その中でも原始ヶ原という湿原を中心に探索し、日常生活ではあまり見ないようなコケをたくさん見ることができた。以下では、プログラム終了後、このときのコケ鑑賞の経験をウィキメディアン・ムーブメントにどう活かしたかを紹介する。
1. Wikimedia Commonsにアップロードする
ここまでコケを熱心に語っておきながら、私はコケの専門家では全くない。なのでChatGPTやPicgureThisなどの外部サービスを使って種類を判別していた。見た目がかなり似ている種類も多く、複数のサービスを取っ替え引っ替えしながら種類を見定めていった。
写真に写ったコケの同定を進めるうちに、Wikimedia Commonsにあまり写真が上がっていない種類を見つけた。ちょうど手元には画質の良い写真もあったので、アップロードしてみた。

もちろん自分が間違っている可能性も大いにある。ちょっと人任せな感じもあるが、もし間違っていたら、どなたか専門家の方修正をお願いします…。(それもオープンに編集できるデータベースの利点なのだが)
2. Wikidataを更新する
撮影したコケについてWikidataを見ていると、コケに関する情報の充実度は意外に(?)高くないことに気づいた。特に、英語のデータはあるものの、日本語訳がないケースをいくつか見かけた。
写真から種類をある程度同定できたコケの中でも、すでにアップロードされている写真のほうが高品質で、かつWikidataの情報に不足がある場合には、こちらを補強することにした。その結果、ヒジキゴケ属やシノブゴケ属など、いくつかのコケの種・属について日本語ラベルを追加することができた。
また、見つけたコケについて調べていく中で、面白いエピソードにも出くわした。上述の写真でも紹介したヒメレンゲゴケの話である。日本でヒメレンゲゴケと呼ばれる種類は、かつて学名Cladonia ramulosaに該当すると考えられていた。しかし、小竹ほか[1]による研究で、実は日本のヒメレンゲゴケはCladonia ramulosaではなくCladonia reiであることが示された。それで、現在では多くの文献で、ヒメレンゲゴケに対応する学名はCladonia reiとされている。
今回のWikidata編集でも、前述の理由から、英語でCladonia reiとされている項目に「ヒメレンゲゴケ」という日本語ラベルをつけた。ちなみに、Cladonia reiには別の和名があり、「ツエハナゴケ」として知られていた。そこで、別名として「ツエハナゴケ」も追加しておいた。コケの研究史とデータ整備の問題が交差する、興味深い話だなと思った。
コケのデータ整備というと、「そんなニッチな知識を追加して何になるのか」と思う人もいるかもしれない。実際、すべてのコケの種類を網羅することについては、その実現可能性や意義に疑問を呈する気持ちも理解できる。
しかし、険しい山道を歩く中で独特な形をしたコケを見つけて写真を撮った、その瞬間に感じた「きれい」とか「面白い」という感情。それをもっと理解できるようになりたいというのが、今の自分のモチベーションになっている。自分で見つけたコケが編集履歴として残ることには、ウェブブラウザで調べたコケの名前が閲覧履歴として残るのとはまた違った達成感のようなものがある。
また、コケに関する情報がまとめられているサイトを見ていると、Wikipediaを情報源としていることがある。しかし、いざWikipediaの関連ページを開いてみると赤リンクが大量に記載されている場合も多い。この点を顧みても、ウィキメディアン・ムーブメントにコケの情報を追加することには意味があるのではないかと思う。
コケ図鑑のような専門的な本も一般に販売されているし、出典付きでデータを補強することもできるはずだ。図鑑は図書館でも探せると思うので、また時間があるときに読んでみたい。Wikipediaの記事に至ってはスタブ記事も多かったが、こちらも同様の方法で加筆できるだろう。
そして、トレッキングがてら自然の中を歩きつつ写真撮影や植物鑑賞を行い、帰ってからWikipediaやWikidataを書き加える、そんなエディタソンがあっても面白そうだなと思った。世界中の誰かが既にやってそうなので、似たイベントがあれば行きたい。
社会教育としてのウィキメディア
富良野岳でのトレッキング終了後、その日の夜に開催された地元の方々との交流会に参加した。そこで偶然、富良野の図書館に勤務している方とお話する機会に恵まれた。ウィキメディアン・ムーブメントの話をすると、自分が働いているような図書館や、美術館・博物館などの施設の運営は社会教育の一環であること(よくGLAMとも呼ばれるものですね)、そして、そういった施設との連携を目指すのであれば、社会的な認知の拡大や普及にも力を入れたほうがいい、とおっしゃった。
この話は、学生とウィキメディアン・ムーブメントの関わりにおける現状にも通じるところがある。今回の富良野のボランティアプログラムには多くの学生が参加していたが、おそらく他の学生は、ウィキメディアン・ムーブメントへの参加もまた同様のボランティア活動のひとつであることを知らない。別の外部プログラムで学生とウィキペディアの話をしたときには、「ウィキペディアって外国語版あるんですか?」とすら言われたことがある。
今回のプログラムでは、「4年生になって就職前に時間ができたから参加した」という人や、「別のボランティアプログラムにも興味を持っている」という人もいた。また、学生であれば、別の国・地域で類似した自然や文化体験に関わる(もしくは関わった)機会もあると思う。今回は、上述のトレッキング以外に、ボランティアとして植樹や農作業にも従事したが、こういった活動と同じようにウィキペディアもまた数あるボランティア活動のひとつである。サークルや部活に並ぶ課外活動のひとつとして、ウィキメディアン・ムーブメントへの参画という選択肢があることも、もっと知られてほしい。
このブログは来る日韓ウィキメディアン交流イベントの前日に書いている。富良野では外部団体のプログラムに参加する形となったが、次は私も運営する側に入る。今回のプログラムのように、参加する方々に何らかの学びや楽しみを持ち帰ってもらえるイベントになればと思っている。
(余談1)原始ヶ原以外でもコケは見かけていたが、撮影を忘れてしまった。教訓:写真は撮れるうちに撮っておこう。
(余談2)そういえば、プログラム中はふらのワインの工場も訪れた。ウィキメディアン・ムーブメント関連でも何かあるかと思って、ブラウザで「ふらのワイン wiki」と検索してみると、まさに自分が見たブドウ畑の写真がヒット。2025年4月の新着画像としても紹介されていた。私はWikipediaに関する研究にも興味を持っているが、研究という別の視点から自分の思い出を振り返ることができるのも、ウィキメディアン・ムーブメントに関わる醍醐味のひとつだと思った。
参照
[1] 小竹ひとみほか. 日本産のCladonia ramulosaはCladonia reiか? ITS領域からの示唆. Lichenology : A journal devoted to all research fields of lichenology : 日本地衣学会誌 / 日本地衣学会編集委員会 編. 18(2):2020,p.45-50. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I030384894
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