2023年7月のウィキペディアを振り返る

ウィキペディアンの Eugene Ormandy と Takenari Higuchi が、2023年7月のウィキペディアの動向を振り返るオンライン対談を行いました。なお、前月の対談は以下のとおりです。

Eugene Ormandy

稲門ウィキペディアン会のメンバー。編集分野はクラシック音楽の演奏家、喫茶店など。2023年7月の印象に残った音楽は NewJeans の EP “Get Up” と、Sam Gendel のシングル “CD”

Takenari Higuchi

早稲田Wikipedianサークルのメンバー。編集分野はイスラーム、歴史、ポップカルチャーなど。2023年7月の印象に残った音楽は world’s end girlfriend のシングル「これは予告編です。」

2023年7月の気になったニュース

Takenari Higuchi : 今月気になったニュースは、COP28 の議長を務めるアラブ首長国連邦のスルターン・アル・ジャーベルが、自身のウィキペディア記事を修正しようとしたことですね。修正しようとした記述は、アブダビ国営石油会社のCEOを務めていたことです。環境問題を取り扱う COP28 の議長としては、相応しくないと判断したのでしょうね。なお、このニュースは英語版ウィキペディアにおける新聞プロジェクト Signpost や、ガーディアンCNNで紹介されています。

Eugene Ormandy : 7月はウィキメディア財団のブログ Diff に興味深い記事がたくさんアップされていました。6つ紹介します。

1つ目は “Unleashing Africa’s Knowledge: WikiFocus on the African Environment” という記事です。こちらは、アフリカの気候変動に関するウィキペディア記事を充実させることを目標としたプロジェクト WikiFocus を紹介する記事です。恥ずかしながら、私は気候変動についてあまり学んでこなかったのですが、この記事と今月の酷暑を受けて「きちんと勉強しなくてはいけないな」と感じました。

2つ目は “Announcing the 2023 Community Insights Report” という記事です。こちらは、ウィキメディア財団が実施した “2023 Community Insights Report” について報告する記事です。アクティブユーザーのジェンダー比や年齢構成についてまとめてあり、大変興味深いです。

3つ目は “High stakes for the Wikimedia projects in Portugal: Fighting a strategic lawsuit against public participation (SLAPP)” という記事です。自身のウィキペディア記事の内容に不満を覚えた人物に提訴されたウィキメディア財団に対し、ポルトガルの裁判所が個人情報の提出を要求したという内容です。EU一般データ保護規則 (GDPR) との関連もあり、個人情報をめぐる問題として注視しなくてはいけないなと感じました。

4つ目は “ABC for Fundraising: Advancing Banner Collaboration for fundraising campaigns” という記事です。ウィキメディア財団のファンドレイジングについて説明した記事ですね。先月の対談でも述べたとおり、ウィキメディア財団は年次レポートで苦しい財政事情を明かしているので、なんとか頑張っていただきたいものです。余談ですが、このブログ記事のタイトルはとてもセンスがあると思います。

5つ目は “Abstract Wikipedia gains new support from The Rockefeller Foundation” という記事です。抽象ウィキペディアというプロジェクトを、ロックフェラー財団が支援したという内容です。ちなみに、グーグルも同様の支援をしています。私は抽象ウィキペディアについてはやや懐疑的なので、これらのニュースには驚かされました。

6つ目は “Wikitongues selects 21 Language Champions to preserve endangered tongues” という記事です。ウィキペディアが少数言語を保護する役割を果たしていることを再認識しました。

2023年7月の編集活動

Takenari Higuchi : 今月は、日本の首相を務めた羽田孜の下書きを作成していました。私はかねがね「首相経験者のような重要人物のウィキペディア記事はきちんと充実させたい」と思っているのですが、書くべきことが多く取捨選択が大変なので、まずは任期の短い首相を書こうということで、羽田を選びました。

また、ウィキメディア財団のブログ Diff に「One Month, Four Prides:ひとりで臨んだプライド月間エディタソン」という記事を寄稿しました。

Eugene Ormandy : 7月はあまりウィキペディアを編集しなかったのですが、 Diff に17本の記事を寄稿しました。

注力したのは書評記事です。シリーズものの「ウィキペディアンの読書記録」のほか、朝日新聞クロスサーチを活用した記事も作成しています。

一方、「東京23区の公共図書館をウィキペディアの編集に活用する」シリーズは、全く着手しませんでした。というのも、とにかく暑くて遠出をする気になれなかったからです……。かろうじて、所用で大阪に行った際に訪問した、中之島図書館の活用記録は作成しました。

インタビュー記事はいくつか作成できました。クラシック音楽仲間の Wadakuramon さん、立教大学で講義をした逃亡者さん、稲門ウィキペディアン会の盟友 McYata さんにお話を伺いました。もちろん、毎月恒例の Takenari Higuchi さんとの対談記事も作成しました。

また、ウィキメディア・コモンズの資料を紹介する記事も作成しました。ウィキメディアンの Asanagi さんの作品を紹介した「ウィキメディア・コモンズとユーモア」という記事には思い入れがありますね。優秀なウィキメディアンの実績は、きちんと検証できる形でまとめるべきだと私は常々思っているので。

ジャーナリスティックな(と自分では思っている)記事も作成しました。具体的には、ツイッター (X) における日本語版ウィキペディア利用者たちの言論をまとめた記事と、国立国会図書館関西館が運営する情報サイト「カレント・アウェアネス・ポータル」が、ウィキメディアに関する誤報を訂正した経緯をまとめた記事ですね。どちらも「後世の人が検証できる形で記録を残さないといけない」という思いで作成しました。

特にカレント・アウェアネス・ポータルの誤報については、訂正版を読んでも「どこが間違っていたのか・間違った原因は何なのか・どのようなきっかけで訂正されたのか」が明記されていないので、自分でまとめました。過去のミスを正確に把握できる環境を整えることは、非常に重要だと私は思っています。

あとは、ウィキペディア図書館に朝日新聞クロスサーチと Web OYA-bunko の追加をリクエストした経緯も記事にまとめました。単なる報告記事ではなく、いかに日本語版ウィキペディア利用者が両サービスを活用しているかについても記載しています。

2023年7月の印象に残った記事

Takenari Higuchi : 印象に残った記事は [[ユヴェントスFC]] です。有名なサッカークラブについての記事が「良質な記事」となるのは、好ましいことだと思います。他のサッカークラブのウィキペディア記事を書こうと思った時も、これを参考にすればいいので。

Eugene Ormandy : 今月印象に残ったのは [[チャリで来た]] ですね。記事の内容はもちろん、Asanagi さんが作成されたパロディ画像も素晴らしいです。

ウィキメディアンの Asanagi さんが作成した「チャリで来た」のパロディ画像。Wikimedia Commons [[File:We came by bicycle 2023-07-16.jpg]] (Asanagi, CC0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:We_came_by_bicycle_2023-07-16.jpg

まとめ

この月例対談も7回目。我々の着眼点の違いも浮き彫りになってきたのではないかと思います。今後もそれぞれ別の観点から、ウィキメディア・ムーブメントに参加し、観察しようと思います。