大宅壮一文庫が第48回情報科学技術協会賞の優秀機関賞を受賞

2023 年6月28日、雑誌専門図書館の大宅壮一文庫が、第48回情報科学技術協会賞の優秀機関賞を受賞しました。本稿ではその概要を紹介しつつ、大宅壮一文庫をこよなく愛するウィキペディアンとして感想を述べます。

大宅壮一文庫。CC0.

受賞について

『情報の科学と技術』73巻10号に収録されたレポート「「第 48 回情報科学技術協会賞」を受賞して」は、大宅壮一文庫の受賞理由として、雑誌の収集・公開・保存活動や、雑誌記事索引の作成、さらにはデータベースWeb OYA-bunkoの運営を挙げています。

これを受けて、大宅壮一文庫の鳥山専務理事は「近年の雑誌文化衰退で利用者が急減し、存続の危機を脱しようと懸命の努力を続けているさなか、『大宅壮一文庫の独自検索システムは、わが国のジャーナリズムや文化の発展に寄与した』と評価していただいたことは、何にも勝る励ましとなりました」「週刊朝日までが休刊となり、雑誌文化の危機が進むいま、私たちは『(Web OYA-bunko の)新システムを利用すれば,ネットにない秘蔵の雑誌記事を発掘するなどの楽しみが増え、面白いアイデアのヒントをつかめる。大宅文庫は“発想工房”として新たな使命感を持ち、存続・発展していきたい』と願っています」というコメントを寄せています。

ウィキペディアンの感想

私は大宅壮一文庫をこよなく愛するウィキペディアンで、「名曲喫茶クラシック」などの喫茶店記事を編集する際、大宅壮一文庫の雑誌資料を大いに活用しています。また、ありがたいことに、職員の皆様のご協力のもと WikipediaOYA という編集イベントを主催しています。

そんな私は、鳥山専務理事の「大宅文庫は“発想工房”として新たな使命感を持ち、存続・発展していきたい」というコメントに大変感激しました。というのも、私自身ウィキペディアンとして、大宅壮一文庫からたくさんの発想を得ているからです。キーワード検索、パスファインダー、大宅式分類法を活用した記事編集はもちろんのこと、迷宮のような書庫の見学会や、一風変わったウィキペディア編集イベントの開催など、「発想工房」大宅壮一文庫のおかげで思いついたプロジェクトは多々あります。

なお、大宅壮一文庫から影響を受けているウィキペディアンは私ではありません。多くのウィキペディアンが大宅壮一文庫やWeb OYA-bunkoを活用し、その独自性や有用性に惹かれています。

大衆文化に関する記事は多くのWikipediaの読者から注目を集めますが、一方で、情報が掲載されている場所が大衆向けの雑誌であることも多く、気軽には存在を知ることが出来ないこともあり、記事の内容が充実しているとはいいがたいものが多いの現状です。しかし、Web OYA-bunkoのような大衆向けの雑誌を専門としたデータベースの存在によって、それらについての情報を得ることが可能となり、そうしたWikipediaの記事の充実に活かすことが出来ます。

Takenari Higuchi「データベースとWikimediaのさらなる連携に向けて #2:Web OYA-bunkoの活用事例」『Diff』2023年8月10日。2023年10月5日アクセス。

書庫見学は2回目だったのですが、見る度に新たな発見があると感じています。よく読んでいる雑誌でも10年前、20年前、創刊当時はどんな姿だったのかということを知る機会は中々ありません。書庫見学を通じてその歴史を肌で感じることができるのは貴重な経験だと思います。

また、検索システムも非常に工夫されており、大学のレポートを書く際にも役立つものだと感じました。

今後より大宅壮一文庫を活用していきたいです。(引用者注:Lakka26さんのコメント)

Eugene Ormandy, Uraniwa and Lakka26「早稲田Wikipedianサークルと稲門ウィキペディアン会が大宅壮一文庫を見学」『Diff』2023年3月28日。2023年10月5日アクセス。

大宅壮一文庫を初めて訪問しました。書庫ツアーでは、膨大な雑誌のバックナンバーに圧倒されました。独自の分類法や索引項目によって、書籍では見つけにくい雑誌ならではのトピックが探せるのは、頼もしいシステムだと感じました。貴重な機会をありがとうございました。–Mayonaka no osanpo会話) 2022年11月20日 (日) 06:27 (UTC)

日本語版ウィキペディア [[プロジェクト:アウトリーチ/GLAM/WikipediaOYA20221119]] 2022年12月26日 (月) 14:26 (UTC) 版より引用。‎

(引用者注:Web OYA-bunkoとは)大宅壮一文庫という雑誌専門図書館が提供しているデータベースで、上述の通り雑誌記事の見出し検索が可能です。すなわち「雑誌には取り上げられるが、1冊の本になるほどではない物事」を調べるのにとても便利です。

kezawa「Web OYA-bunkoが調べ物に便利すぎてヤバい」『けざわメモ』2023年8月25日。2023年10月5日アクセス。

せっかくなら自分のペースで大宅壮一文庫の資料をふんだんに使った記事が書いてみようと思いまして、1か月ほど前から大宅壮一文庫をはじめ、各所で資料集めと地道なメモ作成をさせていただきました。今回の準備期間は悩みながらも、すごく楽しい時間を過ごさせていただきました。今後もお世話になりたい、そんな場所です。–Araisyohei(talk) 2022年11月27日 (日) 13:50 (UTC)

日本語版ウィキペディア [[プロジェクト:アウトリーチ/GLAM/WikipediaOYA20221119]] 2022年12月26日 (月) 14:26 (UTC) 版より引用。‎

雑誌記事のデータベースである Web OYA-bunko で、蓬莱屋の記事がいくつかヒットした時は「これはいける!」と思いましたね。(引用者注:逃亡者さんのコメント)

Eugene Ormandy「【インタビュー】とんかつ屋のウィキペディア記事を編集する」『Diff』2023年6月1日。2023年10月5日アクセス。

大宅壮一文庫の検索システムで、ウェディングケーキや結婚披露宴に関する雑誌記事を検索し、ヒットした雑誌の中から約30冊ほどを取り寄せて閲覧しました。閲覧した雑誌は、女性誌・週刊誌・経済誌・生活情報誌など様々なジャンルにわたり、発行年も1950年代から2022年までと幅広かったです。これらの多様な資料は、直接記事の出典として使えるのはもちろんのこと、記事を書くに当たって多角的な観点を意識したり、それぞれの時代の雰囲気をイメージしたりするのにも役立つと感じました。今後も引き続き利用していきたいです。–Kinstone会話) 2022年11月23日 (水) 07:45 (UTC)

日本語版ウィキペディア [[プロジェクト:アウトリーチ/GLAM/WikipediaOYA20221119]] 2022年12月26日 (月) 14:26 (UTC) 版より引用。‎

検索データベースである Web OYA-bunko (有料) は見出しなどを詳細に登録しており、非常に使いやすい。また、国立国会図書館が作る雑誌記事索引に入っていない一般雑誌が含まれているのが強みだ。たとえば今回のエディタソンで私は [[マグノリアベーカリー] ] (ニューヨークに本店があるカップケーキが有名なベーカリーチェーン)の記事を書いたが、国立国会図書館が作っている雑誌記事索引のオンラインデータベースであるざっさくプラスで「マグノリアベーカリー」を検索すると一件も出てこない一方、Web OYA-bunko では十四件もヒットする。マグノリアベーカリーはテレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』に登場して世界中で知られるようになり、一時期表参道にも支店があった。報道記事の日付を見ると、『セックス・アンド・ザ・シティ』で取り上げられて人気が出た少し後と、日本に出店した前後に雑誌で多数の報道があったことがわかる。こういう流行りものは一般雑誌には記事が出るが、学術雑誌や論壇誌にはなかなか載らないし、そうした雑誌で言及されたとしても検索では引っかからないことが多い。Web OYA-bunko は調べ物をする人には強い味方だ。

北村紗衣「大宅壮一文庫でウィキペディアを書く」『白水社の本棚』2022年夏号、7ページ。

謝辞

大宅壮一文庫のファンとして、今回の受賞を心よりお祝い申し上げます。これを機に、様々な方が大宅壮一文庫の魅力を知ってくれることを願っております。

末筆にはなりましたが、普段から大変お世話になっている大宅壮一文庫職員の皆さん、特に鴨志田浩さんに感謝申し上げます。今後とも何卒よろしくお願いいたします。