ポッドキャスト「要出典なウィキ話」のパーソナリティ樋口タケナリさんへのインタビュー

2023年11月12日、稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy が、ポッドキャスト「要出典なウィキ話」のパーソナリティを務める樋口タケナリ (Takenari Higuchi) さんへのオンラインインタビューを実施しました。なお、インタビューを行った時点で公開されていたエピソードは「01. ウィキペディアンとは何者か」と「02. 推し活とウィキペディア」の2つです。

今までどんなポッドキャストを聞いていたのか

Eugene Ormandy : 「要出典なウィキ話」を立ち上げていただき、本当にありがとうございます!とても意義のあるポッドキャストだと思います。ウィキメディアをテーマとした日本語のポッドキャストシリーズは、恐らくこれが初ですからね。また、内容もよく練られていて大変面白かったです!

Takenari Higuchi : ありがとうございます!

Eugene Ormandy : 今回のインタビューでは、「要出典なウィキ話」を立ち上げる以前の話も伺いたいのですが、そもそも Takenari さんはいつ頃からポッドキャストを聞くようになったのでしょうか。

Takenari Higuchi : 3年ほど前から聞き始めました。高校生のころですね。ツイッターで中東関係の情報を収集していた際に、朝日新聞のポッドキャストを知ったことをきっかけとして、ニュース系のポッドキャストを聞くようになりました。また、1年ほど前からは、雑談配信も聞くようになりました。

朝日新聞のポッドキャスト「ニュースの現場から」

Eugene Ormandy : ポッドキャストは普段、どのような時に聞かれますか。

Takenari Higuchi : 通学中や作業中に聞き流していますね。じっくり聞くというスタイルではないです。

Eugene Ormandy : なるほど、それは意外でした。

Takenari Higuchi : 私はお笑い芸人のポッドキャストはあまり聞かないのですが、それは「面白すぎて聞き流せないから」なんですよね。多少聞き流しても問題ない「いい塩梅」の番組を私は好んで聞いています。

ポッドキャスト「ミリしらBL大辞典」

Eugene Ormandy : Takenari さんは2022年12月から、吉塚ちよさんと一緒に「ミリしらBL大辞典」というポッドキャストを運営していますよね。こちらは聞き流されることを前提に収録されているのでしょうか。

Takenari Higuchi : そうですね。「話したことの4分の1でも聞き手の頭に残ればラッキー」程度の気持ちで話しています。また、そもそも「ミリしらBL大辞典」は内容よりも、2人が話している雰囲気を楽しんでいただければと思って収録しています。

Eugene Ormandy : なるほど。重視されているのは雰囲気なんですね。

「要出典なウィキ話」の目標

Eugene Ormandy : 2023年11月には、Takenari さんが1人でウィキメディアについて語るポッドキャスト「要出典なウィキ話」を立ち上げましたね。

Takenari Higuchi : はい。10月末にふと思い立ち、一気に収録しました。

Eugene Ormandy : 「要出典なウィキ話」も、聞き流されることを前提としているのでしょうか。

Takenari Higuchi : そうですね。ただ、じっくりと情報を紹介する性格は「ミリしらBL大辞典」よりも強いですね。そのため、「ミリしらBL大辞典」を30分から40分程度の尺にしているのに対し、「要出典なウィキ話」の尺は10分程度としています。

Eugene Ormandy : おしゃべりの雰囲気を楽しんでもらうことを重視した「ミリしらBL大辞典」が長尺であるのに対し、様々な情報を紹介する「要出典なウィキ話」は、ある程度集中して聞いてもらうために短い時間としているということですね。

Takenari Higuchi : はい。また、解説系の動画やポッドキャストは、初心者も聞きやすいよう「詳しい人」と「初心者」の対話形式で収録することが多いのですが、「要出典なウィキ話」は1人語りなので、聞いてもらう工夫を色々と行わないとなと思っています。

Eugene Ormandy : なるほど。「要出典なウィキ話」の目標などは設定されていますか。

Takenari Higuchi : 「ウィキペディアは誰でも編集できるメディアなのだと知ってもらうこと」ですね。もちろん、このポッドキャストを聞いて実際にウィキペディアを編集してもらえれば大変嬉しいのですが、まずはその一歩手前を目標としようと思っています。

Eugene Ormandy : 素晴らしいですね。ウィキペディアに限った話ではありませんが、実際に参加している人の話を聞くことって大事ですものね。

Takenari Higuchi : そうですね。特にウィキペディアは「よく知らない誰かが編集している」「謎の組織が特定の目的を持って編集している」と思われることが多いですからね。

Eugene Ormandy : たしかに、ウィキペディアは誰でも編集可能だと知らない方って、おそらく大勢いらっしゃいますものね。先日読んだウィキペディアイベントのレポートでも、参加者の声として「ウィキペディアを編集するためには学位が必要だと思っていた」というコメントが紹介されていました。

Takenari Higuchi : 私も Eugene さんもある程度キャリアを重ねたウィキメディアンなので、正直なところ初心者の頃の気持ちって忘れてますよね。

Eugene Ormandy : そうですねえ。

Takenari Higuchi : なので、「要出典なウィキ話」は、リスナーの気持ちを自分が体感的にわからない状態で話さなくてはいけないという難しさがあります。

Eugene Ormandy : なるほど。個人的には、その難しさは他の分野のパフォーマンスにも共通するところがあるんじゃないかなと思います。例えば、私はプロの音楽家の知り合いが何人かいるのですが、彼らは「演奏会に行っても、ファンの頃と同じような楽しみ方はできなくなった」と言います。

そのため、私はパフォーマーとして何かに携わることになった場合、そのパフォーマンスの受け手としての経験を事前にある程度積んでおくことをモットーとしていますね。一度パフォーマーになってしまうと「純粋な受け手」としての経験ができなくなるので。

Takenari Higuchi : 私も同じです。実際、「要出典なウィキ話」を始めるにあたっては、1人語りのポッドキャストを色々と聞きました。

Eugene Ormandy : なるほど。素晴らしいですね!

「要出典なウィキ話」で取り上げるトピック

Eugene Ormandy : Takenari さんは第2回で「推し活とウィキペディア」というエピソードを収録していますよね。ポップカルチャーのファンとして、質の高いウィキペディア記事を量産している Takenari さんらしいなと思いながら聞いていたのですが、「要出典なウィキ話」は今後、推し活やファンカルチャーとウィキペディアとの関わりを主に取り上げていく予定なのでしょうか。

Takenari Higuchi : 推し活以外にも、このポッドキャストでは様々なテーマを取り上げる予定です。比較的早い段階で「推し活」を取り上げたのは、自分が話せるテーマの中で比較的キャッチーだったからです。先ほどもお話ししたとおり、このポッドキャストの目標は「ウィキペディアは誰でも編集できるメディアなのだと知ってもらうこと」さらには「ウィキメディア・ムーブメントについて知ってもらうこと」ですので、色々な人に聞いてもらうためのキャッチーな仕掛けを施さないとと思っています。

なお、実際にこの回を聞いていただければわかるのですが、トークには「推し活」という単語はほぼ登場せず、参考資料である論文にある「ファンカルチャー」や「参加型文化」という言葉が使われています。そのため、タイトルに推し活という単語を使うか迷ったのですが、「ファンカルチャー」や「参加型文化」よりも「推し活」の方が多くの人に興味を持ってもらえるだろうと思い、このタイトルにしました。

Eugene Ormandy : なるほど。戦略的ですね。

Takenari Higuchi : ありがとうございます。なお、「要出典なウィキ話」は、過去に生まれた作品を継承している面もあります。構成は他の1人喋りのポッドキャストを真似していますし、話し方は「ミリしらBL大辞典」で身につけたテクニックを援用しています。アートワークは、ウィキメディアをテーマとしたポッドキャスト「WIKIMOVE」を参考にしていますし、メタウィキに作成したプロジェクトページ [[Citation Needed Wiki Stories Podcast]] は、[[FKA Podcast Series]]を参考にしています。これはまさに、ドミニク・チェンさんが『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』という著作で説明している「過去に生まれてきた作品の断片が、現在の作者によってひとつの新しい作品の一部として組み込まれ、さらにはその作品の断片も未来の作品として使われるという流れ(26-27ページ)」そのものだなと感じています。

Eugene Ormandy : 貴重なお話をありがとうございました!今後のエピソードも楽しみにしています!

感想

「要出典なウィキ話」は、理想的なアウトリーチ活動の一つだと思います。明確な目標のもと、リスナーが興味を持ちそうなトピックや聞きやすさを追求する姿勢は、私も見習わなくてはと感じました。