テレビ番組『有吉弘行の脱法TV』のウィキペディア記事を立項する

稲門ウィキペディアン会Eugene Ormandy です。2023年12月20日に、テレビ番組『有吉弘行の脱法TV』の記事を日本語版ウィキペディアに立項しました。本稿では、このウィキペディア記事を立項した経緯や、その際に考えていたことについてまとめます。

テレビ (Hana Kirana, CC BY 2.0)

立項の経緯

私はテレビバラエティが好きで、面白そうな番組の情報を集めるために Twitter (X) を活用しています。具体的には、テレビバラエティファンのアカウントを数多くフォローし、タイムラインに表示される評判の良い番組を TVer の見逃し配信機能で視聴しています。

2023年11月、フォロワー達が一斉に「『有吉弘行の脱法TV』がすごかった!」と投稿していたので、早速時間を確保して観ることに。2022年にテレビ好きを驚愕させた実験番組『ここにタイトルを入力』でディレクターを務めた原田和実さんと、全曜日のゴールデン&プライム帯に冠番組をもつ有吉弘行さんのタッグということで、否が応でも期待は高まります。

番組の内容は、「コンプライアンス」の関係で地上波のテレビ番組では放送できないとされているものを、なんとかして放送しようというもの。この情報だけだと、単なる露悪的な番組と思われるかもしれませんが、「アーティストやスポーツ選手のタトゥーは放送可能だが、お笑い芸人のタトゥーは放送できない」といった不可解な制約に対し、「タトゥーの入ったアーティストをお笑い芸人としてデビューさせる」という解決案を提示するなど、ユーモアと批評性を帯びた番組でした。

また、物事の限度を検証するという本番組の姿勢は、TBSの鬼才・藤井健太郎さんが演出を務める『水曜日のダウンタウン』や、藤井さんが過去に制作した『限度ヲ知レ』といった番組に影響を受けているのかなとも感じました。

テレビプロデューサーの佐久間宣行さんと藤井健太郎さんによる対談。27分10秒ごろから『限度ヲ知レ』について話している。

あまり好みではない部分もありましたが、番組の制作手法や、目標を達成するための意欲は凄まじいと感じました。ただ、この段階でウィキペディア記事を立項しようとは全く思わず、友人にオススメするだけで終わりました。

ウィキペディア記事を立項する

2023年12月20日、『有吉弘行の脱法TV』が2023年11月度のギャラクシー賞月間賞を受賞したことが発表されました。

私はこのニュースを受けて、番組のウィキペディア記事を立項しようと思い立ちました。というのも、放送批評懇談会が授与するギャラクシー賞は、視聴者、出演者の双方から一定の信頼を得ているため、ウィキペディアの出典として活用できそうな批評記事、解説記事がいくらか公開されると予想したからです。

そしてその予想は当たっていました。Google で検索したところ、お笑いナタリーORICON NEWS といった、エンタメに強いメディアや、産経新聞といった新聞社の記事がヒットしたからです。

ただし、それらの記事にすぐには目を通さず、まずはウィキペディア記事の構成を大まかに考えました。絶対に必要となる章は「内容」「出演者」「評価」だろうと予想し、情報過多でそれらの章が肥大化したら、別の章を新設して記載しようという見通しを立てました。

余談ですが、エンタメ作品のウィキペディア記事はしばしば「内容やキャラクターについての情報ばかりが長大化し、評価の章があまり充実していない」と指摘されます。そのため、出典となる記事を読むにあたり、批評に関する記述があまり見当たらなかったら、『有吉弘行の脱法TV』の立項は行わないつもりでした。

なお、このようなエンタメ作品のウィキペディア記事についての分析に興味がある方はぜひ、早稲田WikipedianサークルTakenari Higuchi さんが運営するポッドキャスト『要出典なウィキ話』の「推し活とウィキペディア」という回をお聞きください。

10分15秒あたりから、日本語版ウィキペディアのポップカルチャー記事で、評価に関する記述が充実しているものは少ないという指摘がなされています。

閑話休題。出典となる各種ウェブ記事を読んだところ、「内容」「出演者」「評価」にあたる記述はバッチリ記載されていたので、淡々とまとめていきました。

「内容」の章は、一つの記事を骨子として活用しつつ、別の記事で補足しました。細かくなりすぎないよう自分なりに注意したつもりです。「評価」の章は、それぞれのライターの批評を引用してまとめました。単純な箇条書きとならないよう、それぞれの批評の内容や分量を考えて配置しました。

意外ですが、「出演者」の章は少し悩みました。なぜなら、単に出演者の名前を記載するだけでは不十分だと思われたからです。

『有吉弘行の脱法TV』には有吉さんをはじめとする芸能人のほか、素顔を隠した匿名アナウンサーが登場します。もちろん、この番組についての各種解説記事でも、当該人物は「素顔を隠した匿名アナウンサー」として紹介されています。しかし、そのアナウンサーと予想される人物のウェブサイトにアクセスし、プロフィールを確認すると、出演番組欄に『有吉弘行の脱法TV』がクレジットされているのです。

「謎のマスクマン」というお約束で紹介されていた人物の正体をうっかり口にしてしまう、お茶目なプロレスラーみたいだなと個人的には感じました(ちなみに有吉弘行さんは熱烈なプロレスファンです)。

お茶目なプロレスラーの一例 (Miguel Discart, CC BY-SA 2.0)

これらの事情を考慮し、「出演者」の章には下記の内容を記載しました。

  • すりガラス越しの女性アナウンサー
  • 企画の内容を踏まえた結果、フジテレビジョン所属のアナウンサーは出演を見合わせ、フリーの女性アナウンサーが出演したものの、そのアナウンサーも今後のキャリアを考慮して顔を隠しているという設定

その上で、注釈欄に「なお、アナウンサー大島由香里のプロフィール欄の出演情報に『有吉弘行の脱法TV』があげられている」という記載をしました。もちろん、参照したウェブサイトは今後内容が変化する可能性があるため、 Wayback Machine でアーカイブを作成しています。我ながら野暮だなあとは思ったのですが、まあ百科事典はエスプリを追求するものではないからいいや!と割り切りました。

なお、ウィキペディアは誰でも編集可能なプロジェクトですので、私が本稿で言及した構成は今後、大きく変化しているかもしれない旨、念のためお伝えしておきます。なお、私が本稿を執筆するにあたり参照した版は 2023年12月21日 (木) 09:08 (UTC)‎ です。

感想

有吉弘行の脱法TV』のウィキペディア記事を立項した経緯や、その編集時に考えていたことについて、ダラダラと書いてみました。日本語ではあまり言語化されていない「ウィキペディアンが編集時に考えていること」に関する資料の一つとして、どなたの参考になれば嬉しく思います。また、2023年の日本におけるテレビ受容に関する資料の一つとしても役立てば幸いです。