ウィキメディアの世界 2

註 : 本稿は英語版 Diff に寄稿された下記の記事を Wadakuramon が日本語に翻訳したものです。

Eugene Ormandy (21 February 2024) “Wikimedia World 2” Diff.

「ウィキメディアの世界」シリーズでは、ウィキメディア運動の様々な活動記録をキュレーションしていきます。ウィキメディアンたちが世界中のウィキメディア運動についてもっと知り、他のウィキメディアンたちの活動を自分たちのそれと比較し、自分たちの経験のアーカイヴを作成するきっかけになることを願っています。

Uraniwa, CC0

アンギカ語保存の取り組み

ウィキメディア・プロジェクトは言語保存のための偉大なツールです。多くのウィキメディアンやウィキタングスのようなプロジェクトは、この課題に取り組んでいます。

もっとも熱心に取り組んでいて有名なのはアムリット・スフィーさんで、アンギカ語と呼ばれる絶滅危惧言語の話者であり、消滅しつつある口承言語と口承文化のデジタル化に取り組んでいる研究者です。彼女の書いた記事「私はなぜ口承文化を記録するのか、あなたもそうすべきなのか」を見てみましょう。

私の言語と文化遺産を保護するために使っている方法は、「アンギカ語の口承文化」記録であり、それを異なるウィキメディア・プロジェクトにまとめていくことです。口承文化は人々の声の価値ある記録であり、包括的アーカイブを作るのは重要です。言語学者ヴィディシャ・バタチャジーは、「口承伝統の異なる形式は、コミュニティの歴史、伝統、文化遺産、民族性の独自性を表現している」と言っています。

Amrit Sufi (26 July 2023) “Why do I document oral culture and you should too?” Diff.
口承文化・言語記録ワークショップでのアムリット・スフィーさん(中央) (Sangram Keshari Senapati, CC BY-SA 4.0)

アンギカ語についてもっと知りたい時は、アムリットさんのインタビュー記事が参考になります。

アンギカ語をデジタル空間で使用する際に活動家が口にする最大の問題は、「文字」がないことです。アンギカ語は歴史的にカイティー文字で書かれてきたのですが、現在ではデーヴァナーガリー文字ヒンディー語と同じ文字)で書かれています。この文字を使ってもアンギカ語のある特定の母音を完全に表現することができません。これはヒンディー語言語圏に共通の問題です。もうひとつの顕著な課題は、デジタル教材やこの言語アプリのような資源の不足です。その結果アンギカ語からヒンディー語/英語への自動変換が起こりました。

Rezwan (27 April 2022) “Meet Amrit Sufi, who is helping to bring the endangered Angika language onto digital platforms” Diff.
2023年9月20に開催されたアンギカ語版ウィキペディアワークショップ (Amrit Sufi, CC BY-SA 4.0)

アムリットさんの活動は、他の地域のウィキメディアンに影響を与えています。2023年のウィキメディアン・オブ・ザ・イヤーを受賞したタウフィク・ロスマンさんは、アムリットさんについてDiffで紹介しています。

タウフィク・ロスマン:9月に一番興味深かったDiffの記事は、アムリット・スフィーさんの「インドの口承文化集会計画:絶滅危惧言語についての現状、希望、そして挑戦を語り合う」でした。この記事は、マレーシアの消滅しつつある言語の保存に取り組んでいる私にとって、とても示唆に富んでいました。そして他のウィキメディアコミュニティがマレーシアの私と同じゴールを目指しどのように取り組んでいるかについて、洞察を与えてくれました。

Eugene Ormandy, Kurmanbek and Tofeiku (14 November 2023) “Monthly report from Eugene, Caner and Taufik (September 2023)” Diff.
タウフィク・ロスマン、2023年ウィキメディアン・オブ・ザ・イヤー、マレーシア出身 (Don Wong for Tiny Big Picture, commissioned by The Wikimedia Foundation, CC BY-SA 4.0)

教育におけるウィキメディア運動の情報を得るために

もしあなたが教育におけるウィキメディア運動について知りたければ、メタ・ウィキの「教育/ニュース」が大いに参考になるでしょう。そこには世界中の様々なニュースが掲載されています。私が最も気に入っているメタ・ウィキの記事は、「教育/ニュース/2022年4月/タルトゥ・ウィキクラブの最年少メンバーは、15歳の学生」で、そこではウィキメディアンの声とウィキクラブの価値が紹介されています。

ピル・プリクス:「ウィキクラブを設立したのは、人々がウィキペディアへの道筋を見つける手助けをするためです。ウィキペディアに良い記事を書ける多くの賢い人たちは、その道筋をみつけられません。ウィキペディア編集の訓練コースを提供していますが、最初の記事を書くまでにものすごく時間がかかっていました。ウィキクラブでは、途中でぶつかるどんな難しい問題でもお互いに助け合い、励ましあっているんです。ウィキペディアは楽しくて社交的になりえる、これはウィキクラブが実証したいことです。」

MetaWiki [[Education/News/April 2022/The youngest member of Tartu Wikiclub is 15-year-old student]] 19:28, 22 April 2022 (UTC)
タルトゥ・ウィキクラブ (PillePrix, CC BY-SA 4.0)

もっと知りたい時には、ウィキ・エデュケーションのニュースが役立つでしょう。「ウィキ・エデュケーション」は、小規模な非営利団体で、アメリカ合衆国とカナダの大学と、ウィキペディアや他のウィキメディア・プロジェクトを繋ぐ目的のプログラムを運営しています。

STEM分野の異なる人々の伝記を追加するクローヴィス市の学生」の記事を読んでみましょう。

コンピュータ・サイエンス専攻のベンソン・カンキは、ケイトリンの感性に共鳴。

「STEM分野の様々な人物の伝記を追加するのは、同じバックグラウンドの人たちに刺激になるので、私にとって意義深いからです」と彼は語る。「ファン・G・サンティアゴのような、インターネット上ではそれほど広く知られていない人物の記事を取り上げるのは、STEM分野の可能性を多くの人たちに示すのに大切です。」

LiAnna Davis (January 22, 2024) “Clovis students add biographies of diverse people in STEM” WikiEdu.
リアナ・デイヴィスさん、ウィキ・エデュケーションのスタッフ (Sage Ross, CC BY-SA 2.0)

もっと知りたいですか?それではウィキメディア・コミュニティ・ブログDiffの「Category:Education & Open Access」の記事を見ましょう。このカテゴリーで私の気に入っているのは、「ウクライナの『教室でウィキペディアを読む』―現在は300人の教師による、将来へ向けた大きな計画」という記事で、著者アントン・プロジエクさんは2023年ウィキメディアン・オブ・ザ・イヤーの選外賞受賞者です。

このコースによって教師たちがウィキペディアに対する認識を深め、神話を打ち砕き、彼らの仕事にウィキメディア・プロジェクトをどのように活用するかを助けるのに役だったのはとても心強いです。多くの教師たちは、このコースを取る前にはウィキペディアが誰でも編集できるボランティア活動だと知らなかったと報告しています。

Anton Protsiuk (19 October 2023) ““Reading Wikipedia in the Classroom” in Ukraine — 300 teachers for now, big plans for the future” Diff.
2023年7月にウィキメディア・ウクライナ協会主催のウクライナ教育者向け会議で、コースの指導者マリーナ・チャーラさんがプロジェクトを紹介する (VitaliiPetrushko (WMUA), CC0)

日本にはフェアユースがないので、素晴らしいパロディ作品が生れた

日本のウィキメディアンとして、みなさんに「日本にはフェアユースがない」ことを伝えるのはとても残念です。それは日本のウィキメディア運動に深刻な影響を与えています。日本の有名な漫画「進撃の巨人」のウィキペディア記事をみれば、それは明らかです。英語版ウィキペディアの「進撃の巨人 (Attack on Titan)」(2024年2月16日6時1分UTC)には、『進撃の巨人』第1巻の表紙画像が載っていますが、日本語版ウィキペディアの「進撃の巨人」(2024年2月11日23時33分UTC)には画像はありません。ポスターやスクリーンショットも同様です。

しかしながら、そうしたひどい状況は予想外の結果をもたらしました。User:Asanagiさんは、日本語版ウィキペディアとウィキメディア・コモンズで活躍されていますが、「本物」の画像を使う代わりに多くのパロディー作品を創り、日本語版ウィキペディアに載せてきました。どうぞ御覧ください。

映画『サタデー・ナイト・フィーバー』でのジョン・トラボルタの有名なポーズ(1977年) (Asanagi, CC0)
ライダーキック――日本のスーパーヒーロー「仮面ライダー」の必殺技 (Asanagi, CC0)
日本の有名なインターネット・ミーム「チャリで来た」のパロディ (Asanagi, CC0)
宇宙猫」の例  (Asanagi, CC0)

もちろん私は日本におけるフェアユースの支持者ですが、フェアユースが無いことで生れるこうした作品も大好きです。