稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。本稿では、ネット記事「信頼性でWikipedia対抗 朝日新聞、講談社、小学館など無料辞書サイト」におけるウィキペディア関連の記述を引用し、感想を述べます。
書誌情報
- 岡田有花「信頼性でWikipedia対抗 朝日新聞、講談社、小学館など無料辞書サイト」『ITmedia NEWS』2009年4月22日。https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0904/22/news049.html (2024年10月25日閲覧)
経緯
「コトバンク」について調べていたところ、この記事を発見しました。
記事の内容
当該記事では、朝日新聞社と講談社、小学館、朝日新聞出版、ECナビの5社が2009年4月23日に「人名や時事用語など約43万語を無料で横断検索できる辞書サイト『kotobank』(コトバンク)」を立ち上げることが報じられています。記事中には、ウィキペディアに関する記述が2つあったので、以下のとおり引用します。
- 朝日新聞社と講談社、小学館、朝日新聞出版、ECナビの5社は、人名や時事用語など約43万語を無料で横断検索できる辞書サイト「kotobank」(コトバンク)を4月23日に正式オープンする。「信頼性の高いNo.1用語解説サイト」としてWikipediaに対抗する。
- ネット上にはWikipediaのようなユーザー参加型無料辞書サイトがあり、Web検索からもさまざまな情報が得られる。新サイトは、プロが執筆・編集した信頼性ある情報のみを掲載することで、Wikipediaや検索サイトと差別化。「信頼性の高いサイトを構築する」と朝日新聞社の大西弘美デジタルメディア本部長は話す。
感想
「ああ、辞書や百科事典をテーマとした ITmedia の記事においても、ウィキペディアは『辞書』として紹介されてしまうのか……」と頭が痛くなりました。
日本語版ウィキペディアの方針「Wikipedia:ウィキペディアは何ではないか」で紹介されるように、ウィキペディアは辞書 (dictionary) ではなく百科事典 (encyclopedia) です。とはいえ「ウィキペディアという辞書は〜」という言説はよく見聞きしますし、私もいちいちめくじらを立てたりはしません。ただ、ウィキペディアへの対抗策として生まれたコンテンツを紹介する、プロのライターが作成した記事においても、ウィキペディアは辞書として紹介されてしまうのかと思うと少しがっかりしました。
もちろん、「辞書と百科事典の厳格な区別は不可能であり、ウィキペディアにも辞書的な要素は含まれる」という批判意識のもと、ウィキペディアを意図的に「辞書」と呼ぶのはアリだと思います。また、ウィキペディアが自然言語処理のためのコーパスとして用いられる際に「辞書」と呼称するのも、個人的にはやや違和感を覚えますが妥当だと思います(「それなら『コーパス』って言った方がいいんじゃない?」とは思いますが)。ただ、当該記事はこれらのいずれにも該当しないと思います。
本稿を執筆しながら「やはり、辞書と百科事典の違いなどというものは、世間ではあまり意識されないのだなあ」と再認識しました。まあ、私もウィキペディアを編集するようになるまで、そんな違いなど考えたことがなかったので、人のことは言えないのですがね。
ただし、ウィキペディアへの適切な分析・批判、そしてそれらを踏まえた実践がきちんと行われるためには、そもそも分析対象たるウィキペディアがどんなメディアなのか、そしてどのような仕組みに基づいて運営されているのかについての正確な知識が必要です。ウィキペディアを超えるメディアや、ウィキペディアと差別化したメディアを作りたい方々には、そしてそれをプロとして報じる方々には、ぜひウィキペディアの方針文書等を読んでほしいなと改めて思った次第です。
「ウィキペディアは問題だらけだが、非常に悔しいことに、もはや市民が改善できるインターネットプロジェクトのうち一番まともなものとなってしまっている。ここを改善しないとインターネットはより悪化してしまう」という消極的なモチベーションで編集している一介のウィキペディアンとして、正確な理解に基づくウィキペディア批判、そしてそれに基づく素晴らしいプロジェクトが誕生するのを、心より楽しみにしています。
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