2024年7月27日(土)、島根県の隠岐諸島・知夫里島で、今年2回目となるWikipediaエディタソン「ウィキペディアタウンin知夫里島」が開催され、ユネスコ・世界ジオパークに認定される知夫里島の自然景観について調査し、それらについてのWikipedia記事を編集するエディタソン開催をedit Tangoから2名のウィキペディアンが講師として参加し、現地のウィキペディアン達とともに初心者のみなさんの編集活動をサポートしました。
今年1回目の「ウィキペディアタウンin知夫里島」についてはこちらのレポートをご覧ください。
edit Tango参加イベント2024 / №8 島根県知夫里島 ウィキペディアタウン知夫里島vol.2
6月下旬のプレ・エディタソンの後、2本の動画が知夫村の公式チャンネルからYouTubeにアップされました。1本は、6月の「ウィキペディアタウンin知夫里島」の様子を紹介し、この7月のエディタソンへの参加を促すもの。もう1本は、このエディタソンの題材である知夫里島の成り立ちを学ぶ講習会を紹介したものでした。主催者のウィキペディアタウンへの意気込みが感じられます。
島根県の松江にある七類港から、フェリーで2時間30分。イベント前日の夕方、知夫村に到着すると、出迎えてくれたuser:KoheiUがまず連れて行ってくれたのは、世界に2ヵ所しかないカルデラ湾(島前カルデラ)を見渡せる「赤ハゲ山」や、ユネスコ世界ジオパークに選定される名勝「知夫赤壁」でした。「赤ハゲ山」と「知夫赤壁」はこのエディタソンで編集する予定の項目なので、翌日のイベントでも他の参加者のみなさんと一緒に訪れることになっていましたが、時間帯がちがうと景色もちがうので是非、とのこと。実際、夕暮れ時の太陽の照らす海や酸化鉄の赤が特徴的な断崖の景色は昼間に見るものとはまったくちがい、また、この島の特筆事項のひとつである野生化したタヌキの多さも、目にしたのはこの夕刻だけだったので、とても良い予備視察になりました。
(日没前の赤ハゲ山からみた島前カルデラ / 漱石の猫, CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0)
翌日のエディタソンは、島で唯一の公共図書館であり小学校・中学校の図書館でもある、知夫村立図書館が会場でした。参加者は中学生から80代までの約20名で、前回も参加していた数名のほか、近隣の島や他府県から参加した初めての人もいました。その参加者層をふまえた内容で筆者から30分のWikipediaの講習を行い、その後はスクールバスでまちあるきに出ます。その後、user:KoheiUのレクチャーで題材を分析し、立候補制で「赤ハゲ山」と「知夫赤壁」から編集したいセクションを挙げてもらい、文献調査とWikipedia編集に取り組みました。
文献は知夫村立図書館で用意してもらいましたが、地方の小規模な公共図書館で入手できる文献は非常に限定的ですし、Wikipediaの執筆経験がないと見落としてしまう文献もあるものです。そこで、愛知県から講師のひとりとして参加するUser:Asturio Cantabrioに、事前に愛知県立図書館などで調査して熟練ウィキペディアンの思考で記事構成を検討し、知夫村では入手困難な新聞記事や雑誌論文を網羅的に複写を用意しておく、という作業を依頼していました。その結果、知夫村立図書館は自館に所蔵があっても今回の題材に関係すると思っていなかった文献に気づくことができ、当日の作業中にも追加の資料を発見することができました。また、知夫村では村民全戸に配布しても余るほどに『知夫村誌』を所有しており、参加者全員が基幹文献となる村誌を1冊手元においての編集活動となったことも、全体に質の高い編集活動が実現した要因でしょう。
(用意された知夫村立図書館の文献 / 漱石の猫, CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0)
参加者の最高齢は78歳の方で、かつて自宅に著名な文学者・国府犀東から贈られた「知夫赤壁」にまつわる漢詩を保管していたという人がいました。原典は数年前に火災で失われ、手元に1枚だけ残ったその写真を今回Wikimedia Commonsにアップロードして記事に挿入できたのは、この島でウィキペディアタウンを開催したことによる大きな成果のひとつであるでしょう。
参加者の最年少は、13歳の中学1年生でした。知夫村では中学生・高校生・大人を対象に村外からの島留学制度があり、自ら希望してこの島の学校に通う子どもたちがいます。このウィキペディアタウンに参加した中学生は3人いて、いずれも島留学中の子どもたちでした。編集分担を決める際に、真っ先に「地理!」「自然!」と題材の肝かつメインにばんばん立候補したのがこの中学生たちで、大人顔負けの行動力には周りがおののいていまうほど。しかし、題材の肝のセクションは、それだけに文献の量も多く、何を書くべきなのかおおいに悩むことになりました。その悩みは編集時間が残り1時間を切っても解決していなかったので、個別にディスカッションをすることにしました。
中学生のひとりの悩みは、地学の専門的な内容で文献が多く詳細なため噛み砕いて要約するのが難しかった点でした。そこで、1ページに題材の要点がまとめられている島図鑑的な本のページをコピーして、マーカーを渡して、担当のセクションに関係すると思われる「事実」の部分にラインをひいてもらいました。私も同様にチェックを入れて、その理由を話し合います。ラインを引いた事実の前後を、より詳しい文献で補足するように書くといいよとアドバイスしました。
また、「赤ハゲ山」の地質について解説したいが、文献の地質に関する記述は「知夫赤壁」について言及したものばかりなので、赤壁は赤ハゲ山の一部ではあるものの、それを赤ハゲ山全体の地質と同様であると断定して書いてよいのか?と悩んでいる中学生もいました。ほぼ文章表現だけの問題ですが、Wikipediaは本人が納得して取り組むことが重要です。「赤ハゲ山」の記事には書きにくいと感じているなら、「知夫赤壁」の記事を編集したらいいんだよ、と、最初に提示された役割分担にこだわらず編集してもらえるように伝えました。
(イベントでの初編集の様子 / 漱石の猫, CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0)
約3時間の編集時間終了後、新規立項した「赤ハゲ山」は約15,000バイトに、加筆修正した「知夫赤壁」は約9,500バイト(約6,000バイト増)になっていました。参考文献の書き漏れや各セクションの内容が多少重複することは複数人で同時に編集しているエディタソンではままあることなので、後日筆者ら講師陣で修正することは織り込み済みですが、初心者イベントでの編集記事としてはほとんど手を加える必要のない状態に仕上がっており、改めてuser:KoheiUら主催者チームの企画準備の質の高さを感じました。新規立項した「赤ハゲ山」は、その後、Wikipedia日本語版のメインページ「新しい記事」に掲載され、その月の「月間新記事賞」を受賞。そして、「良質な記事」に認定されました。選考でいただいたコメントをもとに地質の加筆や多少の構成変更は行われましたが、ほとんどの内容はエディタソンで立項された当時の文章が活かされています。Wikipediaは全体としては集合知の賜物ですが、個別の記事に関してはその題材に精通した特定のユーザーが大半を執筆したもののほうが質が良いという特徴があります。半ば以上の文章が初心者の相互扶助による編集記事が「良質な記事」になったこのケースは、極めて珍しいのではないでしょうか。
イベントの最後では、「次回は11月頃に開催予定」と、すでに第3回への計画が発表されました。私も土産に『知夫里誌』を1冊もらってしまったので、関係人口のひとりとして今後もこの島村のウィキペディアタウンをサポートしていきたいと思います。
(赤ハゲ山の象徴的景観である野ダイコンの花咲く山肌と放牧されている黒牛/KoheiU, CC0)
画像はすべてウィキメディア・コモンズ経由で提供
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