イベントレポート2024 / №9 ウィキペディアタウン@豊の国情報ライブラリー

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2024年8月4日(日)と、翌5日(月)、大分県の県立図書館・公文書館・文書館の3館を統合した「豊の国情報ライブラリー」の開館30周年を記念した事業で、2日間にわたりウィキペディアタウンが開催されました。

大分県にはかつて「おおいたペディア」と呼ばれた独自のWikiがありました。これは、Wikipedia日本語版に立項されたありとあらゆる大分県に関する項目を「食べ物」「人物」「妖怪」など様々なテーマごとに分類したリンク集で、筆者の地元・京都府丹後地方で活動するedit TangoのWebサイト「たんご百科事典」のモデルとなったものです。2020年頃には「おおいたペディア」に地域の情報を集約することを目的にWikipediaを執筆するエディタソン・ウィキペディアタウンが開催されたこともあり、私のなかの大分県のイメージはWikipedia先進県でしたが、県立図書館が主催の企画としては初めての取り組みであったことから、相談を受けた図書館関係者の紹介により、講師として図書館司書の立場から筆者が、ウィキペディアンの立場からuser:Asturio Cantabrioが指名を受け、題材選定など企画段階から協力することになりました。

edit Tango参加イベント2024 / №9 大分県大分市 ウィキペディアタウン@豊の国情報ライブラリー

まずは図書館・公文書館・文書館の各担当者が話し合い、Wikipedia編集の候補として数十の項目をピックアップされました。次に、そのひとつひとつのWikipediaの既存記述の状態を確認し、独立記事作成の目安に照らしてどのような立項が可能か、主にuser:Asturio Cantaburioが調査して回答。あわせて、主催者陣営が候補に挙げていなかったものの、大分県の題材であればこういう記事の編集も考えられるのではないかという提案を返しました。それを受けて、改めて主催者3館が協議し、文献の有無なども確認のうえ、「先哲資料館」「公文書館」「庄内神楽」「中津干潟」「伐株山」という5つの題材の編集が決定されました。参加者には高校生もいると聞いていたので、老若問わず馴染みのものであろう郷土料理の「とり天」なども候補に挙げていたのですが、堅い題材が選ばれた印象です。

日本でウィキペディアタウンと呼ばれるエディタソンは、多くの場合、まちあるきによる現地取材とセットで行われています。これは、地域の題材を正しく理解するためには文献以外の情報も大切であるという理由のほかに、日本ではウォーキングイベントの人気が高く、そのついでにWikipediaを編集するという体裁をとることでWikipedia編集活動参加のきっかけにしようという意図もあるのですが、「豊の国情報ライブラリー」の30周年を記念したこのウィキペディアタウンでは、まず情報ライブラリーの文献をしっかり使ってほしいというのが、エディタソンの大きなねらいでもありました。そのため、「参加者に文献を探すところから取り組んでほしいので、Wikipediaの出典となる文献は指定しないほうがいいだろうか」という相談もありましたが、現実問題として、イベントの短い時間で膨大な図書館資料から情報を探し出すことは容易でないことや、不慣れな初心者のWikipedia編集の後は出典情報の入力の不備をフォローする必要がある場合が多いので、フォローアップのためには文献情報リストがあるとありがたいと伝えたところ、作成していただけました。

大分県の先哲資料叢書(漱石の猫, CC BY-SA 4.0 ウィキメディア・コモンズ経由で)

2024年8月4日に開催された「ウィキペディアタウン@豊の国情報ライブラリー(一般編)」には、14名が参加していました。最初に35分間でuser:Asturio CantaburioからWikipediaとウィキペディアタウンの解説を、筆者からWikipediaの編集方法を説明しました。その後、主催者の案内で図書館・先哲資料館・公文書館それぞれのバックヤードツアーがあり、午後から3班に分かれてウィキペディアを編集しました。参加者のなかには過去に別のエディタソンに参加した経験のある人もいましたが、大半は初めてWikipedia編集に参加する初心者であったため、1班ずつグループミーティングしながら節構成をいっしょに考え、節ごとの編集の担当者を話し合って決めてもらいます。大モニターにパソコン画面を投影して説明しながら、加筆編集記事の節分けや、事前に骨格のみで下書きしておいた記事を立項して見せる編集を行い、投稿します。このイベントで編集した題材は、次の3項目でした。

大分県が県内出身の偉人の資料をまとめ、公開してきた先哲資料館の取り組みは、全国的に見てもひじょうに珍しい取り組みです。館内ツアー時には図書館ボランティアの方が、私にはまったく読めない筆文字の手紙らしき虫食い古文書の目録を作成する作業をされており、その専門性の高さに驚きました。

翌、2024年8月5日に開催された「ウィキペディアタウン@豊の国情報ライブラリー(高校生編)」には、市内トップクラスの進学校2校から、8名が参加していました。最初に35分間で行う講習は、前日の企画と役割を交代し、筆者からWikipediaとウィキペディアタウンの解説を、user:Asturio CantaburioからWikipediaの編集方法を説明しました。参加者の顔ぶれは違うものの、主催者として参加していた職員達は同じ顔ぶれであることを想定し、なるべく多様な観点でウィキメディア運動を知ってもらうことをねらいました。講習のなかで紹介する事例も別のケースを題材にします。記事構成の検討レクチャーでは、前日の「伐株山」のグループミーティングの模造紙の使い方がとてもよかったので、それをモデルに題材分析と節構成検討のポイントを説明します。その後、3班それぞれでミーティングし文献調査をしてもらいました。高校生は論文執筆などの経験もない一方、インターネットには親しんで育ってきた世代なので、安易にネット情報に飛びつくことがないよう「前半はパソコンは使いません!」とストップをかけてまずは図書館の文献を読んでもらいましたが、さすがに進学校の生徒たちは基礎学力が高く、分厚い郷土資料にも臆することなく取り組んでくれました。

この日の編集題材は、次の3項目です。

日本では2020年の新型コロナウイルス感染症の流行の際に、多くの学校が休校し、諸外国と比べても遅れがちだった教育現場でのオンライン環境が大きく改善されました。小学生から高校生まで1人1台の専用端末を購入または支給されるようになっており、大分県では高校生全員にタブレットを貸出し、学校内で使用する教育委員会のWi-Fi回線が県立図書館でも使えるようなっていたので、高校生たちは日常的に学校で使っているタブレット端末を持参し、Wikipediaを編集します。教育委員会のWi-Fi回線はIPアドレスでの編集は禁止されていたため、アカウント作成のみ代行することにはなりましたが、日常使いしているタブレットからも手軽にWikipediaを編集できるという実感は、コミュニティを身近に感じる大きな一歩になったように思います。

うっかり編集途中にブラウザバックのキーをクリックしたり、勢いよく画面をスクロールしていて間違えて編集中の画面を閉じてしまい、下書きしていた内容を消し飛ばしてしまった高校生も2人いましたが、編集時間終了の声を聞いてもなかなか手が止まらない熱意で、全員がなんらかの学習成果をWikipediaに反映させていました。残念ながらその一部には文献の表現をそのまま転用していたものもあったようで、後日削除された版もありましたが、終日、真剣に頭を悩ませていた姿を見守り応援していた主催者や、ともに頭悩ませた仲間達がそれを責めることはないでしょう。

先日、主催の大分県立図書館から、2日間の参加者のアンケート結果が届きました。「ウィキペディアに対する見方が変わった」「ウィキペディアの編集は思っていたより難しかったが、良い経験ができた」「うそを書かないようにすること、意図と異なる解釈をされないように工夫するのが大変だったが、いろいろ調べていくのがとてもおもしろかった」「文章を構築するという作業は大変だったが、自分自身で編集することがとても楽しかった」……ほとんど全員の参加者が記述で回答してくれた感想は、主催者の予想を上回る大好評であったそうです。30周年の記念事業として行われた今回のエディタソンは、単発イベントの想定で行われたものでしたが、Wikipediaの記事に「完了」はありません。本企画に関わった人々のなかからも、次!の声が遠からずあがることを期待したいと思います。

豊の国情報ライブラリー(MK Products, CC BY-SA 3.0 ウィキメディア・コモンズ経由で)

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