東久留米市立中央図書館「ウィキペディア東久留米 ~まちの写真を載せてみよう~」開催記録

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稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。2024年10月6日、東京都の東久留米市立中央図書館にて「ウィキペディア東久留米 ~まちの写真を載せてみよう~」というイベントを開催したので、その模様をまとめます。

Uraniwa, CC0

経緯

2024年春、東久留米市立中央図書館より「ウィキペディア、ウィキメディア・コモンズの編集イベントを開催してほしい」と依頼があったので、お引き受けしました。

9月には、実際に図書館を訪問して打ち合わせを実施。職員の方より「今回のイベントは、図書館が所有する昔の写真をウィキメディア・コモンズにアップロードする活動をメインとしたい」というお話があったので、私からは「そのためには、画像をアーカイブするためのウェブページを用意して、撮影者やキャプションを明記する必要があります。また、画像のライセンスは CC0, CC BY 4.0, CC BY-SA 4.0 のいずれかである必要があります」とお伝えしました。それを受けて、図書館が画像用のページを後日作成してくださいました。

東京国立博物館で開催された「プロジェクト:アウトリーチ/GLAM/ウィキマニア2024東京」のように、既存のデジタルアーカイブに収蔵されている、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスが付与された資料をウィキメディア・コモンズにアップロードする編集イベントは、いくつか先例があります。しかし、今回のような「ウィキメディアの編集イベントのために、図書館が自館の資料にクリエイティブ・コモンズを付して公開する事例」は日本では稀だと思います(日本以外では AntWeb の事例があります)。このような英断をしてくださった東久留米市立中央図書館の皆様には頭が上がりません。

東久留米市立中央図書館。(Eugene Ormandy, CC0)

イベント当日

準備

イベントが始まる約1時間半前に東久留米駅へ到着。まずは図書館近隣の米津(禅)寺へ足を運びました。

米津寺へ行った理由は、ウィキペディア記事「米津寺」に活用する写真を撮影するためです。イベント前日、日本語版ウィキペディア「Category:東久留米市の画像提供依頼」に「米津寺」の記事があったのを見て、「イベント前に写真を撮影して、画像の添付作業をイベントで実演しよう」と思い立ったのです。

先述のとおり、今回のイベントの目標は、図書館が撮影した写真をウィキメディア・コモンズにアップロードすることです。参加者たちが自ら街の写真を撮影し、その画像をアップロードする時間はありません。とはいえ、地域情報のアーカイブという文脈でウィキメディア・コモンズのレクチャーを行う以上「自分が撮影した街の写真をコモンズにアップロードし、それをウィキペディア記事に活用することもできる」ということをお伝えしなければと思ったので、上記の撮影を行いました。

イベント直前に撮影した米津寺の写真。イベント第3部にてウィキメディア・コモンズへアップロードして、日本語版ウィキペディア「米津寺」に活用した。(Eugene Ormandy, CC0)

会場へ

写真撮影を済ませたのち、12時30分ごろに図書館へ到着。会場である2階の多目的室で、職員の皆様に挨拶をしながら準備を進めました。その後、参加者のみなさまも続々と来館。今回参加してくださったのは、初心者の参加者4名(イベント終盤に1人追加)、知人のウィキペディアン3名、職員5名でした。

また、今回のイベントでは、J:COM によるテレビ取材も行われました。撮影スタッフからは「イベント参加者に密着して、編集の様子を撮影したい」というリクエストがあったので、参加者と相談の上、撮影OKな方についていただくこととなりました。

第1部 レクチャー

13時にスタート。今回のイベントは「レクチャー」「実際の編集」「その他編集(ウィキペディア編集等)」という三部構成であることをお伝えし、レクチャーを実施しました。

レクチャーではまず自己紹介を行い、今回のイベントの目標「図書館が持っている東久留米の昔の写真を、ウィキメディア・コモンズというプラットフォームにアップロードすること」を確認しました。その後は、ウィキメディア・コモンズの仕組みについて解説。実際の画面を示しつつ、ウィキメディア・コモンズは画像や動画のアーカイブであることや、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用していることについて説明しました。

レクチャーの様子。(Lakka26, CC0)

なお、ウィキメディア・コモンズの説明にあたっては、その独自性を示すことを強く意識しました。具体的には「写真なんて、SNSやブログにアップロードすればいいじゃん。なんでわざわざ面倒なウィキメディア・コモンズにアップしないといけないの?」という質問への回答として機能するよう、説明を組み立てました。

ウィキメディア・コモンズの独自性として私が強調したのは、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンスゆえ資料の二次利用が可能」という点と、「カテゴリ機能のゆえ様々なユーザーがアップロードした資料を横断的に検索できる」という2点です。ウィキメディアンの皆様にとっては冗長かもしれませんが、以下簡単に解説します。

前者の二次利用については、まず「グーグルで『東久留米』と検索すると、たくさんの画像がヒットしますね。しかし、これらの画像のうち皆さんが自由に使えるもの、すなわち、ブログやSNSなどに活用できるものはどれくらいあるでしょうか」と提起。続けて「『この写真は自由に使っていいですよ』といった宣言がなされていない限り、グーグルでヒットした画像を勝手に使うと、著作権を侵害してしまう可能性が高いです」と述べました。

その後「先ほど説明したとおり、ウィキメディア・コモンズはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠しています。つまり、コモンズでヒットした画像は、条件さえきちんと満たせば自由に使っていいのです」と説明。「いろいろな人が自由に使える画像を増やすためにも、ウィキメディア・コモンズに画像をアップロードすることは意義あることなのです」と結びました。

強調した点の2つ目、カテゴリ機能については、まず「Aさんが自分のブログにアップロードした図書館の写真、Bさんが X (Twitter) にアップロードした図書館の写真、そしてCさんが別のSNSにアップロードした図書館の写真を比較したいと思った時、いろいろなページにアクセスしないといけないから大変ですよね」と説明。その後「もし全員がこれらの画像をウィキメディア・コモンズにアップロードしてくれれば、ひとまとめで検索ができるのです」と述べました。さらに「これを助けてくれるのがカテゴリ機能です。それぞれの写真にきちんとカテゴリを付与すれば、そのカテゴリページにアクセスするだけで、それらを比較することができるのです」と説明し、実際にいくつかのカテゴリページを提示しました。

また、私が以前気晴らしに執筆したブログ記事「ウィキメディア・コモンズにおける BIG BOX 高田馬場」もお見せし、カテゴリがきちんと機能すれば、このように街の変遷を辿ることもできるのだと示しました。

2007年に撮影された BIG BOX 高田馬場。(Hykw-a4, CC BY-SA 3.0)
2023年に撮影された BIG BOX 高田馬場。(Eugene Ormandy, CC BY-SA 4.0)

レクチャーが完了したのち、実際の編集作業に進むため、参加者の皆さんにウィキメディアアカウントを取得していただきました。具体的には、私が日本語版ウィキペディア上で所持している「アカウント作成者」の権限を行使して、各自のアカウントを発行しました。日本語版ウィキペディアでアカウントにログインできれば、ウィキメディア・コモンズへの「統一ログイン」も自動的に完了します。

第2部 実際に編集してみる

全員のアカウント取得・ログインが完了したのち、実際の編集作業へ。はじめに、今回のイベントの目的が「図書館のウェブサイトにアップロードされている、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付与された画像をダウンロードし、それをウィキメディア・コモンズにアップロードすること」であることを再確認し、その後、私が一連の作業を実演しました。

なお、実演にあたっては「後で一つずつ解説するので、今は手を動かさずに見ていただくだけで結構です。細かい点でわからないことがあるかもしれませんが、今は一連の流れを把握することを優先してください」と言っておきました。これは、私が今以上にIT音痴だった頃の経験を踏まえています。自分の詳しくない分野で講師から何かを教わる際「この説明は手を動かしながら聞かないといけないの?それとも聞くだけでいいの?」という疑問を抱いたままだと、物事を効率よく理解することができません。このリスクを排除するため、今回は最初に上記のような宣言を行なったのです。

1974年にひばりが丘団地内に開館し1994年まで使われた旧ひばりが丘図書館の写真。1983年撮影。今回のイベントのために、東久留米市立図書館がクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付して公開したものをウィキメディア・コモンズにエクスポート。(東久留米市立図書館, CC BY 4.0)

閑話休題。私の実演が終了したのち、以下の作業を全員で一つずつ処理していきました。なお、図書館職員の皆様が、パソコン作業に慣れていない方を適宜サポートしてくださいました。

  • 東久留米市立図書館が写真をアップロードしたウェブページにアクセス
  • 写真をダウンロード
  • ウィキメディア・コモンズのメインページにアクセス
  • 画面左側の「ファイルをアップロード」をクリック
  • アップロードウィザードを確認し「次へ」をクリック
  • 「共有するメディアファイルを選択」をクリックし、先ほどダウンロードした画像を選択
  • 著者情報、ライセンス情報を入力
  • ファイル名、撮影日、カテゴリなどを入力

第3部 その他編集

ウィキメディア・コモンズへの画像アップロードを全員が達成したのち、各自が興味のある編集を行いました。東久留米市立図書館が所蔵する他の画像をウィキメディア・コモンズにアップロードした方もいれば、ウィキメディア・コモンズの画像を日本語版ウィキペディアにインポートした方もいました。

また、質疑応答も随時行いました。個人的に印象に残ったのは「ウィキペディアって、誰かに許可を取らなくても編集していいんですか」という質問です。これを受けて「やはりウィキメディア・コモンズの解説において、どの段階で『ウィキ』を説明するかは難しいな」と感じました。

私はウィキペディアのレクチャーを行う際、同プロジェクトが「ウィキ(ブラウザを用いれば誰でも編集できるシステム)」に準拠したものであることは、冒頭でお伝えしています。また、私がウィキペディアを編集する画面もあわせて提示することで、「ウィキペディアを編集するのに特に許可はいらないこと」を実際に体感していただくようにしています(具体的には、ブログ記事「東京外国語大学コモンズカフェ「もっと知りたいウィキペディア」開催記録」をご覧ください)。

一方、ウィキメディア・コモンズについて説明する際、はじめに「ウィキ」について解説をすると、混乱が生じる可能性があります。例えば「自分がアップロードした画像に映っている建物Aが、建物Bに加工される可能性はあるのか」などの質問が生じる可能性があります。このような質問に関しては「基本的にはないと考えてもらっていいが、広く考えると一応ある」のような複雑な回答をせざるを得ません(詳しくは Wikimedia Commons [[File:Football Field (ja).png]] などをご確認ください)。

ウィキメディア・コモンズをメインとしたレクチャーで、おまけとしてウィキペディアを取り上げる際は、ウィキについての簡単な解説もあわせて行なった方がよいなという知見を得ました。

なお、参加者からは「渋谷駅を撮影した写真を『これは新宿駅を撮影した写真だ』というキャプションをつけてアップロードすることってできちゃいますよね」という質問もありました。痛いところを突かれたなと思いつつ、不適切な画像などについては、ノートページ等で議論が可能であり、削除される場合があるということをお伝えしました。

閉会

質疑応答が盛り上がり、気がついたら16時に。「興味がある方は編集を続けてみてくださいね。ガイドラインはウィキメディア・コモンズ上にあるので、色々読んでみてください」とお伝えしてお開きとなりました。

なお、参加者の方からは「本日の講演内容や、編集方法がまとまった本はないのでしょうか」と尋ねられましたが、残念ながらイベント開催時点では存在しません。今後に期待するばかりです。

打ち上げ

その後、知人のウィキペディアン3名と一緒に、東久留米駅周辺のファミレスで打ち上げを実施。ウィキペディアの歴史や、各人の関心領域について楽しく話しました。なお、「イベントでウィキメディア・プロジェクトに興味を持ってくれたとしても、その後も学び続けられる環境があまり整備されていないですよね。何とか改善したいですね」という話も出ました。

まとめ

「図書館のウェブサイトにアップロードされている、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付与された画像をダウンロードし、それをウィキメディア・コモンズにアップロードすること」という目標は全員に達成していただけたので、とりあえず最低限の仕事はできたかなと思います。今後は、説明方法を洗練させたり、イベント後の学習ロードマップを提示したりできるようになるよう努力します。

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