ウィキペディアンの読書記録 #5 森枝卓士「保存することとインスタント食品」

ウィキペディアンの読書記録第5弾。今回取り上げるのは森枝卓士「保存することとインスタント食品」です。

書誌情報

なお、今回は紀伊國屋書店が運営する学術電子図書館 KinoDen を活用しました。

ウィキペディアに関連する記述

「保存することとインスタント食品」の第4章「料理することとインスタント食品」に、ウィキペディアに関する記述がありました。当該部分を引用します。

インスタントラーメンとアメリカのインスタント食品である、TVディナーの差異を考えたい。

常温保存ができて、お湯さえあれば、あるいはお湯さえ沸かせる環境であれば、食べられるインスタントラーメン。先に述べたように1963年、日清食品の安藤百福によって発明された。さらにカップ麺の最初が、1971年の「日清カップヌードル」である。それが、2019年の数字で世界中で1064億食作られ、消費されている。

対するTVディナーは、「そのまま食べられるようにパッケージされた冷凍食品で、複数の料理が組み合わされ、それだけで1回の食事になりえるもの」である(ウィキペディアの説明であるが、他の事典類に表記がなく、間違いではないと思うので、これを載せておく)。

森枝卓士「保存することとインスタント食品」『食の文明論 : ホモ・サピエンス史から探る』農山漁村文化協会、2021年、372ページ。

分析

ウィキペディアの記述がそのまま掲載されており、ウィキペディアンとして残念に思います。第4回の読書記録でも記したとおり、ウィキペディアにおける記述を参照する場合は、ウィキペディアそのものを参考文献とするのではなく、当該記述が出典としている資料を参考文献としなくてはいけません。

それでは、実際に筆者が参照したウィキペディア記事 [[TVディナー]] を確認してみましょう。まず行うべきは、筆者が参照した記事の版を特定することです。ウィキペディアはいつでも編集ができるので、適宜内容が変化しますが、その履歴は全て残されているので、版ごとの内容を確認することができます。 [[TVディナー]] の履歴は以下のとおりです。

日本語版ウィキペディア [[TVディナー]] の変更履歴。2023年5月3日アクセス。

食の文明論 : ホモ・サピエンス史から探る』が出版されたのは2021年なので、筆者が参照したのは「2020年6月17日 (水) 04:14 (UTC) 版 」だったと推定されます。それでは、その内容を確認しましょう。

日本語版ウィキペディア [[TVディナー]] 2020年6月17日 (水) 04:14 (UTC) 版。2023年5月3日アクセス。‎ 

「そのまま食べられるようにパッケージされた冷凍食品で、複数の料理が組み合わされ、それだけで1回の食事になりえるもの」という記述は、たしかにウィキペディアに存在していました。しかし脚注はありません。つまり、「保存することとインスタント食品」という論考は、ウィキペディアの無出典記述を「TVディナー」の定義として紹介したということになります。

なお、筆者は「他の事典類に表記がなく、間違いではないと思うので、これ(ウィキペディアの記述)を載せておく」と釈明していますが、これは調査不足と言わざるをえません。実際、上記のウィキペディア記事の脚注欄には、様々な参考資料が列挙されています。特に、脚注4で紹介されている Merriam-Webster の “TV dinner” は、「TVディナー」の定義をする上で、真っ先に参照するべき資料であるはずです。

日本語版ウィキペディア [[TVディナー]] 2020年6月17日 (水) 04:14 (UTC) 版の脚注欄。2023年5月3日アクセス。‎ 

感想

ウィキペディアは大変便利なサービスです。しかし、注意して使わなくてはなりません。ウィキペディアの活用リテラシーを身につける上で、本稿が少しでもお役に立てば幸いです。