本稿では、ウィキペディアを取り上げた2005年の『朝日新聞』の記事を紹介します。
検索方法
朝日新聞クロスサーチで「ウィキペディア」というキーワード検索を行いました。「異体字を含む」「同義語を含む」という条件のもと、対象紙誌名は「朝日新聞」にしぼり、検索対象は「見出しと本文と補助キーワード」としました。また、検索期間は「2005年1月1日から2005年12月31日」としました。
ちなみに、2004年以前の記事も「ウィキペディア」でキーワード検索を行いましたが、ヒットする記事はありませんでした。
検索結果
上記の方法で検索した結果、6件の記事がヒットしました。
- 服部桂「(記者席)主客逆転生み出したネット」『朝日新聞』2005年5月31日夕刊、15ページ。
- 「社説書き換え企画、3日で中断 滑り出しは良好、いたずら続出 LAタイムズ紙」『朝日新聞』2005年6月23日朝刊、38ページ。
- 平子義紀「(わくわくweb)「4色で塗り分ける妙味」にはまって」『朝日新聞』2005年8月28日朝刊、2ページ。
- 平子義紀「(わくわくweb)「ご当地の噂」で楽しく地域知る」『朝日新聞』2005年10月23日朝刊、2ページ。
- 「(対談)ブログ 従来のメディアと、どう融合 ダン・ギルモア氏と伊藤穣一氏」『朝日新聞』2005年10月27日朝刊、15ページ。
- 森井昌克「森井教授のインターネット講座・第321回 ウィキペディア /徳島県」『朝日新聞』2005年12月17日朝刊、29ページ。
内容
それぞれの内容を簡単に紹介します。
1本目の記事は「(記者席)主客逆転生み出したネット」です。インターネットサービスにおいては、利用者の意見が反映されたり、利用者自身が製品を作り出したりするという事例が紹介されています。ウィキペディアに関する部分を引用します。
最近流行する、ブログなどの新サービスは、数人のプログラマーが趣味で作り、同様にネットで公開してヒットしたものが多い。「ウィキペディア」は、誰もが閲覧でき、勝手に書き換えることもできる、ネット上の世界最大の百科事典だ。いいかげんな書き込みをしても、優れた意見を持った人がどこかから出現し、すぐ訂正していく。
服部桂「(記者席)主客逆転生み出したネット」『朝日新聞』2005年5月31日夕刊、15ページ。
「最近流行する、ブログなどの新サービス」という文言が時代を感じますね。
2本目の記事は「社説書き換え企画、3日で中断 滑り出しは良好、いたずら続出 LAタイムズ紙」です。ウィキシステムを活用して、新聞の社説を書き換えるという実験が失敗した事例が取り上げられています。当該部分を引用します。
新聞の社説にもっと関心を持ってもらおうと、米有力紙ロサンゼルス・タイムズがインターネット上のニュースサイトで「当紙の社説を書き換えてみませんか」と呼びかけた。ところが、一部の読者からわいせつな写真を掲載されるなどいたずらが相次ぎ、新企画は3日目で中断に追い込まれた。
「社説書き換え企画、3日で中断 滑り出しは良好、いたずら続出 LAタイムズ紙」『朝日新聞』2005年6月23日朝刊、38ページ。
だれでも書き直しができるネット上の百科事典「ウィキペディア」にならい、企画は「ウィキ社説(ウィキトリアル)」として17日に始まった。
3本目の記事は「(わくわくweb)「4色で塗り分ける妙味」にはまって」です。四色定理について解説する記事で、ウィキペディアが登場します。当該部分を引用します。
簡単な歴史については、「フリー百科事典・ウィキペディア」(ja.wikipedia.org/wiki/)で「四色定理」を調べると出てくる。アッペルらの証明については「あまりに複雑なプログラムのため他人による検証が困難」と記してある。
平子義紀「(わくわくweb)「4色で塗り分ける妙味」にはまって」『朝日新聞』2005年8月28日朝刊、2ページ。
新聞記事に「簡単な歴史はウィキペディアに書いてある」とあるのは、なかなかの衝撃ですね。
4本目の記事は「(わくわくweb)「ご当地の噂」で楽しく地域知る」です。ウィキシステムの説明に際し「ウィキペディアと同じ仕組み」という文言が登場します。
出張前に必ず使うページがある。交通機関の乗り換え案内や地図のページではない。仕事や歴史、地域のうわさを集めた「Chakuwiki」(a.chakuriki.net/chakuwiki/)だ。
平子義紀「(わくわくweb)「ご当地の噂」で楽しく地域知る」『朝日新聞』2005年10月23日朝刊、2ページ。
フリー百科事典ウィキペディア(ja.wikipedia.org/wiki/)と同じ仕組みを使い、サイトの閲覧者が自由に書き込める。さまざまな利用者が持っている知識が蓄積され、その情報にコメントを付け加えることもできる。
5本目の記事は「(対談)ブログ 従来のメディアと、どう融合 ダン・ギルモア氏と伊藤穣一氏」です。ウィキペディアをはじめとする、発信可能なメディアの登場により、新聞社の立ち位置が変わるという内容です。
伊藤:ネット上の百科事典「ウィキペディア」のように、誰でもが書き込んでオープンに批判しあえるメディアによって、多くの人がより統一性のある情報発信の方法を自然に学んでいる。
「(対談)ブログ 従来のメディアと、どう融合 ダン・ギルモア氏と伊藤穣一氏」『朝日新聞』2005年10月27日朝刊、15ページ。
これまでは新聞社が印刷や流通を押さえていたが、ネット時代にはほとんどそれがタダになり、IT企業も参入してくる。多くの人はニュースを検索サービスで探して利用するだけで、ブランドで選ぼうとはしなくなる時代が来る。
6本目の記事は「森井教授のインターネット講座・第321回 ウィキペディア /徳島県」です。ウィキペディアの特徴が説明されています。
この百科事典が内容においても従来と大きく異なる点は、最新の内容が掲載されることです。「誰でも」というインターネットの特徴だけでなく、「いつでも」という特徴も併せ持った百科事典になっています。
森井昌克「森井教授のインターネット講座・第321回 ウィキペディア /徳島県」『朝日新聞』2005年12月17日朝刊、29ページ。
しかし、誰でもが書き込めることから、不正確な記述や場合によっては悪意を持った記述がなされるという問題もあります。これらの問題も、利用者のなかから選ばれた(信任された)管理者が削除や意見交換をまとめています。分担するだけでなく、議論をしながら、より正確で有用な内容を築き上げようとしているという意味では、相互のコミュニケーションを円滑にするというインターネットの最大の特徴を利用した方法だといえるでしょう。
この記事以外にも「ウィキペディアの特徴は最新の内容が掲載されること」という指摘はしばしば目にしますが、ウィキペディアンとしては違和感を覚えます。なぜなら、[[Wikipedia:ウィキペディアは何ではないか]] という方針に「ウィキペディアは新聞ではありません」と明記されているからです。
ウィキペディアは紙媒体ではないため、編集者は現在進行形の情報を報道のように反映したり、現在話題となっている事象について単体記事を立ち上げることに走りがちです。しかし全ての検証可能な事項についてウィキペディアに含めるのは適切ではありません。
日本語版ウィキペディア [[Wikipedia:ウィキペディアは何ではないか]] 2023年7月16日 (日) 16:34 (UTC) 版。
また、そもそもウィキペディアは [[Wikipedia:信頼できる情報源]] に基づいて作成されるプロジェクトです。つまり、資料に書かれていることしか掲載できません。そのため「最新の内容が掲載される」というよりは、「既に発表された情報をまとめる」という性格の方が強いと思われます。
ウィキペディアの記事の出典には、信頼できる公刊された情報源を使用するべきです。このページでは、信頼できる情報源を識別する方法を説明します。情報源を使う必要性について議論している2つの方針ページ、Wikipedia:独自研究は載せないとWikipedia:検証可能性も参照してください。私たちが記事に書くべきなのは第三者により出版された信頼できる著者、事実確認や正確さに定評のある情報源による意見のみであり、一次情報源を独自に調査したウィキペディアン自身の意見は書くべきでないです。
もし、あなたがウィキペディアに有用な情報を提供できるのならば、ぜひそうしてください。ただし、参照先を探し出して追加する責任は、記事に加筆しようとしている編集者にあることを心にとめておいてください。情報源は可能な限り提供されるべきです。情報源のないまま、あるいは不適切な情報源に基づいた編集を行うと、異議を申し立てられたり除去されたりすることがあります。ときには、情報源のないことを書くよりも、何も書かない方がいい場合もあります。
日本語版ウィキペディア [[Wikipedia:信頼できる情報源]] 2023年3月25日 (土) 00:00 (UTC) 版。
まとめ
インターネットに関する昔の議論を参照するのは興味深いですね。他の年でも同様の調査を行う予定なので、お楽しみに。