2022年および2023年、ウィキペディアンの逃亡者さんが、立教大学でオンライン講義を実施しました。本稿では、逃亡者さんにインタビューを行い、その経緯や内容、感想について伺いました。
講義の経緯
Eugene Ormandy
本日はよろしくお願いします。逃亡者さんは2022年、2023年と続けて、立教大学でオンライン講義を実施されましたよね。その経緯について教えてください。
逃亡者
2022年の春頃、シェイクスピア研究者の北村紗衣さんから「立教大学で『人文情報・メディア学入門』というオンライン授業を担当している小澤実先生が、ウィキペディアンのゲストスピーカーを探している。よければ登壇してくれないか」という連絡があったので、お引き受けしました。
私以外のゲストスピーカーが何を話しているか気になったので、事前に他の授業を聴講したのですが、そのレベルの高さに圧倒されました。正直なところ「自分のような不完全な人間が登壇して良いものか」と悩んでしまったのですが、これを逆手にとって「ウィキペディアの不完全性をテーマにした講義を行おう」と思いつきました。
講義の内容
Eugene Ormandy
それは大変興味深いですね。具体的にはどのような講義を行なったのでしょうか。
逃亡者
まずは、下記の基本的な内容についてお話ししました。なお、内容は2022年と2023年でほぼ共通しています。
- ウィキペディアはフリーな百科事典である。
- 出典の明記、中立的な観点、独自研究の禁止という方針がある。
- ウィキは誰でも加筆できる仕組み。
- 質の良い記事としては「秀逸な記事」や「良質な記事」があげられる。
- 質の悪い記事としては「要出典」「未検証」テンプレートが貼られているものがあげられる。
- 記事を読むときは、本文を鵜呑みにせず、出典を確認することが重要。
また、講義中に記事を1つ立項しました。2022年は [[ドリヤス工場]], 2023年は [[キュンちゃん]] ですね。ウィキペディアは簡単に編集できるということを、実感していただけたかと思います。というのも、イベントなどに参加すると「ウィキペディアの記事って、投稿するとこんなすぐに公開されるんですね!誰か偉い人が内容を確かめてから公開されるのかと思っていました」という声をしばしば聞きますからね。
Eugene Ormandy
素晴らしいですね!逃亡者さんの講義を聞けた学生さんが羨ましいです。
逃亡者
ありがとうございます。なお、講義では、秀逸な記事 [[地方病 (日本住血吸虫症)]] や良質な記事 [[山本幡男]] を取り上げ、充実した内容の記事であっても、専門家が書いているわけではないことを示しました。
他にも、紙の百科事典に掲載されないような「珍項目」についてもお話ししました。具体的には、[[激おこぷんぷん丸]] と [[スタッフが美味しくいただきました]] ですね。後者は私が立項した記事です。
Eugene Ormandy
大好きな記事です!学生の皆さんにも興味を持ってもらえたでしょうね。
逃亡者
そうであれば嬉しいですね。なお、講義では「ウィキペディアは『信頼できない』のではなく、『まだ』信頼できないだけ。未完成ならば、これから完成に近づけていけばいい。信頼性が低いのなら、これから信頼性を高くしていけばいい。不完全ならば、これから完全に近づけていけばいい」という点を、特に強調しました。
例として、[[ビジネスプロセスモデリング表記法]] という記事を取り上げました。この記事は、ノートページで「2.0がすでに公開されているのに編集されていません」という指摘があったことを受けて、内容が改善されています。
Eugene Ormandy
とても素敵なアドバイスですね。「自分たちもウィキペディアを編集できるのだ」と感じていただけたのではと思います。
逃亡者
ありがたいことに、講義を受けた学生さんから、いろいろなコメントを頂きました。転載可能とのことなので、いくつか紹介します。
- ウィキペディアというインターネット百科事典の質的な充実は人文情報学的にも望ましく、専門家へのアプローチには課題が残るものの、試験的にでも実施されるよう働きかけるべきであると考えた。
- 私たちは情報を受け取る側であるだけでなく、発信する側にもなることを忘れてはならない。
Eugene Ormandy
素敵な感想ですね!
講義の感想
Eugene Ormandy
講義を実施した感想についてお聞かせください。
逃亡者
とても緊張しましたが、楽しかったです。小澤先生、学生の皆さん、北村先生など、ご協力いただいた全ての方に感謝したいですね。
Eugene Ormandy
このたびはお疲れ様でした!
まとめ
大学生にとっても、ウィキペディア・コミュニティにとっても、逃亡者さんの講義は非常に有意義だと思います。実際にウィキペディアンと接することで、受講者は「ウィキペディアは人間が編集しているのだ」と感じることができたのではないでしょうか。ウィキペディアというメディアへの社会的理解を高める上で、これは大変重要なことです。
素晴らしい講義を実施し、さらにはインタビューも快く引き受けてくださった逃亡者さんに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。