2023年6月、稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy と McYata で食事をしました。本稿では、そのお喋りの模様を紹介します。
インタビュー記事について
McYata
ご無沙汰してます。お元気ですか?
Eugene Ormandy
おかげさまで。McYata さんもお元気そうで何よりです。
McYata
ありがとうございます。Eugene さんは相変わらず、ウィキメディア財団のブログ Diff で色々な記事を作成されていますね。
Eugene Ormandy
そうですね。特にインタビュー記事や、対談記事の作成に力を入れています。ありがたいことに大変好評なのですが、やはり反省すべき点もあります。
これらの記事では、編集のモチベーションや参入のきっかけといった、やや抽象的なことについて質問しているのですが、各自の具体的な執筆対象などについて、もう少し深掘りができればよかったなと感じています。
ネイさんと McYata さんの対談で司会を務めた時の記事は、特に心残りです。おふたりの執筆分野である歴史に私が疎いため、質問への回答に対して、追加コメントや深い分析ができなかったからです。
この記事が単なる「一問一答の寄せ集め」ではなく「対談記事」になったのは、間違いなくネイさんと McYata さんのおかげです。なぜなら、双方のモチベーションが対照的であることを、司会の私ではなくおふたり自身が、対話の中で解明してくださったからです。これは本当に助かりました。その節はありがとうございました。
ネイ
わたしがイギリスの国会議員の記事を書くようになったきっかけは『英国議会史』([[w:en:The History of Parliament|The History of Parliament]]、1964年 – )です。『英国議会史』で用いられた研究手法はプロソポグラフィといい、特定のグループに所属する人物の経歴を調査することで、統計資料として活用したり、人物の相互関係を分析したりする手法です。このような調査に利用できる資料は多いものの、各所に散らばっており、それらを用いて記事を書くことで資料探しの手間が減らせるという思いがモチベーションですね。
McYata
私は対照的です。網羅的に記事を整備するのではなく、全く日本で知られていないものをとりあえず1つ訳してみて「こんな世界があるんだ!」という驚きを共有したいと思っています。特に、マイナーな分野や無視されている分野について、ウィキペディア記事が1本でもあると、認知度も高まるのではないかと考えています。また、自分の知識が広がることにもやりがいを感じますね。
Eugene Ormandy「世界史を愛するウィキペディアン」『Diff』2023年4月14日。2023年7月19日アクセス。
McYata
なるほど。私が参加した対談では、質問を事前に共有していただきましたが、他の対談記事でも同様ですか?
Eugene Ormandy
はい。そうです。
McYata
いっそのこと、質問への回答を対談前に作成してもらい、参加者間で共有するのも一案かと思います。そうすれば「対談相手のAさんは、本番でこういうことを言うのか。それなら、この点について聞いてみよう」と思ってくれるかもしれませんしね。参加者同士で活発な会話が行われれば、良い対談記事になるでしょう。
Eugene Ormandy
なるほど。
McYata
また、Eugene さんはしっかりとした構成を考えたうえでインタビューに臨む方ですが、質問の趣旨とは少し異なる話が参加者からあったとしても、軌道修正は最小限にとどめ、好きなように話してもらうのがいいかもしれませんね。
Eugene Ormandy
たしかに、司会が介入しすぎるのも良くないですからね。
McYata
大事なのは、好きなように参加者が会話した後で「出てきた素材を執筆者(司会)が拾い集めて再構成する」という手順だと私は思います。
Eugene Ormandy
なるほど。がんばります!
McYata
「対談記事をどう書くか」ってほぼ個々人のWikipedia記事の執筆思想とイコールで繋がるかもしれませんね。頑張ってください!
興味のあるもの
Eugene Ormandy
対談記事の他にも、ウィキペディア記事を執筆した時の方法論や、執筆哲学に関する記事も Diff に寄稿しています。私は特に「興味がないトピックに関するウィキペディア記事をどのように作成するか」に関心があるので、その視座に立脚した Diff 記事をいくつか書いています。
ただし、「興味があるもの」についての執筆記録も、作成したほうがいいなと最近は思っています。具体的には、私がクラシック音楽の指揮者に関するウィキペディア記事を書く時、どの程度「ショートカット」をしているかを明示したいです。
例えば、指揮者の出身国、頻繁に指揮したオーケストラ、教育活動程度は、手元に資料がなくても思い浮かびますし、ウィキペディアに活用できる参考資料を5つは挙げられます。このような「調査をする前から記事の内容を予想できるトピック」について、ウィキペディアンはどのように調査・執筆を行うかについても、記録しておいた方がいいだろうなと思っています。後世のウィキペディア研究における参考資料として役に立つかもしれないので。
McYata
それはいいですね。前提知識がたくさんある人、いわゆる「オタク」が、ウィキペディアで禁止されている独自研究に陥ることを避けながら、知識を活かして記事を編集するためのマニュアルとしても使えそうです。
Eugene Ormandy
ありがとうございます。
話が逸れますが、いわゆる「オタク」のウィキペディアンが全員「本当は独自研究をしたい」と思っているかというと、少し疑問なんですよね。実際、私は独自研究をしたいという欲は全くないですし。
むしろ私は「独自研究を続けていった結果、トンデモ論を生み出してしまったアマチュアのオタク」の怖さをよく知っている人間なので、「独自研究の禁止」に惹かれてウィキペディアに参加した節があります。「ウィキペディアって、ただ知識をまとめるだけでいいのか!」とかなり安堵した記憶がありますね。
McYata
「トンデモ論に陥らないためのウィキペディア編集」というテーマについては、ぜひ記事を書いてください。
Eugene Ormandy
了解しました。
批評
Eugene Ormandy
早稲田Wikipedianサークルのメンバーや、稲門ウィキペディアン会のメンバーはみんな知っていますが、McYata さんの批評能力は素晴らしいですよね。いつも的確な指摘をしてくださり、本当に感謝しています。両サークルが発展したのは、間違いなく McYata さんの観察眼とアドバイスのおかげです。
そんな McYata さんにはぜひ、様々な事例についての批評を、ウィキペディアの利用者ページや Diff に残してほしいなと思っています。ウィキペディアン視点の批評や、ウィキペディアそのものについての批評って、世の中に少なすぎると思うので。
McYata
まあ気が向いたら……。私はウィキペディア記事の翻訳だけしていたいので……。
Eugene Ormandy
じゃあ、インタビューや勉強会に定期的にお呼びして、それを Diff の記事としてまとめますね!今後ともどうぞよろしくお願いします!笑
McYata
お、お手柔らかに……。
まとめ
とても楽しい食事会でした。自分の活動へのアドバイスがもらえるのは、本当にありがたいですね。