本稿では、ウィキメディア・ムーブメント外のシンポジウムやフォーラムに、ウィキメディアンが参加した事例をいくつか紹介します。なお、本稿において「ウィキメディア・ムーブメント外のシンポジウムやフォーラム」とは、ウィキメディア財団やウィキメディアンたちの主催ではないシンポジウムやフォーラムを意味します。
また、筆者は日本語と英語しか解さないため、それ以外の言語で作成された一次情報は検証できていない旨、あらかじめお断りいたします。
アフリカ
2023年に Paradigm Initiative がケニアで開催した Digital Rights and Inclusion Forum (DRIF) に、ウィキメディア財団および東アフリカのウィキメディアンたちが参加しました。Paradigm Initiative はアフリカのデジタルポリシーについて協議する組織で、ナイジェリア、カメルーン、コンゴ民主共和国、ケニア、セネガル、ザンビア、ジンバブエにオフィスを構えているとのことです。
フォーラムの模様は、ウィキメディア財団のブログ Diff に寄稿された “Takeaways from Digital Rights and Inclusion Forum 2023 (DRIF23): A conversation with Wikimedians” という記事にまとめられています。会議に参加したウィキメディアンたちへのインタビューも掲載されています。
ウルグアイ
ウルグアイのウィキメディア利用者グループである Wikimedistas de Uruguay は、Agency of Electronic Government and Information and Knowledge Society (AGESIC) が主催した Digital Citizenship Working Group (GTCD) に参加しています。AGESIC は、ユネスコ・ウルグアイやユニセフといった、デジタル・シティズンシップに関係する団体の調整を行う組織とのことです。
本件について、Wikimedistas de Uruguay の Scann WDU さんは、ウィキメディア財団のブログ Diff に “Wikimedistas de Uruguay joined the Digital Citizenship Working Group” というレポートを寄稿しています。
日本
日本では、2016年5月29日に工学院大学新宿キャンパスにて開催された、日本科学史学会第 63 回年会シンポジウムに、ウィキメディアン数名が参加しました。参加したウィキメディアンは、シェイクスピア研究者の北村紗衣さん(ウィキメディアではさえぼーとして活動)、日下九八さん、さかおりさん、のりまきさんです。
シンポジウムでは、研究者のウィキペディア参入について意見が交わされたようです。その様子は、下記のレポートにまとめられています。
- 北村 紗衣、日下 九八、吉本 秀之、藤本 大士「ラウンドテーブル ウィキペディアと科学史 : 知識とコミュニケーションを考える 日本科学史学会63回年会シンポジウム報告」『科学史研究』55巻279号、221-225頁。 doi: 10.34336/jhsj.55.279_221.
なお、このシンポジウムを聴講したウィキメディアンもいました。例えば逃亡者さんは、このシンポジウムを受けて「自分はここまで執筆に力を注いでいるだろうか。ネタ切れなんて言って良いのか? まだまだ出来ることがあるのではないだろうか? きっと何か、出来ることがある。出来る限りことはやってみよう」と奮起し、ウィキペディア記事 [[矢ガモ]] を仕上げたとブログで語っています。なお、[[矢ガモ]] はのちに「良質な記事」に選定されました。
また、ブロガーの next49 さんも、「授業でWikipedia編集を行わせるときに気を付けるべきこと」という記事でシンポジウムの補足をしています。ウィキペディアにあまり慣れていない方は、まずこの記事を読むといいかもしれません。
他にもシンポジウムに参加した方々によるツイッター (X) 上の言説が、Togetter というサービスの「Wikipedia:オフラインミーティング 於 科学史学会2016 についてのツイートまとめ」でまとめられています(本稿を執筆している2023年8月時点で Wayback Machine によるウェブアーカイブは作成できませんでした)。また、日本語版ウィキペディア上にも [[Wikipedia:オフラインミーティング/科学史学会2016]] というプロジェクトページが作成されました。
世界知的所有権機関
最後に、悲しい事例を紹介します。国際連合の専門機関である世界知的所有権機関 (WIPO) の事例です。ウィキメディア財団は、過去に何度か WIPO のオブザーバーへの加盟申請をしているのですが、その度に中国に却下されています。詳細については、ウィキメディア財団がブログでまとめています。
- Wikimedia Foundation “China blocks Wikimedia Foundation’s accreditation to World Intellectual Property Organization” Wikimedia Foundation (24 September 2020)
- Wikimedia Foundation “China again blocks Wikimedia Foundation’s accreditation to World Intellectual Property Organization” Wikimedia Foundation (5 October 2021)
- Wikimedia Foundation “For third time, China blocks Wikimedia Foundation as permanent observer to the World Intellectual Property Organization (WIPO)” Wikimedia Foundation (7 July 2023)
なお、ボランティアのウィキメディアンが結成する、ウィキメディア財団から独立した国・地域別協会 (chapter) も同様の申請をしていますが、残念ながらこちらも却下されています。
- Wikimedia Foundation “Six Wikimedia Chapters Rejected as Observers to the World Intellectual Property Organization (WIPO)” Wikimedia Foundation (9 May 2022)
- Wikimedia Foundation “Seven Wikimedia chapters rejected as permanent observers to the World Intellectual Property Organization (WIPO)” Wikimedia Foundation (15 July 2022)
まとめ
ウィキメディアンが「ウィキメディア・ムーブメント外」で情報発信を行うのは、非常に意義のあることだと思います。ウィキメディア・プロジェクトという、きわめて特殊なプロジェクトの理解促進につながるでしょうし、ウィキメディアに参加してくれる人が増えるかもしれません。
本稿で紹介した事例は、ほんの一例にすぎません。詳しい方によるさらなる分析を期待しています。