このシリーズでは、理事たちがそれぞれ、着想や意見を探求し、ウィキメディア運動に関してそれぞれが気にかけていることがらについての記事を掲載します。この投稿はその第一段です。このシリーズの前座として、理事会の役割やしていること、ウィキメディア運動を引っ張っていくことにどのような関係があるのかについて、疑問にお答えしたいと思います。
理事会とは
わたしは理事に選出されるまえから、ながくウィキペディアンをしており、ウィキメディアのコミュニティの一員でもありました。コミュニティの一員として、ウィキメディア財団理事会が何者なのかすこしふしぎに思っていました。理事会はどんな仕事を、なぜしているのか? その仕組みはどうなっているのか? そこでの決定は編集者としてのわたしの活動になにか係わりがあるのか? 理事会はウィキメディア財団の最終意志決定機関というけれど、けっきょくどういうことなのか? この投稿ではそんな疑問の一端にお答えしたいと思います。
まず、理事会とはなにか、どのように構成されているのかということからはじめましょう。現在の理事会は10人から構成されます。5人はコミュニティでの選挙、あるいは国・地域別協会のなかから選出し、4人は理事会の任命により、のこるひとりは創設者のジミー・ウェールズです。複雑な構成ですが、利点もあります。大部分をコミュニティ出身の理事とすることによって、ウィキメディアの編集に携わるコミュニティの発言権を確保し、また理事自身がそのような現場の知識を持っていることが期待できます。理事会で理事を直接任命すると、理事会において、運営・財務その他の問題上必要とされる人物にお願いすることができます。選出過程の複雑さにより、理事はとても多様になります。現在の理事は8か国の出身です(タイムゾーンから見ても3人以上が同じタイムゾーンに住んでいることもありません)。英語母語話者は半分です。性別は男女同数で、世代は分散しています。ガバナンスに長けた方もいますし、ウィキメディアの活動での経験を積んだ方もいます。理事は全員ボランティアです。生計はオープンな教育事業の推進であったり、図書館・大学・技術系企業の起業支援・非営利団体や市役所であったりするところで立てています。大規模な非営利団体として、このような多方面に多様性に富むことは稀なことです。大規模な慈善団体というと、どうしても自分の出したお金の使い道を気にする大規模寄付者によって理事会が構成されがちです。それに対して、わたしたちの理事会はウィキメディアのプロジェクトを使い築く人々が直接代表しているのです。
たしかに理事会でそれぞれのプロジェクトや財団の日常的な決定にかかわることはないのですが——理事会はウィキペディアや財団で日常的に行われるようなこまかな方針の策定や決定に係わることはしません——、そういう決定について関心があるという傾向はあります。理事の個人個人は、コミュニティでの議論を読んだり携わったりすることも珍しくはありませんが、理事に求められていることではありませんし、理事会として検討しているとも限りません。コミュニティの一員どころか新任理事すら驚かせることとして、理事会がウィキメディアの問題に関わることのできることの狭さがあります。編集者の減少やアウトリーチの成功事例などといったプロジェクト内での重要な潮流は、事務長にあたえられる指示や年次計画の各種事項の優先順位の判断に影響をおよぼすことがあるものの、理事会は現場での問題解決にはかかわりません。紛争の調停、プロジェクトにおける編集上の決定、財団の現場の管理も行いません。つまり、理事会はプロジェクトやウィキメディア財団やウィキメディア運動問題に関することがらのほとんどについて、公式な立場を持っていません。それどころか、各理事が個人としては重要だと考えることがらのほとんどに対しても、理事会は総体としてしか発言できない以上、立場を持てないのです。
理事会の仕事
さて、理事会の仕事をお話ししましょう。理事会のおもな役割は、財団の事務長を雇い、また評価を与えることです。事務長はウィキメディアのプロジェクトの基盤を提供するなどのウィキメディア財団の活動を率います。つまり、理事会は年間を通じて事務長に対して方向性の指示と結果に対する評価をし、また事務長が必要になったときに人選をするということです。実際、(現在の事務長の)スー(・ガードナー)は退任を表明していて、わたしたちは次の事務長を積極的に求めているところなのです。理事会は財団の年次計画の策定に深く係わっています。年次計画としては、財団の予算や、組織の拡充と縮小、会計結果の承認があります。また、巨額の支出・収入に関する決定の最終権限も持っています。あたらしい国・地域別協会やウィキメディアに関する組織の承認もしますし、WMFの執行部からの求めがあったときや理事会が必要性を認めたときに様々な問題について助言や意見を提供することもします。また、当然ながら、理事会がきちんと機能するための努力も必要です。その一部として、あたらしい理事を迎えたり、理事同士でそれぞれの果たす役割を評価し理解を深めたりして、管理する体制を整えているのです。
このように理事会の責務は限られており、財団の成果というものは、わたしたちのすばらしくそして有能な職員とボランティアたちの手によって行われています。ですが、非公式の仕事というのも多々あります。そのなかには、ウィキメディアのコミュニティでの議論に参加したり、メーリングリストや報告の類に目を通したり、プロジェクトへの参加を続けたり、コミュニティの会合やワークショップに参加したり、ウィキメディアの外部でインタビューを受けたり、催しでウィキメディアについてお話ししたりするといったものがあります。個々の理事がいま挙げたことをどれくらいしているかはそれぞれですが、みなどれかしらのことはしています。そのほか、おたがいにコミュニケーションを取ることにも時間を費やしています。ウィキメディアの管理をするのがわたしたちの役目ですが、ウィキメディアでのやりかたとおなじで、理事会は議論と同意を重視しています。その日その日の問題を電子メールやIRCでのうち合わせ、あるいは、4か月に1回サンフランシスコの財団事務所で、年に1回ウィキマニアで、またはおりおりいろいろのところで直接顔を合せて議論しています。
指導者としての役割
指導者としての役割についてお話ししておくべきでしょう。理事会は広い意味でのウィキメディアのコミュニティに係わろうとしています。というのも、ウィキメディア財団の「世話役 steward」として、ウィキメディアプロジェクトの健全な運営に対する最終的な責任があると考えていますし、そもそも、財団はそれらのプロジェクトを支えるために存在しているからです。理事会はウィキメディア財団のなかで、もっとも法的に高い決定権を有する機関ですが、公式の役目はわざと狭くしてあります。そうすることでよい運営と実践に繫げられるからです。ですから、わたしたちは理事会としてそれぞれのプロジェクトで手続きの策定を指導したり、編集のチェックや、あたらしい参加者を歓迎するといった現場の仕事に係わったり、ソフトウェアやハードウェアに係わることを指導したり、プロジェクトを超えておおきな傾向を調査・研究したりということはしないわけです。わたしたちにできることといえば、表面的なことです。しかしそれはもっともおおきな課題や、これらのすべての仕事の結果からうまれるもっとも重要なすじみちを反映したものであり、ほんとうの危険を認識して、適切に行動することにつながります。そして、わたしたちの愛するプロジェクトが長期的に健全で活力に満ちたものであるよう、行動を起そうとします。理事会の仕事は、編集者のみなさんの日々の作業に直接影響しないかもしれませんが、財団に対して直接影響を及ぼしたり、コミュニティに対して語りかけることでそのような動向や問題について注意を促したり、またもっと単純によい作業をしているみなさんを支援したりすることはできます。しかし、これをきちんと、また確実に行うには、みなさんのご協力が欠かせません。これには、ウィキメディア内の様々な場所にリーダーを育成することが挙げられると考えています。
ウィキメディアや、ウィキメディア・プロジェクトでリーダーとなることは、おおくのひとびとにとって、わたしもそうだったのですが、突然訪れるなにかのように思います。わたしがウィキメディア運動のなかでリーダーとなるきっかけとなったのは、わたしたちの年次国際集会であるウィキマニアのおてつだいをしたことでした。ある特定の集会のおてつだいに参加したところ、それからずっと離れられずに、そうなったのです。これでウィキメディア全体に係わるプロジェクトに対してわたしが興味を持つようになり、そして、ウィキメディア財団の仕事にも関心を抱くようになりました。ウィキメディアのなかのおおくの第一人者となっているひとたちは、コミュニティにいるなかで運営に興味を持ったり、あるいはわたしのようにウィキメディアの活動を支援していくなかでそれがもっとうまく回るようにと思ったりして、あたらしい仕事に導かれたひとたちなのだと思います。でも、わたしたちのプロジェクトのどのような分野でも、こういうふうに、参加者のみなさんがリーダーになるこ���を勇気づけるようにはできていません。
わたしは、この運動の重要な課題のひとつとして、わたしたちが力を注がねばならないものとして、リーダーの育成を積極的に行うことが挙げられると考えています。これは、役職名をばらまいたり、わたしたちの原則である非エリート主義に背いたりといったことを言うのではありません。そうではなくて、なにかを進めるときに、あるいはプロジェクトのなかでリーダーの役割を担ったひとや、よい働きや発想を称えるということです。財団でできることとしては、補助金を通じてそのような個人や団体を金銭的に支えることがあるかと思います。つまり、あらゆるところで、専門性を高めるよう支援していくことです。そのなかには、非営利組織運営の詳細からウィキメディア・プロジェクトで特定の仕事をどうやるかといったことまで様々な分野であたらしい技術を教え合い学び合うことが含まれます。これはまた、わたしたちはつねに参加者を歓迎し、参加の方法をはっきりさせていなければならないということでもあります。ウィキペディアやその他のウィキメディアのプロジェクトでは、「編集」というボタンがどのページにもあって、参加を呼びかけるものとして機能しています。インターネット以外でするプロジェクトやメタな議論では、始め方すらよく分らないこともあります。ウィキマニアの準備にわたしが参加できたのは、そこが開かれた空間で、わたしやわたしのようなひとに対しても参加できるように思えたからです。おなじように、わたしたちがするどんなことでも、まだ参加していないひとたちも歓迎しているということを明確にするよう注意しなければなりません。理由は簡単です。ウィキメディアには想像を超えて難しい、そしてとても大事な展望と目標があり、それを実現するためにはまだまだ多くのひとびとからの助力を得なければならないからです。
フィーブ・アイヤーズ (user:phoebe) は、支部選出理事として2010から2012年度、またコミュニティ選出理事として2013から2015年度の理事を務めています。アイヤーズは最初の年次に理事会事務を担当し、現在は副理事長です。ウィキペディアの編集者としては10年めになります。
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