2022年5月28日に、東京にある日本隋一の雑誌専門図書館「大宅壮一文庫」でエディッタソン「#WikipediaOYA」を開催した。今回、自身(Araisyohei:ウィキペディア日本語版管理者)は運営側から企画面での協力や当日の写真・動画記録を担当した。この度、運営スタッフの一人、三浦なつみ氏によるレポートがウェブメールマガジンに掲載されたので紹介する。なお、原典のメールマガジンはテキストのみ掲載され、その他メディアについては、当方にて挿入した。
掲載誌
- 誌名:ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)[ARG-905]
- 発行日:2022年06月06日(週刊)
- ISSN:1881-381X
- 言語:日本語
内容
「Wikipedia OYAを開催しました」
三浦なつみ(墨田区立緑図書館、日本図書館協会認定司書1154号)
■概要
2022年5月28日(土)、雑誌の専門図書館「大宅壮一文庫」(東京都世田谷区)を会場とした有志企画、「Wikipedia OYA」を開催した。スタッフとして企画に賛同し、参加した視点からこの企画について紹介したい。
この企画は、誰もが編集可能なインターネット上の百科事典Wikipediaの記事を、「大宅壮一文庫」が所蔵する雑誌を用いて執筆・編集をするというもので、ウィキペディアンとスタッフ合わせて10人によりオフラインで行った。当日参加したウィキペディアンは、さえぼー、Swanee、逃亡者、のりまき、Eugene Ormandy(企画立案者)である。
コロナ禍という状況を考え、広く告知をせず有志によるクローズドな企画とした。本来は昨年の4月に実施を予定していたが、感染拡大状況により延期し、この5月での実施となった。当日の様子や情報は#WikipediaOYAでも発信されている。
■企画趣旨
「WikipediaOYA」は、雑誌という社会の動きや流行などその時代を色濃く表す媒体と、Wikipediaの相性の良さを広く知ってもらい、活用していくことを目的とした有志が集まって企画した。
雑誌は一冊にさまざまなトピックが点在しているため、必要とする情報を探し出すことは難しい。しかし、大宅壮一文庫による独自の大宅式索引分類法により、求める情報に辿り着きやすい。
膨大な資料があって手に取れること、索引によって検索が容易であること、そしてこれらの価値を執筆者であるウィキペディアンや記事を読む方に伝えたいということから大宅壮一文庫を活用するこの企画が生まれた。
■大宅壮一文庫
日本で初めての雑誌図書館「大宅壮一文庫」は評論家・大宅壮一(1900年〜1970年)の没後、そのコレクションを「多くの人が共有して利用できるものにしたい」という遺志に基づき1971年に設立された。
咋年(2021年)には設立50周年を迎え、現在も雑誌の収集を続けている。その種類は約1万2000誌にもなり、新聞やテレビなどの報道機関や調査研究などに活用されている。
しかし、インターネットの普及やコロナ禍の影響も大きく、近年は利用収入減から存続が危ぶまれている。2017年にはREADYFORを活用したクラウドファンディングも実施され、目標額を約3日で達成した。現在もパトロネージュという形で支援を募っている。
■テーマは「パン」
雑誌という特性を活かしたテーマとして、今回は「パン」が選ばれた。きっかけは、大宅壮一文庫のホームページの索引紹介ページだ。
テーマに沿った索引を集めて掲載しており、その中の「カレーパン」をヒントにこのテーマに決まった。また、単行本としてはまとまっておらず、Wikipedia上でも充実していない項目というのも理由である。
■企画当日、見学
大宅壮一文庫の鴨志田浩さんにご協力いただき、参加者に利用案内をしていただいた。まず、データベースである「Web OYA-bunko」の説明。主に1988年以降の雑誌をキーワード等により検索することができる。
私は頭がよくなると言われている「頭脳パン」について検索した。探しても見つからないと思っていた内容が、このデータベースにより見つかるという体験をした。このデータベースは、契約している公共図書館などでも利用できるがまだその数は多くない。
その後、閉架式(希望資料を職員の方に出納していただく形式)のため、通常は見られない書庫を案内していただいた。大小8室に分かれた書庫にはぎっしりと雑誌が収められていた。
現在も刊行されている雑誌の創刊号、すでに休廃刊となったもの、所蔵の中では最も古い明治8年発行の『會館雑誌』などを拝見する。また、100年前に刊行された雑誌の100年後について書かれた特集なども自らページをめくることができる。
資料が保存され、検索して見つけられ、手に取ることができる。公共図書館では、雑誌などの逐次刊行物は保存期間を過ぎると除籍してしまうことが多い。雑誌の専門図書館としての意義をあらためて感じた。
■企画当日、執筆
各自データベースや、1987年以前の目録が掲載された冊子『大宅壮一文庫索引目録』を使って必要な情報を探し、雑誌を出納する。ウィキペディアンだけでなく、スタッフも実際に利用した。
『Hanako』『東京Walker』『dancyu』などの流行や料理に関する雑誌以外に、『毎日グラフ』『週刊実話』『Seventeen』なども使われた。参加者からは「こんなに見つかるとは思わなかった」という声も聞かれた。
公共図書館で使われているMARC(機械で使う書誌情報)では、連載の詳細や特集記事の中に含まれるコラムに関する情報などは含まれていないことが多い。
企画当日に雑誌資料を出典として執筆され、公開されているのは、「ウチキパン」「かにぱん」「なかよしパン」「マグノリアベーカリー」の4記事。今後も複数の記事の公開が予定されている。
■企画を終えて
探しても見つからない情報は、ないのと同じである、と感じることが多い。反対に探し出すことができれば、その情報を使うことができる。
「本は読むものではなく、引くものだよ」と大宅壮一氏は述べたそうだが、雑誌を収集するだけでなく検索できる状態で保存している大宅壮一文庫はWikipediaに限らず活用できる場がもっとあるように感じた。
実際に訪れるのが最適だろうが、それが難しい人のためにデータベース「Web OYA-bunko」がある。たとえば都道府県立図書館でこのデータベースが使えたら、どれだけの見つからなかった情報に出合えるだろうかと思う。この、他にない資料を持っている稀有な専門図書館をどのようにして支えていったらいいだろうか。私が企画立案者に賛同し参加したのは、この部分がとても大きい。
Wikipedia OYAは1回だけで終わらず続けていきたいと考えている。そして、企画を通して「大宅壮一文庫」が今後も継続し活用されるように応援していきたい。次回開催は未定だが、発信はSNS等でハッシュタグ#WikipediaOYAをつけて行っていく。興味のある方はこのタグに注目してほしい。情報のシェアも大歓迎!「大宅壮一文庫」を一緒に応援しませんか?
【筆者の横顔】
三浦なつみ(みうら・なつみ)。出版社雑誌編集部勤務を経て、2008年より株式会社図書館流通センターに所属し、指定管理者として墨田区立緑図書館に勤める。昨年発売のLRG第35号では責任編集を担当。図書館の外では、イラストを描いたり、図書館のブックポストに注目したりして活動中。6月18日(土)に「ウィキペディアタウンすみだ」を有志で開催予定。
※このメールマガジン本文部分はクリエイティブコモンズライセンス(CC-BY)にて公開されている。
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