2022年11月26日、シェイクスピア研究者の北村紗衣と早稲田Wikipedianサークル、稲門ウィキペディアン会は、東京外国語大学にて、マレーシアをテーマとしたウィキペディア編集イベントを開催した。本稿では、その模様を詳述する。
経緯
ルックイースト政策40周年およびウィキペディア・アジア月間を記念して、日本をテーマとしたウィキペディア編集イベントが11月にマレーシアで開催されることになった。マレー語版ウィキペディア編集者からその旨連絡を受けた北村は、東京外国語大学の教員と協力し、日本でも同様のイベントを開催することにした。
イベントには、東京外国語大学の学生や、ベテランウィキペディア編集者が参加した。また、早稲田Wikipedianサークルと稲門ウィキペディアン会のメンバーも、サポートスタッフとして参加した。なお、新型コロナウイルスの感染拡大をふまえ、イベントは少人数で実施された。
このイベントは、外務省の東方政策40周年記念事業の一部として実施されることになった。そのため、在マレーシア日本大使館のウェブサイトでも紹介された。

タイムテーブル
当日の流れは以下のとおりである。
13:00〜13:05
開始の挨拶、連絡事項
13:05〜13:30
北村によるウィキペディア編集方法レクチャー
13:30〜13:45
グループ分け、記事執筆準備
13:45〜17:30
調査、記事執筆
17:30〜18:00
できた記事のふりかえり、まとめ
ウィキペディア編集方法レクチャー
まずは、ウィキペディア編集方法についてのレクチャーを北村が行った。北村は、三大方針や五本の柱といったウィキペディアの基本的なルールを紹介したほか、女性のウィキペディア編集者が少ないことや、アジアに関するウィキペディア記事があまり充実していないことについて説明した。
グループ分け・記事執筆準備
レクチャーののち、ウィキペディア初心者と経験者にグループを分けて、調査・執筆を開始した。
初心者グループは北村と筆者がサポートし、随時質問に対応した。初心者たちは下書きを作成して編集を進めたが、既存の記事からの履歴継承(クリエイティブ・コモンズ・ライセンスにのっとり、記事の版を明示したうえで行う適切なコピーアンドペースト)を行う際、エラーメッセージが表示されるなどのトラブルもあった。
経験者グループは、持参した資料を用いて編集を進めた。マレー語やマレーシアの文化についてわからない点が生じた際は、イベントに参加したマレー語の研究者に質問を行った。
東京外国語大学に所属する学生は、適宜大学図書館に足を運んで資料を調達した。また、編集の気分転換に、マレーシアのボードゲーム「チョンカ」を楽しむ参加者もいた。

出典: Wikimedia Commons [[File:Congkak 20221126.jpg]] (Toshiesan, CC-BY-SA). https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Congkak_20221126.jpg
できた記事の振り返り、まとめ
最後に振り返りを行った。各参加者は、編集したウィキペディア記事や、イベントの感想などを共有した。
新しい記事を立項した参加者もいれば、既存の記事への加筆や写真の追加を行った参加者もいた。さらには、オンラインで参加して記事を作成した参加者もいた。なお、イベントを通して作成された記事は、イベントページにまとめられている。
初めてウィキペディアを編集した参加者は「編集には時間がかかるが、人の役に立つものを作ることができてやりがいを感じる」と述べた。また、ベテランウィキペディア編集者は「編集でわからないことがあった際、すぐ研究者に聞くことができて心強かった」と述べた。
感想
このイベントは有意義なものであったと思う。ウィキペディア編集者にとっては、ウィキペディアのアウトリーチをする機会となった。また、東京外国語大学、そしてマレーシアにとっては、自らの魅力を発信する機会になったのではないかと思う。
なお、イベントを通して、日本語版ウィキペディアにおける課題も明らかになった。具体的には、日本語版ウィキペディアにおけるマレーシア関連の記事はあまり充実しておらず、地名表記等に問題がある記事が散見されることがわかった。
大学とウィキペディア編集者の交流は、双方にとってメリットがあるものだと筆者は信じている。今回のような、特定のテーマのもとで両者が交流する機会が今後増えることを望みたい。