日本の高校における「まちの探究学習」とウィキペディアの関わり

Translate this post

2023年2月、日本の埼玉県大宮高等学校で「グローカル探究 成果発表会」が行われた。グローカル探究は、日本における新しい教育の形として、21世紀型スキルの習得するものとして構築された。グローカル探究は、生徒一人一人が地域のことについて、課題を発見し、その課題解決に向けてどのようなことが必要かを考えるプログラムである。以前、複数の高校が同時にウィキペディア編集イベントを開催する試みを報告したが、この取り組みによるものである。

グローカル探究のきっかけ

担当教員である田中里奈氏が、埼玉県と島根県との連携協定の一環として、島根県立隠岐島前高校に研修赴任したことから始まる。同校は、東京から600キロメートルほど離れた隠岐諸島の海士町にあり、島全体を教育のフィールドとして定義して様々な取り組みを展開してきた。田中氏は「周りを海に囲まれている環境下において、島に住む人たちがどのような価値観を持っているのか、どのような課題を持っているのかを知り、考えることで視野を広げたいと思っていた」という。グローカル探究という考えは、「グローバルな視点をローカルに落とし込んでいこう」とすることに由来する。

人口の約2割がIターン、つまり自分の出生地でない別の場所に移住して働くことを選択した人々だ。さらには、高校生が親元を離れて生活する”島留学”の積極的な受け入れなど、高校自体の魅力化にも取り組んでいる。同時に、高校生だけではなく大人向けの”大人の島留学”にも取り組んでおり、滞在人口の増加にも取り組んでいる。

田中氏は、これら島根県での学びを東京のベッドタウンにあたる埼玉県でどのように還元できるかを考えた。その一つとして、2022年8月に大宮高校の生徒が海士町へ赴くフィールドワークを計画したが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、オンラインで交流を進める形態での開催になった。オンラインでのグローカル探究プログラムの説明会では、海士町役場の職員から島に関する説明を受け、最終的に9名の生徒が手を挙げた。プログラムの開始後には、長野県の軽井沢とも連携し、日本有数の避暑地かつ観光地でもある「軽井沢」という場所がどのような歴史をたどりながら、現在の街づくりをしているのかを学ぶ機会も作った。

発表会の開催挨拶で、県立大宮高等学校の鎌田勝之校長は「隠岐島前高校などで実施された、様々な取り組みを大宮という地で実践したいという思いが、実現にこぎつけた。出版社でのインターンシップや軽井沢エフエムでの取材、自校の歴史探究を経て、今日の最終発表会を迎えた」「考える過程の中で課題を見つけて探究を進めていた。生徒自身が新しい問いを探し、発見できたのならば教育としては成功だと考えている。つまり、問いと課題の発見の繰り返しが探究だと思う」と述べた。

参加生徒の思いとプログラムの活動

プログラムに参加した生徒たちの多くは「まちづくり」に興味を持っていた。さらに問いを深め、個人ごとの探究テーマを分けていったところ「観光」「自然」「政策」の3グループとなった。さいたま市立大宮図書館で2022年に開催されたウィキペディアタウンは、グローカル探究の一環として行われたものである。自分たちが生活している町、学んでいる場所にはどんな歴史があるのだろうか。地元について「何もないところ」と口では言ってしまっているがそれは本当なのか、自分の目で新しい発見をし、言語化することが念頭にあった。

参加した生徒たちは、それぞれ課題を発見し、その解決に向けてどう取り組むべきかを参加者に向けて発表した。それぞれのタイトルを紹介したい。

  • 観光
    • 観光地の共通点と応用
    • 埼玉県と観光地
    • 長期的な移住に係る観光における条件
  • 自然
    • 自然と氷川神社の結びつき
    • 郷土料理
    • 自然と料理の結びつき
  • 政策
    • 移住者の仕事
    • 町おこし
    • 魅力化計画
埼玉県立大宮高等学校にて開催された最終報告会の様子
File:グローカル探究最終報告会(2023.02.18).jpg on commons.wikimedia.org / Photo by Rina1121 / CC-BY-SA-4.0

政策チームのある生徒は、実際に自分が居住している市役所を訪問して、現在取り組んでいる政策について、どのような課題があるのかをヒアリングしたり、そこから新たな課題を発見していった。その理由について彼女は、居住自治体の少子高齢化が進んでおり、出身中学校が4年後に廃校が決まっていることがきっかけになり、保育費に着目したのだという。彼女は市役所の職員から話を聞いていくうちに、様々な政策を行っているのにもかかわらず市民に全く届いていないという実態を垣間見ることになった。実際に市役所を訪問して、話を聞くことで、自分でも行動できることを知り、様々な発見があったという。

代表生徒感想:荒木夢佳さん

沢山の経験の中で、価値観や考え方が揺さぶられる機会が沢山あった。自分が考えもしなかったこと、目を向けていなかったことに目を向けること、もっと深く知るきっかけになった。同時に、自分から動くことはいいことだと思った。インターネットを調べることだけで終わってしまうのはもったいないし、自分が調べてきたことを生かしたい。これからも調べていきたいことを自分から調べていきたい。

総評

最後に、埼玉県教育委員会の指導主事とプログラムのインターン受け入れ先企業である出版社の代表から総評があった。

総評:埼玉県教委 高校教育指導課指導主事 桑原三季さん

日頃の暮らしの中で気づかないこと、例えば考えを持ってもそれを周りに云わないこと、合わせることだけで生活をしていくことは不幸だと思う。リアルに誰かに会いに行くこと、話を聞くことでそれを感じてもらえたのではないか。どこかであきらめないぞ、ということは経験できるいい機会にこのプログラムがなったと思う。アンテナを高くすることで見方も変わってくる。今持っている夢を叶えるにあたって叶える手段は色々だろう。そういうことが一生続くと思うので、幸せの人生探究をして行って欲しい。

桑原さんは、高校設置者である埼玉県教育委員会で、学校教育に関する指導する業務にあたる。

総評:英治出版 原田英治さん

身近なことから探究は始まる。大事なことは頭で考えるだけではなく、心が感じていること、身体で感じていること、全体性の思考、100%の考えだと思う。身体と心で感じたことを、頭でもう一度考えたときに是非、独創的な発想にしてほしい。誰にも教わらずに作る・考えることは楽しいこと、ぜひやってみてほしい。たとえどこかで見つけたとしても、それを超えるものを作ってほしい。

頭で考えるのではなくて、心・身体で感じてほしい。

原田さんは、日本国内において多くのビジネス書を発行する出版社の代表を務めている。

「ウィキペディアタウン in 加須」の開催

この発表会の翌月、3月19日には、前回のウィキペディアタウンを共同開催した埼玉県立不動岡高等学校のある加須市で「ウィキペディアタウンin加須」が開催された。両校の生徒だけでなく、地域住民や図書館関係者など30人以上の関係者が参加し、[[騎西城]]などの記事を編集したり、写真をウィキメディア・コモンズにアップロードしたりと、実りある時間となった。

騎西城で行われたガイダンスの模様
File:Wikipedia Town Kazo vol.1 2023-03-19 (1) as.jpg on commons.wikimedia.org / Photo by Araisyohei / CC-BY-SA-3.0

ある生徒は感想発表の中で「新しいことを吸収すること、双方の学校で協力が出来たらよいと思っていた。見学まで長大な障子堀と発掘品が気になっていた。実際に大学に進学しても継続できたらいい」と発言した。

日本においては、この3月が年度末にあたる。4月からが新年度で、母校を巣立つ生徒も多いが、県立高校の教員も異動の時期となる。次年度についての活動は、これから検討していくことになるが、活動は継続していきたいという。

Can you help us translate this article?

In order for this article to reach as many people as possible we would like your help. Can you translate this article to get the message out?