第1回 WikipediaSanko における編集活動を振り返る

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本稿では、東京都港区の三康図書館で開催したイベント第1回 WikipediaSanko における、私 Eugene Ormandy の編集活動を振り返ります。具体的には、イベントでウィキペディア記事を編集したり、ウィキメディア・コモンズに資料をアップロードしたりした経緯や、その時に考えていたことを紹介します。図書館とウィキメディア・プロジェクトとの提携に興味がある方のお役に立てば幸いです。

なお、先日寄稿した「三康図書館でウィキペディア編集イベント WikipediaSanko を開催」という記事では、WikipediaSanko の企画運営を担当したプロデューサーとして、イベントの大まかな流れを概説しましたが、本稿では、記事の編集等を行なったプレイヤーとして、自分の思考の流れを振り返ります。

不安要素に基づき作戦を立てる

イベントにあたって、不安要素が2つありました。

  • 三康図書館は、いわゆる「一次資料」を多く所蔵している図書館なので、ウィキペディアに活用可能な「二次資料」がどれだけあるか不安。
  • 今回のイベントでは司会進行を務めるので、イベント中に編集時間が確保できるか不安。

そこで、以下のような作戦を立て、実行しました。

  • ウィキペディア記事の編集のみならず、「著作権が切れた資料を撮影して、ウィキメディア・コモンズにアップロードすること」もイベントの目標とする。
  • 図書館から「イベント開始は午後からだが、午前中に来館して構わない」と言われたので、午前中にサクッと編集・撮影をして、イベントの「成果物」を早めに作っておく。

なお、イベントの目標などを明記したレジュメは「三康図書館のウィキペディア編集イベント WikipediaSanko のために準備したレジュメ」という記事にまとめているので、ご興味がある方はご覧ください。

図書館に到着

いよいよ本番当日。10時30分ごろ三康図書館に到着し、開架書庫をざっと確認しました。三康図書館の資料の多くは閉架書庫にありますが、開架書庫も充実しています。なお、午後のイベントでは、閉架書庫を見学させていただきました。

三康図書館の開架書庫。Wikimedia Commons [[File:Reading room in Sanko Library.jpg]] (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Reading_room_in_Sanko_Library.jpg

タスクを明確にして難易度を比較し、優先順位を決める

まずは、午前中に私が行うべきタスクを洗い出しました。

  • 開架書庫にある資料を活用して、ウィキペディア記事を編集する。
  • 何かしらの写真を撮影してウィキメディア・コモンズにアップロードし、プロジェクトページに反映する。

これだと曖昧なので、もう少し明確にします。

  • 午前中にゼロからウィキペディア記事を立項するのは、私の能力では無理なので、小規模な加筆を行うことにする。また、時間も限られているので、文章の書き方に悩まないような、難易度の低い加筆を行うことにする。そのような小規模加筆に使える資料を開架書庫から探し出し、実際に記事を加筆する。
  • 何かしらの写真を撮影し、メタデータを付与してウィキメディア・コモンズにアップロードし、プロジェクトページに反映する。撮影対象の候補は「著作権切れの資料」と「館内の様子」の2つ。前者については、図書館の方が準備をしている最中だったので、午前中に行うのは難しそう。そこで、館内の様子を撮影する。

次に、難易度を比較します。私にとって、難易度が高いのは前者です。私は写真にあまりこだわらない人間なので、ウィキメディア・コモンズにアップロードするための写真は3秒で撮影できますし、メタデータの付与やアップロードは定型作業です。一方、ウィキペディアの編集に活用できる本を探すのは、多少時間がかかりますし、運の要素も強いです。「この本なら使えそうだ」と思って手に取っても、予想を裏切られることはしょっちゅうですからね。

最後に、これらの優先順位を決定します。複数のタスクを処理する際、私は「簡単な方をはじめに片付ける」と決めているのですが、今回は難しい方、すなわちウィキペディアの編集から処理することにしました。なぜなら、簡単なタスクであれば、司会進行の合間で処理できるだろうと予想したからです。

ウィキペディアの編集に活用できそうな資料を探す

というわけで、まずはウィキペディアの編集に活用できそうな資料を探しました。

私見ですが、「小規模加筆に活用できる資料で、活用の難易度が低いもの」の筆頭候補は芸術系の事典です。なぜなら、そのような事典の項目には、たいてい「〜な作品である」「〜で多くの人を魅了した」「一般的な知名度は低かったが、同業者からの評価はきわめて高い」といった、ウィキペディアに活用しやすい寸評があるからです。

このような寸評を、ウィキペディア記事の「評価」節で引用すれば、すぐに加筆が完了します。加筆を行うにあたり、オリジナルの文章をどのように改変するか悩む必要はありません。基本的に「AについてBは『〜』と評している」というフォーマットに落とし込むだけです。

そのような意識のもと、三康図書館の参考文献コーナーを物色しました。幸い、文学・戯曲に関する『世界名著大事典』があったので、早速手に取りました。

三康図書館開架書庫の参考書コーナー。Wikimedia Commons [[File:Reference books in Sanko Library 1.jpg]] (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Reference_books_in_Sanko_Library_1.jpg

パラパラとページをめくってみると、予想通り「〜な作品である」といった寸評が散見されました。加筆のための参考文献として活用できそうです。

ここから考えるべきは「加筆するウィキペディア記事をどのように探すか」です。

加筆する記事を探す方法は2つあります。ひとつ目は、『世界名著大事典』で気になったトピックがあったら、その項目がウィキペディアに立項されているかを確認し、立項されていたら加筆するというもの。もうひとつは、文学・戯曲に関するウィキペディア記事にいくつか目を通し、加筆できそうなもの(具体的には、評価節がない記事や短い記事など)をピックアップして、その項目が『世界名著大事典』に掲載されているか確認するというものです。

これはウィキメディアンごとに意見が割れるかもしれませんが、私は後者の方が効率的だと思っています。「事典に掲載されるような有名作の記事がウィキペディアに立項されていない」というケースはままあるからです。

そこで、文学に関するウィキペディア記事にいくつか目を通すことにしました。この時に活用したのはウィキペディアのカテゴリ機能です。具体的なプロセスは以下のとおりです。

まずは、教養がない私でも知っている戯曲 [[ファウスト (ゲーテ)]] のウィキペディア記事にアクセスします。内容には目もくれず、ページの最下部を確認し、「1800年代の戯曲」というカテゴリをクリックします。すると、その名のとおり1800年代の戯曲に関するウィキペディア記事を一覧できます。

日本語版ウィキペディア [[Category:1800年代の戯曲]] 2023年6月18日アクセス。

カテゴリページに収録された記事のうち、[[こわれがめ]] は加筆できそうだと感じました。なぜなら、出典が全くない状態だったからです。また、『世界名著大事典』を確認したところ、「こわれがめ」の項目はありましたし、本作の日本語訳を担当した手塚富雄による寸評もありました。すなわち、これで加筆の見通しが立ちました。

ただし、まだ加筆はしません。

改めてタスクの難易度を比較する

ここで改めて、タスクの難易度を比較します。前述のとおり、当初のタスクは以下の2つです。

  • 午前中にゼロからウィキペディア記事を立項するのは、私の能力では無理なので、小規模な加筆を行うことにする。また、時間も限られているので、文章の書き方に悩まないような、難易度の低い加筆を行うことにする。そのような小規模加筆に使える資料を開架書庫から探し出し、実際に記事を加筆する。
  • 何かしらの写真を撮影し、メタデータを付与してウィキメディア・コモンズにアップロードし、プロジェクトページに反映する。撮影対象の候補は「著作権切れの資料」と「館内の様子」の2つ。前者については、図書館の方が準備をしている最中だったので、午前中に行うのは難しそう。そこで、館内の様子を撮影する。

「タスクを明確にして難易度を比較し、優先順位を決める」の章で確認したとおり、私にとって難易度が高いのはウィキペディアに関するタスクです。ただし、加筆に役立ちそうな『世界名著大事典』を見つけたことで、このタスクは一気に容易化しました。今後行うべきは、事典にある記述をPCのメモ帳に書き起こし、「AはBについて〜と評している」というフォーマットに落とし込み、出典の書誌情報を追加することだけとなったからです。作業の内容は単純ですし、断続的に処理することが可能です。

一方、ウィキメディア・コモンズに関するタスクは、単純ですがまとまった時間が必要です。撮影した複数枚の写真にそれぞれメタデータを付与するのは面倒ですし、経験的に、一度作業を中断してしまった場合、再開時にこれまでの進捗状況を確認するのに時間がかかります。

そこで、「自分以外の参加者がまだ来ていない(集中して作業ができる)午前中に処理すべきは、ウィキメディア・コモンズに関するタスクだ」と判断し、ウィキペディアの作業を一旦中断し、ウィキメディア・コモンズに関するタスクに着手しました。

館内の写真をウィキメディア・コモンズにアップロードする

まずは、開架書庫の写真を6枚撮影しました。そして、これらをウィキメディア・コモンズにまとめてアップロードし、プロジェクトページに反映しました。

ウィキメディア・コモンズに写真をアップロードする作業は、ツイッターやインスタグラムほど単純ではありません。なぜなら、写真に関する説明や、著作者に関する情報、カテゴリといったメタデータを付与しなくてはいけないからです。このような作業には、コツコツと情報を記入する根気強さが要求されます。一方、プロジェクトページに写真を反映するのは一瞬です。タイトルをコピーペーストするだけだからです。

なお、実際にアップロードした写真は、以下のとおりです。キャプションに示したウィキメディア・コモンズのURLにアクセスすると、各種メタデータを確認できるので、ご興味のある方はどうぞ。

Wikimedia Commons [[File:Reading room in Sanko Library.jpg]] (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Reading_room_in_Sanko_Library.jpg
Wikimedia Commons [[File:Reference books in Sanko Library 1.jpg]] (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Reference_books_in_Sanko_Library_1.jpg
Wikimedia Commons [[File:Sanko Library 2023-06-09.jpg]] (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Sanko_Library_2023-06-09.jpg
Wikimedia Commons [[File:Books in Sanko Library.jpg]] (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Books_in_Sanko_Library.jpg
Wikimedia Commons [[File:Reference books in Sanko Library 2.jpg]] (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Reference_books_in_Sanko_Library_2.jpg
Wikimedia Commons [[File:References of Great Kanto Earthquake in Sanko Library.jpg]] (Eugene Ormandy, CC-BY-SA 4.0) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:References_of_Great_Kanto_Earthquake_in_Sanko_Library.jpg

事典を活用してウィキペディア記事を加筆する

ウィキメディア・コモンズ関連の作業がタスクのほか早く完了したので、残存タスクであるウィキペディアの加筆を行いました。具体的には、先ほど目をつけておいた『世界名著大事典』を活用して、 [[こわれがめ]] というウィキペディア記事に、手塚富雄の寸評を追加しました。差分はこちらのとおりです。

また、イベント開始まで多少時間があったので、『世界名著大事典』の「こわれがめ」の項目の近くにあった「さかしま」に目を通し、ウィキペディア記事 [[さかしま]] の加筆に活用しました。差分はこちらのとおりです。

ちなみに、私は『こわれがめ』と『さかしま』両作とも読んだことがありませんし、『こわれがめ』に至ってはその存在すら知りませんでした。このようなトピックでも、適切な資料と最低限のリテラシーがあれば加筆できてしまうのが、ウィキペディアの面白さであり、怖さでもありますね。

司会進行の間隙を縫ってウィキペディア記事を加筆する

なんとかイベント開始までにタスクをこなせました。ここからは、プレイヤー脳をプロデューサー脳に切り替え、司会進行を務めました。冒頭でも紹介したとおり、その模様は「三康図書館でウィキペディア編集イベント WikipediaSanko を開催」という記事にまとめたので、興味がある方はご覧ください。

また、プレイヤーとしての成果物をもう少し作っておきたいと思ったので、参加者の皆さんが調査・執筆に集中したタイミングを見計らって、ウィキペディア記事の加筆に着手しました。具体的には、雑誌『太陽』を活用して、フランスの作曲家 [[ガブリエル・デュポン]] の記事を加筆しました。

なお、雑誌『太陽』は、関東大震災に関する資料として、三康図書館が事前に用意していたものです。いわゆる合本形式で、複数の号が一つの背表紙に綴じられています。私も当初は関東大震災に関する加筆をしようと思い、1923年9月号に目を通していたのですが(関東大震災が発生したのは1923年9月1日)、ふと「他の号も読んでみよう」と思い、同じ背表紙に綴じられていた8月号に目を通したところ、私の関心領域であるクラシック音楽に関する「欧米音楽界の現状」という紀行文があったので、喜び勇んで加筆した次第です。「当初の想定とは違う形で資料が活用される」という現象は面白いなと感じました。

まとめ

この記事では、第1回 WikipediaSanko における自分の思考の流れを振り返りました。編集活動に悩むウィキメディアンや、図書館とウィキメディア・プロジェクトの提携に関心がある方にとっての参考資料となれば幸いです。

補足

ウィキペディア編集イベントの目標は多様です。「成果物」の作成よりも、参加者のリテラシー向上を重視するイベントもありますし、参加者が地域の魅力を発見することを重視するイベントもあります。当然ですが、これらの間に優劣の差はありません。どれも非常に有意義なイベントです。

本稿では「成果物」という単語が何度も登場しましたが、これはあくまで、プレイヤーとしてイベントに参加する際の Eugene Ormandy 個人が重視しているものに過ぎませんし、それを他人に強制する気はさらさらありません。ひょっとしたら「Eugene Ormandy は『成果物がなければイベントの意味はない』と考えている」という誤解を招くかもしれないと思ったので、補足しておきます。

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