本稿では、日本の雑誌『週刊朝日』に登場した、ウィキペディアに関する記事を紹介します。
調査方法
調査には、朝日新聞クロスサーチを使いました。具体的には、検索対象紙誌を「週刊朝日」に限定した上で、「ウィキ OR wiki」というキーワード検索をしました。「ウィキ」と「ウィキペディア」は別物なので、本来であれば「ウィキペディア OR Wikipedia」と検索したいところですが、ウィキペディアの略称としての「ウィキ」もしばしば用いられるので、このようなキーワードとしました。
調査結果
ヒットしたのは17件でした。ウィキペディアとは関係ないウィキリークスに関する記事も含まれていたので、それらを除外した結果、残ったのは5件。予想以上に少ない件数で驚きました。一覧は下記のとおりです。
- 江畠俊彦「本誌どなりあい対談の警視庁OB「北芝VS.黒木」ついに刑事告訴へ」『週刊朝日』2007年2月23日号、131ページ。
- 「新聞が書かない鳩山新内閣18人の全データ」『週刊朝日』2009年10月2日号、20ページ。
- 村岡正浩「涙と笑いの難病対談 大野更紗×さとうみゆき「私たち死にかけました」」『週刊朝日』2013年6月28日号、42ページ。
- 上田耕司ら「オバさんになっても攻めてる! 森高千里の「異次元アレンジ」 ワイド特集」『週刊朝日』2017年9月29日号、123ページ。
- 大川恵実、佐藤秀男「池谷裕二×安住紳一郎 パテカトルの万脳薬・500回突破記念スペシャル」『週刊朝日』2022年2月25日号、118ページ。
内容分析
件数が少ないので、当該記事5つをそれぞれ簡単に紹介します。
1つ目の記事は「本誌どなりあい対談の警視庁OB「北芝VS.黒木」ついに刑事告訴へ」です。こちらは、警視庁OBである2名の間で生じた、名誉毀損のトラブルに関する記事です。「私のウィキペディア記事に書かれていたウソを、A氏が出版社と手を組んで雑誌記事にした」と主張したB氏に対し、A氏が名誉毀損で訴えたという内容です。
2つ目の記事は「新聞が書かない鳩山新内閣18人の全データ」です。鳩山内閣のメンバーを紹介する記事ですが、総務大臣の原口一博を紹介するセクションでウィキペディアが登場します。
「行政官を酷使して自らの金稼ぎにつなげている」
「新聞が書かない鳩山新内閣18人の全データ」『週刊朝日』2009年10月2日号、20ページ。
同年(引用者注 : 2007年)、インターネット上の百科事典「ウィキペディア」の自身の項目に厚労省のパソコンから書き込まれていたとわかり、問題になったことも。
3つ目の記事は「涙と笑いの難病対談 大野更紗×さとうみゆき「私たち死にかけました」」です。日本の医療における支援体制の貧弱さを指摘する発言において、ウィキペディアが登場しています。
大野 (略)さとうさんの漫画を読んで気がついたのは、「こういう制度がありますよ」とか、「こういう支援が使えますよ」とか、そういった助言をしてくれる人が一人も登場しないことです。
さとう たしかに私の場合、入院中はインターネットのウィキペディアで自分の病名を調べるくらいしかできませんでした。
村岡正浩「涙と笑いの難病対談 大野更紗×さとうみゆき「私たち死にかけました」」『週刊朝日』2013年6月28日号、42ページ。
4つ目の記事は「オバさんになっても攻めてる! 森高千里の「異次元アレンジ」 ワイド特集」です。普段とは全く違うパフォーマンスを披露した歌手の森高千里に対する、観客の反応を振り返る発言において、ウィキペディアが登場します。
森高がこの夏のロックフェスに出るのはこのイベントだけ。最前列にはうちわを持ったファンが陣取り、「一見さん」の来場者らも詰め掛け、会場は満員だった。観客は、テレビCMでみせるような美貌と美声でさわやかなステージを期待していたに違いない。
ところが、開始時間になって流れ出したのは、今どきの若者が聞くような、エレクトロ調のダンスミュージック。しかも、しばらく森高本人が現れず、黒いフードを目深にかぶった女性が前衛的なパフォーマンスを繰り広げた。重低音が鳴り響く中、やっと現れた森高が歌ったのは、パンチの利いたアレンジの「私がオバさんになっても」や「ストレス」。ちなみに、歌声も加工されていたようだ。(略)
会場にいた男性(37)は言う。
上田耕司ら「オバさんになっても攻めてる! 森高千里の「異次元アレンジ」 ワイド特集」『週刊朝日』2017年9月29日号、123ページ。
「最前列の親衛隊以外は、『すごいもの見ちゃった』と戸惑いの表情。『森高千里』と、ウィキペディアを調べる若者もいました」
5つ目の記事は「池谷裕二×安住紳一郎 パテカトルの万脳薬・500回突破記念スペシャル」です。アナウンサーの安住紳一郎さんが自身の知識欲について語る際、ウィキペディアが登場します。
池谷 ネットでもいつもいろんな情報を調べていらっしゃいますよね。
大川恵実、佐藤秀男「池谷裕二×安住紳一郎 パテカトルの万脳薬・500回突破記念スペシャル」『週刊朝日』2022年2月25日号、118ページ。
安住 マニアックなんですよ。たとえばおいしいお菓子を食べると、そのメーカーの本社がどこにあって、工場がどこにあるのかまで知りたくなっちゃう。国内旅行をしても、その土地で会う人の特徴を見つけて、共通項を見つけ出して、最終的にウィキペディアでその街の出身の芸能人とか著名人を見て、「やっぱり!」と思うのが好きなんです。
まとめ
正直なところ、かなりがっかりしました。日本を代表する雑誌として、ウィキペディアの歴史や影響力、問題点などをしっかり分析する記事を、1本くらいは掲載してほしかったと思います。今後に期待……と言いたいところですが、残念ながら『週刊朝日』は休刊してしまったので、他の雑誌に期待します。
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