ウィキペディア編集者のモチベーションと不満 後半

紀美野町 みさと天文台, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons 冬の星座と雪景色のみさと天文台

日本語版ウィキペディア大規模アンケート調査報告 後半

前回に続いて、Wikimedians of Japan User Groupより、日本語版ウィキペディア編集者に対するアンケート結果をご報告します。

編集・執筆を始めたきっかけ

Q12.あなたが日本語版ウィキペディアを編集・執筆し始めたきっかけは何ですか。あてはまるものをすべてお知らせください。

  • きっかけは「間違った情報を直したいから」が6割を占め、もっとも高く、ついで「自分の知識や技術を活かすため」「記事を編集・執筆するのが好きだから」の順。
  • 25歳以下の年代は、「充足感」や「誇り」を感じることがきっかけとなる割合が高く、参加自体を好んでいる様子がうかがえる。
  • 5069歳は「自分の知識や技術を活かすため」「自分の勉強や学習に役立つから」が他の年代より高い。編集を始めるきっかけとしては、学習意欲の高さが挙げられる。
あなたが、日本語版ウィキペディアを編集し始めたきっかけはなんですか?

編集・執筆のモチベーション

Q13.あなたが日本語版ウィキペディアを編集・執筆するモチベーションは何ですか。あてはまるものをすべてお知らせください。

  • モチベーションの上位3位は、「間違った情報を直したいから」「記事を編集・執筆するのが好きだから」 「自分の知識や技術を活かすため」。
  • 期間が「10年以上」、頻度が「週に4回以上」といった、ウィキペディアへの関与が高い層は、「自分の知識や技術を活かしたい」意向や「自分の勉強や学習」に役立つと回答した人の割合が高い。編集や執筆行為に付随するメリットが、モチベーションにつながっていると考えられる。

13. 編集・執筆のモチベーション

あなたの編集モチベーションを教えてください。

​​3.「利用者向け 議論の場」関与

「利用者向け 議論の場」(Jawp内フォーラム)利用

Q14.日本語版ウィキペディアの利用者向け議論の場で、あなたが利用したことがあるものをすべてお知らせください。

  • 利用者向け議論の場は、「記事のノートページ」「利用者の会話ページ」の利用がいずれも約6割を占め高い。
  • 関与が高い層(期間が10年以上/頻度が週に4回以上)は全体的に利用率が高いが、関与が低い層(期間が半年未満/頻度が3ヶ月に1回以下)は3割が「いずれも利用したことがない」と回答。さまざまな議論の場があることを周知したり、参加のハードルを下げることで利用率アップにつながると推察される。

14. 「利用者向け 議論の場」利用

日本語版ウィキペディアであなたが利用したことがある議論の場をすべて教えてください。

14-2. 「利用者向け議論の場」利用(重複)

こちらはある議論の場を利用したことのある編集者が、他の議論の場を利用しているかどうか、重複具合を見る表です。

議論の場(フォーラム)、利用の重複度。

「利用者向け 議論の場」満足度

Q15.利用者向け 議論の場に対するあなたの満足度をそれぞれお知らせください。

  • 満足度上位3位は、「『秀逸な記事』『良質な記事』の選考」「記事のノートページ」「お知らせ(日本語版専用)」。優れた記事を選考する仕組みや、記事内容に関する議論の場があることが利用者の満足度につながっていると思われる。
  • 「満足していない」割合が特に高い「調べもの案内」や「お知らせ/ウィキメディア共通」については、利用者の声を聴取し改善につなげる余地がある。
  • 「満足していない」割合が特に高い「調べもの案内」や「お知らせ/ウィキメディア共通」については、利用者の声を聴取することで改善につなげる余地がある。

図15. 「利用者向け 議論の場」満足度

フォーラムごとへの満足度を教えてください。

4.日本語版ウィキペディアへの不満点と意見

Q16.あなたが日本語版ウィキペディアの編集・執筆に関わる上で、不満に感じていることはありますか。あてはまるものをすべてお知らせください。

  • 不満点TOP3は、「荒らし行為」「分野により記事の充実度が偏っていること」「ガイドやルールが難しい、分かりづらい」。
  • 関与が高い層(期間が10年以上/頻度が週に4回以上)ほど、「荒らし行為」を不満点に挙げる割合が高い。
  • 年齢別では「5069歳」、編集期間別では長い層ほど問題利用者への対応や人間関係(編集者への嫌がらせ・意見対立など)を挙げる割合が高めである。

16. 不満点

あなたが日本語版ウィキペディアに関わる上で、不満に思っている点があればお教え下さい。

日本語版ウィキペディアに対するご意見 ※自由回答より一部抜粋

Q17.日本語版ウィキペディアに対するご意見、ご感想をご自由にお書きください。 

  • ( )内に回答者のおおよその編集頻度を併記
  • 回答者のプライバシー保護のため、回答の一部を変更している場合があります。

【ポジティブな意見】

  •   内容がとても充実していて、様々な分野やジャンルを網羅している点が素晴らしい。(頻度:3ヶ月に1回以下)
  •   これからも微力ですがWikipediaに貢献させていただきます。(頻度:月に1~3回)
  •   eスポーツ分野がまだ発達していないので頑張りたいと思います。(頻度:週に4回以上)

【改善点・要望】

  •  方針を無視する編集者や、無理に自分の考えを押し通そうとする編集者、外国での状況の記述がないことを過剰に非難する編集者がいる。どうにかしてほしい。(頻度:3ヶ月に1回以下)
  • 新規参加者は「検証可能性の方針」を知らないことが多い。その点を周知しないと百科事典としての品質が下がるばかりです。記事執筆とならんで、いかに品質の「底上げ」をするかも重要です。(頻度:週に4回以上)
  • ウィキペディアの編集に携わって3か月になります。ノートでの議論が積極的にされていないことに驚きました。ジャンルや記事によって偏りも見うけられます。(頻度:週に4回以上)
  •  誤りだらけで放置されているページがほとんどで、益より害がはるかに多い状態だといえます。管理者には、その自覚がありません。 AIに質問をしても、Wikipediaの情報をもとに回答が行われることが多く、誤った返答ばかりします。プロジェクトの運営方針を根本的に見直す必要があるでしょう。 (頻度:週に4回以上)

【ポジティブな意見】

  • Wikipediaに携わってきた中で、著作権の帰属に関する問題がたびたび起こっていた。毎日のように削除依頼に報告が寄せられていた。しかしながら日本語版Wikipediaでは、ごく少数の管理者の安定した活動や、井戸端での議論などで問題の解決に向けた取り組みも行われている。(頻度:3ヶ月に1回以下)
  •  ウィキペディアを通じて誰でも知識を共有できるのが良いところだと思います。記事の信頼性の向上を目指してみんなが安心して利用できるウィキペディアになってほしいです。(頻度:月に1~3回)

【改善点・要望】

  • 日本語の話者数が少ないためか、他の言語版と比較すると、記事が存在しなかったり、内容の充実度に差があるように感じます。より多くの人が気軽に編集に参加できるようになると良いなと思います。(頻度:週に1~3回)
  • 誤った日本語が散見されること。(頻度:3ヶ月に1回以下)
  •  歴史、考古学、哲学分野などではやや排他的な印象を受ける。(頻度:月に1~3回)
  • 最近、方針を理解していない・しようとしない利用者と編集方針で対立した。方針に基づいた説明を聞き入れてもらえず、その関連分野での編集活動のモチベーションが著しく下がってしまった。この際すべての利用者に方針の理解を求めたいと感じている。そういった「土台」の部分を理解していただくことで、編集活動や議論がより円滑に、効率よく進むのではないかと考えている。 (頻度:月に1~3回)

【ポジティブな意見】

  •  分野により記事の量、質のばらつきが大きい原因の一つに、編集者の偏りがあると思っています。様々な属性を持つ方がより多く参加することでその偏りをある程度是正できるのではないでしょうか。そのためにできることは何か考えています。 (頻度:週に4回以上)

【改善点・要望】

  • (他言語版にも言えるが)多くの記事で英語版が一番充実していて日本語含む他言語版は貧弱、というケースが多い。 私も英語は使えないこともないが、やはり日本語を母語としており日本語で読めるほうが日本語話者にとっても便利であると考える。英語が流暢に理解できる一部のエリートだけではなく、母語・公用語が理解できる程度の一般大衆にも知識を提供するには、(日本語にかかわらず)翻訳者を増やす必要性が高いと考える。(頻度:月に1~3回)
  •   百科事典としての精度を上げるためには、確かな一次出典にあたる事が重要と考えます。出典が付される記事は10年前よりも格段に増えましたが、キュレーションメディアのまとめ記事だったり、個人のブログ・SNSに依拠したりしている記事が多いと感じます。 (頻度:月に1~3回)
  •   管理者をもっと増やしてほしい(頻度:週に1~3回)
  •  分野別の執筆のガイドラインが少ない(頻度:3ヶ月に1回以下)
  • 記事を個人の所有のように扱う編集者が多く編集活動がしづらい。(頻度:月に1~3回)
  • 不健全な利用者の活動を抑える手段が少なすぎる。まじめな編集者ほど損をするように思える。(頻度:週に1~3回)

<編集・執筆期間>10年以上

「10年以上」の編集者からは、「執筆者を増やすイベント開催」「後進の育成」「オフ会」「表彰や称号など特典付与」「マスコットキャラクターの活用」など、より具体的な改善点・要望が挙がる。

【ポジティブな意見】

  • 娯楽・教養に大いに役に立っています、ありがとうございます(頻度:3ヶ月に1回以下)
  •  日頃よりウィキペディアにお世話になっております。個人的にミスも多いですが、編集を重ねて、徐々にですが技術も上達しつつあります。これからも宜しくお願い致します。(頻度:週に4回以上)
  • マイナージャンルの執筆をすることが多いですが、これからもよろしく!(頻度:週に4回以上)

【改善点・要望】

  • 非常識なアカウントを通報する機能がほしい (頻度:月に1~3回)
  •   執筆者が少ない分野では、低質な記事が編集されないまま放っておかれるため、執筆者を増やすイベントなどを今以上に開催してほしい。イベントも東京等の首都圏に偏りがちなので、地方にも目を向けてほしい。(頻度:週に4回以上)
  • 英語版や他の欧米語のような国際的な基準に沿った、より多様で充実した記事が書きやすいよう、環境整備をお願いいたします。(頻度:週に4回以上)
  • 現在のJawpはひと頃に比べ参加者、特に執筆能力がある参加者が少なくなっている点と、過去に執筆された、無出典など品質の低い記事の改善が進んでいないことが課題だと思います。Jawpを時代遅れの遺物にしないためには、初心者をいかに育てていくか、「Wikipedia文学」と揶揄される、小説もどきの記事や珍項目で注目を集めるより重要記事の強化に取り組んで、Wikipediaの百科事典としての評価を上げていくことが必要かと思います。(頻度:週に4回以上)
  • これだけのネットメディアがボランティアで20年近く運営されていること自体には感嘆するが、ボランティアであるが故の課題も抱えている。  しかし、こうした場が失われないようにする必要がある。(頻度:週に4回以上)
  • オフ会がすっかりなくなったのは寂しい気がする。(頻度:週に4回以上)
  • 無出典の記述に寛容すぎる。(頻度:月に1~3回)
  • 編集者が少ない。出典が無い編集がなされる。いい加減な記事の新規投稿が多い。(頻度:月に1~3回)
  • ある管理者が、特定ジャンル内のみで、管理者権限を強く行使している(諫める人がいないので横暴にふるまっている)のを幾度か見かけ、非常に良くないと思っております。(頻度:月に1~3回)
  • まだまだ記事が不足している分野がある。技術的な背景の説明が不足、あるいは不親切。議論よりも記事作成、内容の充実へリソースを仕向ける仕掛けが必要。実績はあるが多少問題のある編集・執筆者を排除しているようにみえる。議論している方々に閉鎖性を感じる。ルールに拘りすぎている。Wikimedians of Japan User Groupの設立を前向きにとらえています。ひっそり応援しています。(頻度:週に1~3回)
  • 歴史あるウィキペディアなのでそろそろ秀逸な執筆者には表彰や称号付与など、優秀な執筆者には特典などもあってしかりかと存じます。(頻度:週に1~3回)
  •  ウィキペディアの公式マスコットキャラクターであるウィキピードの活躍をもっと充実させてほしい。活躍の機会が非公式キャラであるウィキペたんに長年奪われ気味であるイメージが強くて常に不満なので(頻度:週に4回以上)
  • 多くの参加者を獲得することと内容の質を高めることは二律背反に近いものがあるが、これらを両立しなければウィキペディアというウェブサイトの未来はないと考えている。(頻度:週に4回以上)
  •  荒らし・嫌がらせに対抗する手段が極めて少ないことが、記事編集へのモチベーションを削いでいます。(頻度:週に4回以上)

2023年アンケート報告書 

Wikimedians of Japan User Group

以上