早稲田Wikipedianサークルと稲門ウィキペディアン会が国立国会図書館を訪問

2024年2月24日、早稲田WikipedianサークルLakka26Uraniwa、そして稲門ウィキペディアン会Eugene Ormandy が、東京都の国立国会図書館東京本館を訪問し、ウィキペディア編集のための調査を行いました。本稿では、3名それぞれの体験記を紹介します。

国立国会図書館東京本館。2021年撮影。(Nesnad, CC BY 4.0)

Lakka26

サンリオのキャラクター[[ニャニィニュニェニョン]]を立項しました。ニャニィニュニェニョンはデビューから40年以上経った今もコラボグッズが出るご長寿キャラクターで、[[みんなのたあ坊]] や [[マロンクリーム]]、[[ハンギョドン]]と同世代です。

国立国会図書館にはサンリオの月刊新聞『いちご新聞』がほとんど揃っています。毎年春に行われる「サンリオキャラクター大賞」も『いちご新聞』から始まった歴史があり、サンリオキャラクターの情報を得る上で最も重要な資料のひとつであることは間違いありません。今回の調査では、サンリオのキャラクターについてまとめられた書籍をいくつか閲覧したことはもちろん、『いちご新聞』を大いに活用しました。特にニャニィニュニェニョンの開発年である1983年からの数年分を重点的に調査しました。まだまだ改善の余地はあるものの、記事として最低限の情報は詰め込むことができたと思います。

Uraniwa

アサの栽培品種である[[トチギシロ]]の記事を立項しました。英語版にはすでに記事があり、その翻訳による立項も検討しましたが、どうも自分で一から起こしたほうが簡単そうだったので、オリジナルの内容になりました。

文献の見つけ方は単純です。国立国会図書館サーチのキーワード検索で「トチギシロ」と検索すると14件の結果が得られ、そこから「栃木市老人クラブ連合会」「栃木史論」という文字列が引っかかったのを取り除くと5件の有用な文献が見つかりました。今回の場合は記事の主題がマイナーであるため検索結果が膨大にならず、このような方法が通用します。

そのままPCの画面から閲覧を申し込みます。うち3件は雑誌、2件は図書で、それぞれ速やかにカウンターで受け取ることができました。

雑誌所収論文

  • 草野源次郎「国産生薬(薬用植物)の調査3:トチギシロ」『薬用植物研究』第28巻第1号、薬用植物栽培研究会、2006年12月、18–21頁。
  • 黒崎かな子「お国自慢:地方衛生研究所シリーズ10:無毒大麻「とちぎしろ」の開発」『公衆衛生』第75巻第1号、医学書院、2011年1月、69–71頁。
  • 高島大典「無毒アサ「とちぎしろ」の育成について」『栃木県農業試験場研究報告』第28巻、栃木県農業試験場、1982年10月、47–54頁。

図書

  • 阿部和穂『大麻大全』武蔵野大学出版会、2018年。
  • 倉井耕一ほか『地域資源を活かす生活工芸双書 大麻』、農山漁村文化協会、2019年。

論文のうちの1本(高島 1982)はオープンアクセスで、栃木県が公開したPDFファイルがネット上で読めることに気づきました。黒崎 2011および図書2点の要点をメモしたあと、草野 2006を複写してもらいました。複写受付の終了が近づいている時間帯だったと思いますが、予期したよりかなり迅速に済みました。

最後に時間が少し余ったので、館内のPCでデジタルコレクションを開き、館内限定の資料を渉猟してみました。『文藝春秋』の第58巻第3号(1980年3月)が見つかり、見どころのある情報が載っていたので、これもメモをとって記事に生かすことができました。トチギシロに関連する言葉で検索すると『文藝春秋』が何件か見つかるので、どうやらトチギシロが開発された当時、たびたび記事で話題にしていたようです。

いずれの資料も、今回作成した項目の骨子をなすことになりました。

Eugene Ormandy

国立国会図書館を訪問する数日前、『カンボジアを知るための60章 第3版』を読んで「チュオン・ナート辞典」というカンボジア語辞典の存在を知りました。ウィキペディアを確認したところ、同辞典の記事は立項されていなかったので、自分で書くことを決意。せっかくなので、早稲田Wikipedianサークルの皆さんと国立国会図書館を訪問する際に、役立ちそうな資料を調達することにしました。

「何も計画せずに訪問しても、無為な時間を過ごすだけだろうな」と思ったので、事前に簡単な計画を立案。とりあえず、上掲書の参考文献として活用されていた『世界のことば・辞書の辞典 アジア編』を調達しつつ、他にいい資料がないかレファレンスカウンターに相談することにしました。

レファレンスについても「質問が曖昧だと時間をロスするだろうな」と思ったので、事前に情報収集をして質問をある程度練ることに。そのために活用したのは、国立国会図書館が運営している「リサーチ・ナビ」です。本サービスで「辞典」と検索し、ヒットした事例にいくつか目を通しました。特に参考になったのは「国立国会図書館所蔵の外国語の代表的な国語辞典」というエントリ。参考文献欄には先述の『世界のことば・辞書の辞典 アジア編』がありました。これは絶対に現地で確認する必要がありますね。

いよいよ訪問当日。13時に集合して各自が作戦を共有したのち、入館して別行動へ。私はまず、入口付近の受付カウンターにてレファレンス依頼をしました。質問内容は以下のとおりです。

質問: 事典や辞書について分析している資料を探している。事典や辞書そのものではなく、それらの歴史や社会的意義を分析したものや、それらを『事典的に』説明したものがほしい。リサーチ・ナビ『国立国会図書館所蔵の外国語の代表的な国語辞典』の「8. 参考文献欄」にあるような資料が他にないか知りたい。

カウンターの方からは「その内容であれば、人文総合情報室でお聞きください」と案内されたので、同じフロアにある人文総合情報室へ。その後、レファレンス担当の方に同様の質問をしたところ、辞書学に関する本が収蔵されている棚を案内されました(国立国会図書館は基本的には閉架式なのですが、開架の部分もあるのです)。幸いにも、そこには先述の『世界のことば・辞書の辞典 アジア編』がありました。ただ、正直なところ「ああ、辞書や事典に関する本はこの程度の冊数しかないのか……」とも感じました。今後、辞書や事典に関する様々な本が出版されてほしいですね。

なお、レファレンス対応の方には追加で「百科事典の歴史の文脈で、ウィキペディアを取り上げた資料はないでしょうか。バークの『知識の社会史』とかは知ってるんですが……」と質問。せっかくの機会なので、自分が最も関心を抱いているウィキペディアおよびウィキメディア・プロジェクトに関する調べ物もしちゃおうという魂胆です。

レファレンス担当の方が追加質問のための調べ物をしている最中、私は人文総合情報室にて辞書学関連の書籍に目を通していました。目当ての「チュオン・ナート辞典」に関する資料はほとんどありませんでしたが、辞書に関する様々な情報を得ることができて、とても楽しかったです。

その後、レファレンス担当の方からお声がけいただき、ウィキペディアに関する資料を3つ提示してもらいました。「ウィキペディアに関するまとまった記述は、図書館情報学に関する事典の一項目、もしくは論文等でしかなさそうですねえ」とのことでした。

  1. 日本図書館情報学会 編. 図書館情報学事典, 丸善出版, 2023.7. 978-4-621-30820-2. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I032946268
  2. 吉川 次郎. オープンな学術情報がもたらす新たな知識基盤 : Wikipedia上の学術文献の参照記述に関する研究動向を中心に. 人工知能 : 人工知能学会誌 : journal of the Japanese Society for Artificial Intelligence. 38(3)=219:2023.5,p.399-407. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I032865112
  3. 日本電子出版協会レファレンス委員会 著. 電子辞書のすべて, インプレスR&D, 2016.2, (インプレスR&D. JEPA books). 978-4-8020-9066-7. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I027424841

1は読んだことがある資料でした。2については未読だったので、今後読むことに。3については「もしかしたらチュオン・ナート辞典に関する記載があるかもしれない」と思ったので、後ほど実際に取り寄せて閲覧することにしました(開架エリアにはない図書のため)。

その後、しばらく人文総合情報室で辞書学に関する資料をパラパラとめくっていたところ、レファレンス担当の方から「ウィキペディアについての論稿ですが、こんなものも見つかりました」とお声がけいただきました。なんと追加で色々と調べてくださったとのこと。本当にありがたい限りです。

  1. Shohei Yamada, The Conceptual Correspondence between the Encyclopaedia and Wikipedia, Journal of Japan Society of Library and Information Science, 2017, Volume 63, Issue 4, Pages 181-195, Released on J-STAGE December 29, 2017, Online ISSN 2432-4027, Print ISSN 1344-8668, https://doi.org/10.20651/jslis.63.4_181, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jslis/63/4/63_181/_article/-char/en
  2. Wikipedia and the Representation of Reality. 2022. New York NY: Routledge Taylor & Francis Group. https://search.worldcat.org/ja/title/1260173978

この回答があったのが13時45分ごろ。このあと、退館時間の17時までどのように過ごすか、改めて計画を立てることにしました。カンボジア関連の資料を漁って「チュオン・ナート辞典」に関する記述を探すのも一案かと思いましたが、せっかくなのでレファレンス担当の方が示してくれた図書『電子辞書のすべて』を通読しようと思い直し、以下の計画を立案しました。なお、この計画についてはチャットで Lakka26 さん、Uraniwa さんに共有しました。

計画: 14:30まで人文室で資料を閲覧。目星をつけていた、カンボジア語の辞書について分析した『世界のことば・辞書の辞典 アジア編』(リサーチ・ナビの参考文献)を読みつつ、ウィキペディアに加筆できる箇所を探す。また、他にもいい資料がないか探す。14:30に人文室を出て『電子辞書のすべて』を申請して閲覧。

その後、計画に沿って14時30分まで人文総合情報室で資料を閲覧しました。上掲書のほかにも、『言語学大辞典』や『図説日本の辞書100冊』に目を通しましたが、これらの資料にはチュオン・ナート辞典に関する記述はありませんでした。また、辞書に関する英語の事典等も読もうかとしましたが、タイムリミットである14時30分が迫っていたため断念。次回チャレンジしようかと思います。また、『図説 日本の辞書100選』は各種ウィキペディア記事の編集に相当役立ちそうなので、後日購入することにしました。

その後は、計画通り14時30分に複写カウンターへ移動し、『世界のことば・辞書の辞典 アジア編』のチュオン・ナート事典に関連する部分の複写を申請。また、図書カウンターで『電子辞書のすべて』の取り寄せを依頼しました。これらの手続きが完了したのが14時40分。その後、複写と資料取り寄せが完了するまで、30分ほど館内を散歩しました。私は集中力がない人間なので、運動する時間を定期的に設けないと、作業効率が大幅にダウンするのです……。

15時10分ごろ、複写と資料を受理。複写資料を用いたウィキペディアの編集は帰宅後に行うこととして、残る時間で『電子辞書のすべて』を読み切ることとしました。本館2階の閲覧席では Uraniwa さんにも遭遇。小声で手短にお互いの進捗を共有し、それぞれの作業に集中しました。

結果、なんとか退館時間までに『電子辞書のすべて』を読み切ることができました。残念ながら、チュオン・ナート辞典およびウィキメディア財団の辞書プロジェクト「ウィクショナリー」についての記述はありませんでしたが、「アメリカにおける電子辞書は多言語翻訳を打ち出しているものが多い(68ページ)」と知ることができたのは良かったです。多言語辞書であるウィクショナリーの背景事情を分析する上で、参考になる情報だなと感じました。

なお、ウィキペディア記事「チュオン・ナート辞典」は、帰宅後にサクッと立項しました。編集に活用した資料は3つ。1つ目は私がもともと持っていた書籍、2つ目はオープンアクセス論文、そして3つ目は事前に目星をつけた上で、国立国会図書館で複写した資料『世界のことば・辞書の辞典 アジア編』です。

つまり、ウィキペディア記事「チュオン・ナート辞典」の立項に役立つ資料を、国立国会図書館で新たに発見することはできませんでした。私の質問が「チュオン・ナート辞典」やカンボジア文化ではなく、辞書・事典の歴史に重点を置いたものであったことも留意する必要があるでしょう。ただし、その代わりに、訪問前は想定していなかった情報を色々と知ることができましたし、今後の調べ物に役立ちそうな資料の目星がつきました。

今回の訪問は「調査対象を深掘りするのではなく、調査対象の周辺にあるものへの解像度を高める機会」だったと総括することができるでしょう。自分一人での調査に行き詰まり、新たなアイデアが欲しくなった時は、再び国立国会図書館に行こうと思います。また、同館を利用した「深掘り」もできるよう、質問内容や作戦を工夫しようと思います。