ウィキペディア記事「カンボジア国立図書館」を立項する

稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。2024年3月に「カンボジア国立図書館」という記事を日本語版ウィキペディアに立項したので、そのきっかけや編集プロセスについてまとめます。

カンボジアの位置 (TUBS, CC BY-SA 3.0)

きっかけ

国立国会図書館アジア情報室が発行する『アジア情報室通報』の目次を流し見していたところ、南亮一さんの「ベトナム・カンボジア・ラオスの国立図書館は今 -シンポジウム&ワークショップ「東南アジア地域研究情報資源の共有化をめざして」での報告を元にして- (その2 カンボジア・ラオス国立図書館)」という論考に目が止まりました。

大変面白い内容だったので「日本語版ウィキペディアの『カンボジア国立図書館』の記事に、参考文献として追加しよう!」と思ったのですが、残念ながらそもそもカンボジア図書館のウィキペディア記事が立項されていませんでした。そこで、自分で(渋々)書くことにしました。

編集プロセス

1 南論考を読む

まずは南論考を再読。「どの部分をウィキペディアに反映するか」と考えながら改めて目を通しました。

カンボジア国立図書館について言及しているのは、第1章「カンボジア国立図書館」。本章は①概略、②NLCの来館サービス、③納本制度という3節から構成されており、同館の概要がよくわかる百科事典的な内容となっています。そこで、ウィキペディア記事の構成は、南論考を参考とすることにしました(ウィキペディアは百科事典なので)。ただし、著作権や中立性の観点から、この論考のみに基づいてウィキペディア記事を立項するのは好ましくありません。そこで、南論考を補足する論考を探すことにしました。

2 南論考の参考文献を確認

論考Aと似たテーマを扱った論考Bを探すための手っ取り早い方法は、論考Aの参考文献欄を確認することです。ということで、南論考の参考文献欄に目を通したところ、日本の国立国会図書館が運営するカレント・アウェアネス・ポータルの記事が2つ使われていました。これらは無料で閲覧可能なので、ありがたくウィキペディア記事の下書きに出典として追加しました。

カレント・アウェアネス・ポータルを運営する国立国会図書館関西館 (Degueulasse, CC BY 3.0)

3 カレント・アウェアネス・ポータルで日本語の論考を探す

その後、カレント・アウェアネス・ポータルで「カンボジア国立図書館」「カンボジア and 図書館」と検索し、ヒットした記事をいくつか読みました。その中で、ウィキペディア記事の出典として活用できる、宮島安世さんの論稿「カンボジアの図書館の現状」を下書きに出典として追加しました。

4 日本語版ウィキペディア「国立国会図書館」を参照し、インフォボックスを設定

各種論考を読むのに疲れたので、休憩がてらテンプレートを整備します。

ウィキペディアには「インフォボックス」なる、記事の主題の概要を示したボックスが存在します。インフォボックスは主題の種類ごとに作られているのですが、「カンボジア国立図書館」の記事ではどのインフォボックスを使えばいいかわからなかったので、とりあえず日本語版ウィキペディアの「国立国会図書館」の記事を確認しました。

当該記事で使われていたのは、インフォボックス「図書館」。そのままでした。早速ウィキペディア記事の下書きに追加し、出典を確認しつつ引数を入力しました。

5 写真を探す

論文等を読む体力はまだ回復しなかったので、ウィキペディアの記事に使用する画像を探すことに。英語版ウィキペディア「National Library of Cambodia」を閲覧し、そこに使われていた画像を日本語版の下書きに追加しました。

カンボジア国立図書館 (Gonzo Gooner, CC BY 3.0)

6 国立国会図書館サーチで日本語の論考を探す

体力が回復したので、論文等の調査を再開します。

2024年1月5日に国立国会図書館オンラインと統合された国立国会図書館サーチで「カンボジア and 図書館」と検索したところ、ヒットした資料がかなり多かったので、検索対象をタイトルに限定したうえで「カンボジア and 図書館」と再検索。30ほど資料がヒットしましたが、関連しそうなものはなかったので、国立国会図書館サーチでの調査は断念しました。なお、ヒットした資料の中で「図書館職と東南アジア : 地域研究情報資源、シニアボランティア、カンボジア」は気になったので、今度国立国会図書館に行った際に読んでみようと思います。

7 国立国会図書館デジタルコレクションで日本語の論考を探す

続いて、国立国会図書館デジタルコレクションを活用しました。まず「図書館 and カンボジア」というキーワード検索を行なったところ、5000件以上の資料がヒットしたので、詳細検索の「タイトル」に「図書館」というキーワードを追加して再検索。ヒットする資料は98件となったので、気になったものを確認していきました。

ウィキペディアの出典として活用できそうな資料はありませんでしたが、鎌倉幸子さんの「カンボジアでの図書館活動の実践(1)内戦から復興する土地で」や、高山由香さんの「<カンボジア>おはなしに飛びつき,本を食べる子どもたち–カンボジアのSVA図書館活動」といった、興味深い論考を読むことができました。

8 CiNii で日本語の論考を探す

さらに CiNii で日本語の論考を探します。「カンボジア 図書館」と検索したところ、北野康子さんの「カンボジアの図書館事情と日本の支援 (特集 開発途上国における図書館の役割と支援活動)」という論考を見つけたので、下書きに追加しました。

9 グーグルスカラーで英語資料を検索

この段階でもう、記事を公開しても問題ないクオリティにはなっていたのですが、さらに調査をしておきます。というわけでグーグルスカラーで「Cambodia Library」と検索。Margaret A. Bywater “Libraries in Cambodia: Rebuilding a Past and a Future” を出典として追加しました。同論考が収録されている IFLA Journal はオープンアクセスなので、無料で読むことができます。最高ですね。

余談ですが、日本語版ウィキペディアに「2005年のトルクメニスタンにおける図書館の閉鎖」という記事を立項した際にも、IFLA Journal は大いに活用しました。そのプロセスについては、ウィキメディア財団のブログ Diff に寄稿した「ウィキペディア記事「2005年のトルクメニスタンにおける図書館の閉鎖」を立項する」という記事にまとめているので、興味のある方はご覧ください。

10 ウィキペディア図書館で英語資料を検索

仕上げとして、ウィキペディア図書館に収録されている JSTOR, Gale などを検索。ここでカンボジア国立図書館について詳細に論じた Jarvis の論文 “The National Library of Cambodia: Surviving for Seventy Years” を見つけてしまいます。「仕上げのつもりが、振り出しに戻っちゃったよ……」とガッカリしたのですが「ウィキペディアは百科事典だし、細かい内容については書かなくてもいいよね」と判断し、ポル・ポト時代が終わったのちに復帰した職員についての大まかな記述のみをウィキペディア記事の下書きに反映しました。

上述のとおり、この段階で公開しても問題ない形にはなっていたのですが「今後気が変わってモリモリ加筆したくなるかもしれない!」と思ったので、しばらく放置しておきました。

11 公開

この下書きの存在すら忘れた時期に、ウィキペディアンの友人たちと「みんなで集まって編集会(という名の飲み会)しようよ」という話になりました。私は酒とおしゃべりのことしか考えられず、当日までに新しい記事を仕上げる自信がなかったので、以前作成したカンボジア国立図書館の下書きを公開することにしました。やはりウィキペディアの記事は妥協と忘却の産物ですね(?)

12 ウィキデータに追加

ウィキペディア記事を立項した後、既存のウィキデータ項目「カンボジア国立図書館 (Q2556297)」を整備することに。とりあえず日本語のラベルと説明を追加したのですが、自分が作成した日本語版ウィキペディアの記事へのリンクを貼るのは忘れていました……。のちに他のユーザーが追加してくれました。

13 孤立の解消……を忘れていた

日本語版ウィキペディアのガイドライン [[Wikipedia:記事どうしをつなぐ]] には「すでにある他の記事から、投稿した新しい記事へリンクしましょう。他の記事から新しい記事へ少なくとも1つのリンクを張り、記事を孤立させないようにしてください」という記述があります(2022年11月19日 (土) 03:53 (UTC) 版より引用)。‎

ところが「カンボジア国立図書館」のウィキペディア記事を立項した際、私は孤立の解消をすっかり忘れていました。そのため、同記事は他のユーザーから孤立テンプレートを貼られてしまうことに。立項翌日にテンプレートの存在に気付いたので、ウィキペディア記事「ポル・ポト」の「関連項目」欄にカンボジア図書館の記事を追加し、テンプレートを除去しました。

まとめ

ウィキペディア記事「カンボジア国立図書館」を立項した経緯について詳しくレポートしました。「ウィキペディア記事を書いてみたいが、出典の調べ方がわからない」という方のお役に立てば幸いです。また、本稿を読んだウィキペディアンの皆様がご自身の編集記を作成するきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。