edit Tangoレポート2024 / №3ウィキペディアタウン in 久美浜

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2018年に始動した私たち「edit Tango」が開催した2回目のウィキペディアタウンは、2019年5月、ユネスコ世界ジオパークに認定されるエリアにある日本有数の鳴き砂の海岸・琴引浜をテーマにしたものでした。当時、ただの海水浴場のようにしか紹介されていなかったWikipedia日本語版の「琴引浜」の項目は、私たちのエディタソンで大きく加筆改善され、コミュニティの査読を経て良質な記事に認定されました。

この時、加筆した内容のひとつに、琴引浜の沖合3キロメートル・水深27メートルに日本酒やワインを半年間沈め、一定の水温が保たれ紫外線が届きにくい環境と波の揺らぎで熟成を図るという、地元の複数の酒蔵の共同プロジェクト「龍宮浪漫譚」があります。個々の酒蔵では実現できない規模の事業も協力しあうことで実現し共に繁栄する……どこかウィキメディアにも似た理想のコミュニティ像を感じました。

そんな丹後半島の多数の酒蔵によるもうひとつの共同プロジェクトが、「丹後天酒まつり」。年1回、ふだんは非公開の酒蔵が一斉に一般公開し、大阪や神戸などの大都市圏からもツアーバスが1日4便乗り入れる、地域の一大イベントです。

海底熟成酒「龍宮浪漫譚」

(漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)

edit Tangoでは昨年から、この天酒まつりの時に公開される酒蔵の1軒にねらいを定めてエディタソンを開催しており、昨年は京丹後市大宮町の「白杉酒造」を訪問し、Wikipediaを加筆しました。そして、今年のターゲットは、京丹後市久美浜町の「熊野酒造」。まだWikipediaに項目がなかった酒蔵です。偶然にも同日に、この熊野酒造の眼前に広がる久美浜湾でも万博を模した「久美浜湾博」という大きなイベントがあると知り、私たちはエディタソンの対象をこの地域一帯に広げて「ウィキペディアタウン in 久美浜~丹後天酒まつり~」を開催することにしました。

(ちなみに、これらの酒蔵共同プロジェクトを主導する京丹後市網野町木津の酒販店・松栄屋には、Wikipedia編集会にも使いやすいコワーキングスペースがあり、近い将来、この木津地域でウィキペディアタウンを開催する時には協力するとの快諾をいただいています。私のスケジュールに空きがなく、なかなか計画できないでいるのが、残念です。)

edit Tangoイベント2024 / №3 京都府京丹後市久美浜町 久美浜一区 

熊野酒造は、イベント対象地域である久美浜市街地の東にあります。午前中はまず熊野酒造に集合し、まちあるきにでかけます。edit Tangoのイベントの常として「ふらっと途中から参加する」人もいるので、イベント開始時間の10時すぐには出発せず、まず15分間ほど酒蔵の前に「ウィキペディア編集体験会」と書いた幟を目印に置いて、時間通りに集まっていた参加者には自由に酒蔵を見学をしたり試飲を楽しんでもらい、参加者が3人増えたあたりで、まちあるき(現地調査)に出発しました。

ウィキペディアタウン

(Asturio Cantabrio, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)

総勢11名が参加したまちあるきのガイドは、edit Tangoの創始メンバーのひとりで、福知山公立大学地域経営学部の学科長でもある小山元孝教授です。さらに本願寺では、住職からも詳しい解説をいただきました。

今回の参加者は、edit Tangoの常連メンバーのほか、この春に就職で丹後半島に来たばかりという人や、いずれ自身がウィキペディアタウンを開催したいと計画中の自治体職員など、他の地方から来たばかりで土地勘のない人も多かったのですが、専門知識のある研究者の頼もしい道案内と解説のおかげで、予備知識が必要な歴史的な題材や宗教的な題材も、すっと理解することができたことでしょう。

私たちは、久美浜一区の東にある熊野酒造、東山公園山頂の金毘羅宮、丹後地方最古の木造建築がある本願寺を巡り、表通りのつきあたりにある江戸時代の代官所跡に建つ久美浜小学校まで、かつての城下町を各時代や街並みの変化を紹介してもらいながら散策しました。

ちなみに、一番遠くから参加してくれた人はなんと1,500キロも離れた北海道の町の職員でした。これまでのedit Tangoイベントで一番遠くからの参加者は、昨年10月の企画に研究のために参加された茨城県にある筑波大学所属の人だったのですが、最長距離を2倍ほど更新しました。

エディタソンと見本市

午後の編集会場となった稲葉本家は、久美浜の近世・近代史においてもっとも知られた豪商であり、その邸宅は現在久美浜で特に人気のある観光地のひとつとなっています。なかでも見どころなのが、かつて稲葉家の人々が結婚式を挙げたという2階の広間で、「新婚の間」と呼ばれるお座敷です。ハート形にくり抜かれた壁の向こうに、緑の美しい日本庭園が映える撮影スポットもあり、カップルを中心に多くの観光客が訪れます。今回私たちは、その「新婚の間」を間借りし、Wikipedia編集会を開催しました。

日本のエディタソンでは、参加したい人は事前に申し込みをすることが必要で、当日の編集会場には参加者と関係者以外は立ち入りできないのが一般的です。しかし今回、私たちはエディタソン会場を貸し切らず、Wikipediaの編集作業中もその様子を誰もが自由に見学できるようにしました。

編集活動中、時々2階に上がってこられる一般の観光客のなかには、私たちのWikipedia編集活動にも興味を示し、紹介動画を最後まで視聴していったり、Wikipediaの編集方法を紹介した冊子を持ち帰る人もいました。このささやかな種まきのような見本市が、ウィキメディア運動への興味を喚起し、どこかで発芽してくれるといいなと思います。

編集活動 と 見本市

(漱石の猫, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で)

イベント後も続いた、Wikipedia編集 

「ウィキペディアタウン in 久美浜」では、午後のWikipedia編集活動には5名が参加、1名が参加者全員の文献調査や題材の理解をサポートし、3つの新規項目を日本語版に立項しました。これらの記事はいずれも、イベント後も多少の加筆が行われ、5月末から6月初めにWikipedia日本語版メインページの「新しい記事」に掲載されました。

また、イベント中は他の参加者の寄稿サポートを中心に活動したウィキペディアンが、イベント後、編集会場である豪商稲葉本家13代目当主稲葉市郎右衛門の記事を新規立項し、既存記事のあった12代目当主の記事名の改名や曖昧さ回避ページの作成準備など、未来の寄稿者に優しい道筋の整理を自主的に進めてくれました。久美浜町域にはまだまだ特筆すべきものがたくさんあり、このイベントをきっかけに、地域の人々がWikipediaに注目し、自らも寄稿者となってくれることを期待します。

さらに発展的な出来事もありました。今回、初めてウィキペディアタウンに参加し「熊野酒造」の項目でWikipedia編集に取り組んだ寄稿者のひとりは、このイベントに参加すると決めてからアカウントを取得し、既存項目でWikipedia編集を練習していたそうです。イベントの3日後、彼は、それまでに他の参加者によって大きく加筆されてメインページにも掲載される水準に達した「熊野酒造」の項目に触発され、「もう少し自分も加筆できるかもと思っていたが、手を出す余地がないくらい素晴しい感じに書かれてしまい、鬱憤晴らし(笑)に[[炭鉄港カード]]を立項してみました。」と、自分の興味のある分野で新たな項目に挑戦したことを連絡してきました。一通りの内容を書き終えた時は、達成感を感じたそうです。その後、この項目にも幾人かのウィキペディアンがリンクの修正やカテゴリを追加するなどの編集を行っており、「忍者みたいに他の方が体裁を整えたり、catを追加したりと、こういった感じで修正されるのかと、リアルタイムで感じています。」と、不特定多数の寄稿者によって成長するWikipediaの良さに触れた感想を述べていました。

炭鉄港カード」というものを、私はこの時までまったく知りませんでしたが、ウェブ検索すると多くのページが見つかりました。日常、身の回りでは様々なアルゴリズムがはたらき、フィルターバブルの中にいる私たちは、自身にまったく縁のない物事について知る機会はそれほど多くはありません。しかし不特定多数の人々によって毎日新たな知識がWikipediaを通して生まれていることで、ウィキメディアのコミュニティでは多くの新しい知に出会うことができます。これは、私がこの活動を続ける意欲につながる喜びのひとつです。

参加者レポート User : Asturio Cantaburio「ウィキペディアタウン in 久美浜に参加する」(1)(2)Diff

ウィキペディアタウン in 久美浜 のまとめ

参加者 : 11名(うち、Wikipedia編集参加者5名、題材アドバイザー1名)、午後のみ自由見学 不特定複数
編集会場: 豪商 稲葉本家
調査地域: 京丹後市久美浜町 久美浜一区
新規立項: 3項目(うち3項目がメインページ「新しい記事」掲載)
 ・ 熊野酒造
 ・ 久美浜一区
 ・ 本願寺 (京丹後市)
参加者による後日の立項: 2項目
 ・ 稲葉市郎右衛門 (13代目)
 ・ 炭鉄港カード
支出: 参加者の旅費 39,150円(交通費、宿泊費 edit Tango規定による)
    ガイド料 5,000円(edit Tango規定による)
    拝 観 料 3,000円
    会場使用料 3,300円
    Wi-Fiレンタル料 4,290円(送料込み、次週の企画での利用分を含む)
    その他雑費 880円

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