日本語版ウィキペディア女性参加者へのインタビュー《前半》

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エイナさん、鷹香さん、白文鳥さん(いずれも仮ユーザー名)それぞれの立場から

紀美野町 みさと天文台, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

インタビュー概要

Wikimedians of Japan User Groupでは、2023年10月末から11月にかけて、日本語版ウィキペディア参加者へのアンケートを行いました。結果を見て、まず気がつくのは女性の少なさです。そのため、今回は主に女性参加者へのインタビューを行いました。回答してくださったのは20代から70代までの4人の方です。前編では3人の協力者の回答を紹介します。

調査背景女性参加者が少ない。(何かユーザーグループでフォローできることはないか)
調査目的女性参加者に日本語版ウィキペディアへの参加しやすさとしづらさについて、個別に具体的な話(ストーリー)を聞く。
調査課題女性参加者のJAWPの参加「モチベーション」と不満点を調べる。
調査項目
モチベーションに関して。
* 最初に参加した時の理由。できごと。
* 記事を書いていて楽しいこと。
参加の上で困難になりそうな点
* ガイドやルールがわかりやすいか。
* 資料の調べ方について。
* 参加者のまわりの人が好意的に見てくれるかどうか。
不満点
* 具体的に不満な点
* 嫌だったこと
調査背景,目的および調査課題,具体的な調査項目

インタビューの詳細

  • インタビュアーはKizhiya、インタビューは2024年5月から6月にかけてオンラインで行いました。
  • まとめに当たって:インタビュー参加者の四名のうち三名は、プライバシー保護の観点から仮ユーザー名で紹介しています。また、居住地や年齢、編集対象などには、事実に若干の変更を加えています。

インタビュー前の仮説

私たちは『女性が少ないことに対する仮説』を考えました。仮説のうち、主なものをご紹介します。

  1. 1日の時間の使い方に男女差があります。特に女性は、家事、育児介護など、仕事や学業以外にも様々な分野にわたって時間を使っているため、集中して執筆や貢献に使う時間を取るのが難しいといえそうです。「平成28年(2016年)の男性の1日あたりの平均は、「仕事」368分、「家事、育児、介護等」44分です。一方、女性は「仕事」215分、女性「家事、育児、介護等」219分です。
  2. 高等教育における男女差。
    • 令和元年度(2019年度)の大学および大学院における女子学生の割合は、大学(学部)45.4%,大学院(修士課程)31.6%,大学院(博士課程)33.7%と、女子のほうが低いといえます。
    • (参照:『文部科学省 学校基本調査-令和元年度結果の概要-』https://www.mext.go.jp/content/20191220-mxt_chousa01-000003400_1.pdf ,P2)
  3. その他には、男女の体力差なども考えられます。

周りの影響はあるか

今回は、ウィキペディアへの貢献を続けるに当たり、周りの人の理解や影響などもあるのかと考え、「ウィキペディア執筆者であることをお友達や家族に公表しているか」という質問をしました。3人の方全員が特に友人やご家族には公表していないとのことです。例外は日本の俳優について編集を続けているエイナさんが、イベントでご本人にお話しになっただけでした。


少しずつ情報を増やしていくのが楽しい 

1人目:エイナさん(仮ユーザー名)

エイナ(仮ユーザー名)さんは東日本にお住まいの30代の主婦の方です。日本語版ウィキペディアに参加してから15年弱で、編集頻度は週に2-3回です。主な執筆ジャンルは、『日本の俳優』です。

アンケートでは、ウィキペディアへの参加モチベーションを、以下のようにお答えくださいました。(選択)

  1. 自分が編集・執筆した記事に対する注目度や反応を見たいから
  2. 間違った情報を直したいから
  3. 記事を編集・執筆するのが好きだから

きっかけは、ウィキペディアの間違いを見つけたから

—— 初めて参加したときのことを教えてください。

エイナ:参加前から調べものをするときに、ウィキペディアを読んでいました。当時好きだった俳優さんの記事をよく読んでみたら、『あれ、おかしいな』というところがあって。自分で書き直そうとしたのが編集のきっかけです。

—— 編集のやり方はわかりやすかったですか?

編集方法のページが見つけづらかったです。最初のうちは管理人さんから結構、ミスの指摘がありました。それから、他の方の編集を参考にしました。『5本の柱』も最近まで知りませんでした。

—— ご家族やお友達は、エイナさんがウィキペディアンであることをご存じですか。

エイナ:家族は知らないですけど、ある俳優さんには、記事を書いたとをご本人にお伝えしています。

—— 直接のお知り合いなのですか?

エイナ:いいえ。イベントで、たまたまお話しする機会があり、それでお伝えしました。

—— やはり喜んでくださいますか。

エイナ:喜んでくれましたが、それより驚いていましたね。

—— 記事を書く段階の、どのあたりが楽しいでしょうか。

エイナ: 私は好きな俳優さんについての記事を書いています。少しずつ情報を増やしていけるところですね。出演した番組や、過去にこんなドラマに出演していたと編集し、その後、しばらくしてから、また「次は、このドラマに出ますよ」といったふうに追記していきます。記事を成長させていくのが楽しいのです。ほかには、「こんな特技や資格を持っていますよ」といった意外なことを書くのが好きです。最近では、ある俳優さんの、本業以外の活動が記事になっていなかったので、書き足しました。好きなものがあると集中的に書きたくなります。ウィキペディアは見てくれる方が多いですし、やりがいがあります。

感想より事実を重視

—— 資料の集め方について教えていただけますか?

エイナ: 主にネットニュースの記事です。スポーツ新聞や朝日新聞等の一般紙のウェブサイトから探します。

—— ブログなどはやっておられますか。

エイナ: ブログは主観的な感想や意見を書くところです。主観と客観は違いますよね。私が重視するのは客観的な情報です。感想より、情報をそのまま出したいと思っています。

—— 編集に際して不満はありますか?

エイナ:こだわりを持って書いた長文が、大量に消されてしまうことがあるのがやはり不満です。削除された理由は、記事に必要ないだろうといったものです。削除した方の主張はわかるのですけど、いくらなんでも削り過ぎじゃないかと思えることも多々ありました。私も、過去に1,2回ありました。編集合戦は避けたいです。相手の方が主張を貫こうとしそうな場合は引きます。また、できれば、指摘はコメントアウトの形で記述して欲しいです。

—— ウィキペディアの記事を書くのはボランティアです。「ボランティア」という言葉を聞いて、一般的にどういうイメージを持たれますか?

エイナ: ボランティア全般に関しては、報酬を求めないというイメージです。「報酬をもらえなくても、別に私は構わないですよ」と考えてやるのが「ボランティア」。ウィキペディアに関しては、参加できていること自体が報酬だと思っています。

—— 今日はどうもありがとうございました。

エイナさんが欲しい機能は、翻訳機能だそうです。他に参加されているウィキメディアプロジェクトとしては、コモンズがあります。また、削除する際の指摘は、コメントアウトの形が良いとおっしゃっていました。これはビジュアルエディターを使っている方もおられるので、全員がその希望に添えるかと言うと少し難しいかもしれません。

困っている人に関心を持ち続けること —— 研究職を目指す立場とボランティアとしての立場から

2人目:鷹香さん(仮ユーザー名)

鷹香(たかか)(仮ユーザー名)さんは西日本にお住まいの20代の文系大学生の方です。将来は研究職を目指していらっしゃいます。日本語版ウィキペディアに参加してから3年ほど、編集頻度は半年に一度程度です。主な執筆ジャンルは、『南西ヨーロッパの地理やインフラ』です。

鷹香さんは、ユーザーグループによるアンケートの際、ご自身の編集モチベーションを以下のように選択して回答してくださいました。

  1. 世界最大の百科事典をつくるため
  2. フリーな知識を世界に広めるため
  3. 知ってもらいたいことがあるため
  4. 慈善行為として

モチベーションについての質問は、「その他」を含む16の選択肢から自由に回答を選択していただきました。「フリーな知識を広めるため」の選択者は23.6%で、16項目のうち6位、「慈善行為として」を選択された方は22.7%で8位、 「世界最大の百科事典をつくるため」は20.0%で第10位です。鷹香さんは、いずれも公益を目的とした回答をなさっています。

アンケートのときの、回答者全員によるモチベーションは、以下の図をご覧ください。

2023年日本語版ウィキペディア編集者へのアンケート。「Q13.あなたが日本語版ウィキペディアを編集するモチベーションをお知らせください」 Wikimedians of Japan User Group, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

研究職を目指す立場から

—— まずはじめに、アカウントを作って、書き込んだ時のことを教えてください。

鷹香:日本語版ウィキペディアで、南西ヨーロッパの小都市について調べていたときに、日本語の情報が少ないと思ったのがきっかけです。私はその国の言葉ができるので、翻訳してみようと思い、始めました。

—— 実際に始めてみていかがでしたか?

鷹香:  私は研究職を目指しています。論文を書いたり、出典を記述する機会が多いので、わりと抵抗なく参加できました。出典をきちんと書くという、ウィキペディアの方針はとても気に入っています。ウィキ文法自体はまだ得意ではありませんが、ソースエディタとビジュアルエディター、どちらもあるのはありがたいです。ソースエディタだけだと読みづらいですね。

—— 最初にガイドやヘルプがどこにあるかわからなかったという意見をよくお聞きします。簡単にアクセスできたでしょうか?

鷹香:  正直なところ、よく整備されているとは言えない部分はありますけれど、貢献を続けているうちに自然に理解できました。

—— 記事を書いている段階で楽しいことを教えてください。

鷹香: 知らないことを記事にするためには、きちんと調べなければなりません。調査、特に自分でも知らない情報がわかるのは楽しい経験です。同時に、誰かに読んでもらえる喜びもあります。特にウィキペディアの記事は、検索エンジンのトップや上位に出てきますよね。「ウィキペディアに書く」ということは、「たくさんの人に読んでもらえる」ということで、嬉しいと思います。それも編集のモチベーションになっています。

—— 資料はどうやって探しておられますか? 

鷹香:ネット上の情報で調べています。

—— 外国の、あまり有名ではない場所や事柄ですから、やはり、日本で実地に資料を探すというと、難しいのでしょうか。

鷹香:紙の本だと、『コントロール+F』で全文検索ができないので不便だし、電子書籍は本の内容が頭に入ってきません。ですから、最終的には全部、ネットで検索した情報を出典にします。論文までは読んでいません。授業では読みますけれど。ウィキペディアで私が編集している分野では、そこまでの情報が不必要な場合がほとんどです。

女性が少ないのはウィキペディアだけではない

—— ウィキペディアの参加者に女性が少ないことに対して、何か仮説はお持ちですか。

鷹香:ウィキペディアに限らず、アカデミアの方面に向かう方、議員なども女性が少ないですよね。逆に、ブロガーやYouTuberには女性も多い。自分のセンスを活かせる分野に関しては、女性も多いと思います。ウィキペディアの場合は、自分の意見やセンスなどより、検証可能な資料を元に執筆することが求められています。信用できる情報を出典にする編集は、ある程度、教育のある方でないと難しい。大学に通っていても必ずしも教わることができるわけではないですし、逆に大学出身である必要もないのですが、とにかく学術研究の基礎をわかっていない方には難しいかもしれません。

—— 執筆分野や貢献方法によりますが、ウィキペディアの記事執筆となると、ある程度の教育は必要だと思います。

鷹香:私の意見では、現状でウィキペディア側ができることは、高等教育を受けた女性を引き込むことです。誰でも歓迎というより、基礎的なウィキペディアの価値をきちんと理解している方で、かつ「自分もそれができるよ」という、価値観を共有している方を引き込まないといけないのではないでしょうか。また、ウィキペディアに無料でアカウントを作って、書き込めることが知られていないのではないでしょうか。参入の入り口は広いほうが良いですよね。たとえば誤字を直すといったところから始めていただく。ウィキペディアのサイト自体にヘッダーバナーを出して参加者を募集する方法なども考えられます。

ボランティアとしてのウィキペディア

—— アンケートのとき、モチベーションに関する質問で「慈善行為として」を選んでおられますよね。ボランティアについて鷹香さんのお考えを教えてください。

鷹香:ウィキペディアに関係なく、一般的にボランティアは、日本ではポピュラーではないように思えます。寄付でもいいし貢献でもいいので、もっと積極的にボランティア活動を行っていただきたいですね。余裕や能力がある方は『高貴な義務』(日本語版ウィキペディア『ノブレス・オブリージュ』)としてボランティアに参加すれば良いのですが、ではそこまで余裕がない方はどうするか。たとえばX(旧ツイッター)でハッシュタグをつけて呼びかけるといった無料でできる行動もあります。ボランティアの一番のコアは『関心を持ち続けること』です。それさえできれば貢献の方法は何でも良いのかもしれません。たとえば明日、自分が戦争に巻き込まれるかもしれないと想像する。そうして、困っている人や恵まれない人のことに関心を持ちつづけることが重要だと思います。

—— 今日はありがとうございました。


調べものの仕方がわからない

3人目:新規参加者-白文鳥さん

白文鳥(仮ユーザー名)さんは関東にお住まいの二十代前半の方です。日本語版ウィキペディアに参加して1年弱、編集頻度も三ヶ月に一回とまだ新規参加者といえます。アンケートでは、参加モチベーションは、「5.自分の知識や技術を活かすため」とのことです。

自分の勉強のために

—— まずはじめに、日本語版ウィキペディアに参加したときのことを教えてください。

白文鳥:読書猿さんがWikipediaを編集することを勧めていたので、参加してみようと思いました。自分の勉強になればいいなと思って、始めました。

《※ 読書猿:日本の文筆業者、インフルエンサー。日本語版ウィキペディア「読書猿」

—— ウィキペディアを使ったりはなさっていましたか?

白文鳥:実は、あまり読んでいません。

—— まだ参加されたばかりですが、いかがですか?

白文鳥:やり方や編集方針も見てみたりしていますが、難しいです。調べものの方法も難しいですし、文章を書くのが得意ではないので、あまり編集ができないですね。

—— たとえば、書き方についての説明動画などがあると良いでしょうか。

白文鳥さん:ウィキペディアの記法もわかりませんが、まず、レポートの書き方みたいな、調べたことをきちんとまとめる方法がわからないので、動画があってもあまり役に立たないと思います。

—— 調べ物については、図書館に行って調べるとか、あと、インターネットのニュースで調べるなど、いろいろな方法があります。マンガがお好きだったら、資料の調べ方の方法が漫画化されていたりするといいと思いますか。

白文鳥:そう思います。でも文章でも良いです。

すぐブロックされそうで不安

—— 参加される上でどのような不安がありますか。 

白文鳥:私はよく記事のノートページを読んでいます。ノートページを読んでいると、「不当な理由でブロックされた」といったことを書いてる方がいらっしゃいます。ですから、すぐブロックされそうな不安があります。自分が直接、なにか言われたというわけではないのですが。

—— 不安はわかります。ガイドや方針のリンクをお送りしますので、少しずつ試してみていただければと思います。今日はどうもありがとうございました。

後半に続きます。https://diff.wikimedia.org/ja/?p=129807

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