ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して音楽家たちの出身校を図示したうえで楽器ごとに比較する

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稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。2024年7月、ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して音楽家たちの出身校を図示したうえで楽器ごとに比較してみたので、そのプロセスをまとめます。なお、本稿ではウィキデータの初歩的な解説は割愛しておりますので、不明点などありましたら [[Wikidata:はじめに]] などをご覧ください。

Uraniwa, CC0

結局、何を作ったの?

まずは、今回の作業を通して作成した3種類のグラフを示します。本稿では、これらのグラフを作るまでの過程と、グラフの簡単な分析を記します。なお、これらのグラフは、ウィキデータ・クエリ・サービスを使えば誰でも無料であっという間に、しかも広告を見ることもなく作成できます。また、もととなったデータは誰でも自由に利用・編集できます。

オーボエ奏者たちの出身校。ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して2024年7月23日に作成。(Eugene Ormandy, CC0)
クラリネット奏者たちの出身校。ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して2024年7月23日に作成。(Eugene Ormandy, CC0)
ヴィオラ奏者たちの出身校。ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して2024年7月23日に作成。(Eugene Ormandy, CC0)

作成の経緯

私は最近、クラシック音楽に関するウィキデータの編集および、ウィキデータ・クエリ・サービスを活用した情報の可視化に熱中しておりまして、ウィキメディア財団のコミュニティ・ブログ Diff にも以下の編集記を寄稿しています。

「次は何を可視化しようかな」と思いながらウィキデータ・クエリ・サービスのクエリ例を眺めていたところ、「映画とその物語の場所を地図上に」というクエリを発見。これは自分が好きなクラシック音楽の分野に応用できると感じ、「音楽家たちの出身校を図示したうえで楽器ごとに比較してみよう」と思い立ちました。

カールスルーエ音楽大学。(Photograph Tobias Helfrich, CC BY-SA 3.0)

ゴールの設定

まずはゴールを明確にしました。具体的には「ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して音楽家たちの出身校を世界地図上で図示し、楽器ごとに比較する。具体的には、オーボエ奏者、クラリネット奏者、ヴィオラ奏者で比較する」としました。

ケースに格納されたクラリネット (Jud McCranie, CC BY-SA 4.0)

調査対象を明確にする

続いて、調査対象を明確にしました。前述のとおり、今回はオーボエ奏者、クラリネット奏者、ヴィオラ奏者の出身校をそれぞれマッピングして比較するわけですが、まずはウィキデータから「オーボエ奏者、クラリネット奏者、ヴィオラ奏者」をからピックアップする方法をを考える必要があります。私が思いついた方法は下記の4案でした。オーボエ奏者の場合でお示しします。

  1. プロパティ「職業 (P106)」が「オーボエ奏者 (Q16003954)」のものをピックアップ
  2. プロパティ「楽器 (P1303)」が「オーボエ (Q8377)」のものをピックアップ
  3. 「1かつ2」のものをピックアップ
  4. 「1または2」のものをピックアップ

今回グラフを作成するにあたり採用したのは1です。2および4は、いわゆる「プロフェッショナルなオーボエ奏者」以外をピックアップする可能性もあると判断しました。というのも、例えば音楽以外の分野で著名な人物で、趣味としてオーボエを吹いていたことが知られている人物も、「楽器 (P1303)」プロパティに「オーボエ (Q8377)」が入力される可能性があるからです。また、「『職業 (P106)』プロパティに『〜奏者』という値が入力されているものの、『楽器 (P1303)』プロパティはそもそも設定されていない」という演奏家のウィキデータをいくつか目にした記憶があったので、3も選択肢から外しました。

ちなみに、2024年7月23日に、ウィキデータ・クエリ・サービスを用いて「プロパティ『職業 (P106)』が『オーボエ奏者 (Q16003954)』のウィキデータの数」と「プロパティ『楽器 (P1303)』が『オーボエ (Q8377)』のウィキデータの数を比較したところ、前者は804、後者は625でした。なお、このカウントに用いたSPARQLクエリは、クエリ例「ウィキデータにおけるヒトの数」を修正したものです。

また、参考までに、オーボエ奏者、クラリネット奏者、ヴィオラ奏者のウィキデータ数を記載しておきます。調査日は2024年7月25日です。

プロパティ『職業 (P106)』が『オーボエ奏者 (Q16003954)』のウィキデータの数804
プロパティ『職業 (P106)』が『クラリネット奏者 (Q118865)』のウィキデータの数1668
プロパティ『職業 (P106)』が『ヴィオリスト (Q899758)』のウィキデータの数(ヴィオリストはヴィオラ奏者と同義)1015

調査対象をもっと精緻に選定する場合、プロパティのノートページで示されている適用範囲などの各種制約を比較したり、調査前の時点で不備のあるデータを修正・編集したりする必要があるかと思いますが、今回はあくまでお遊びなので、この程度に留めておきました。

伝説的なオーボエ奏者レオン・グーセンス。(Byronmercury, CC BY-SA 4.0)

調査手法の確定

先述のとおり、調査にはウィキデータ・クエリ・サービスを用いることとします。具体的には、オーボエ奏者(クラリネット奏者、ヴィオラ奏者)の出身校を世界地図にマッピングするSPARQLクエリをウィキデータ・クエリ・サービスに入力し、実行します。SPARQLクエリは先述のクエリ例「映画とその物語の場所を地図上に」を簡単に修正すればよいだけです。

ヴィオラ奏者キム・カシュカシャン。(bagoum, CC BY-SA 2.0)

調査結果と簡単な分析

これらの準備のもと、ウィキデータ・クエリ・サービスで作成したグラフは下記のとおりです。本稿の冒頭でも示していますが、改めて紹介します。

オーボエ奏者たちの出身校。ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して2024年7月23日に作成。(Eugene Ormandy, CC0)
クラリネット奏者たちの出身校。ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して2024年7月23日に作成。(Eugene Ormandy, CC0)
ヴィオラ奏者たちの出身校。ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して2024年7月23日に作成。(Eugene Ormandy, CC0)

オーボエ奏者、クラリネット奏者、ヴィオラ奏者いずれの出身校も、アメリカ合衆国、ヨーロッパに数多く存在することがわかります。それ以外にも、日本、韓国、中国本土、オーストラリア、ブラジルに少数存在していますね。また、インドやアフリカ大陸の音楽学校出身の奏者はいないこともわかります。

なお、上記グラフにおいて、出身者数によって赤いピンの大きさが変わることはないようです。これらのグラフにおいて特定の学校の出身者数を知るには、音楽大学を示す地図上のピンを選択する必要があります。ピンを選択すると、その学校出身の音楽家が枝分かれして表示されます。文字で書いてもわかりにくいので、操作画面を示します。

ヴィオラ奏者の出身校を示した地図をズームしたもの。赤いピンが学校を示している。ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して2024年7月23日に作成。(Eugene Ormandy, CC0)
上記地図の左上にある「ケルン音楽舞踊大学」を選択したもの。ケルン音楽舞踊大学を示す赤いピンが4つに分岐している。そのうち1つを選択したところ、出身者の1人「フレデリック・ストック」についての情報が表示された。ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して2024年7月23日に作成。(Eugene Ormandy, CC0)

補足

参考までに、ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して、出身者数の多い学校をランキングで表示してみました。この時に用いたSPARQLクエリは、クエリ例「多くの子を持つモノ/ヒト」を修正したものです。なお、調査日は2024年7月25日です。

オーボエ奏者

ウィキデータURL学校名人数
http://www.wikidata.org/entity/Q463055パリ国立高等音楽・舞踊学校27
http://www.wikidata.org/entity/Q304985王立音楽大学12
http://www.wikidata.org/entity/Q60450カーティス音楽学校11
http://www.wikidata.org/entity/Q503246ジュリアード学院10
http://www.wikidata.org/entity/Q18245ハーグ王立音楽院8
http://www.wikidata.org/entity/Q927373プラハ音楽院8
http://www.wikidata.org/entity/Q1127380アムステルダム音楽院7
http://www.wikidata.org/entity/Q1144673王立音楽アカデミー7
http://www.wikidata.org/entity/Q178416サンクトペテルブルク音楽院6
http://www.wikidata.org/entity/Q847099リスト・フェレンツ音楽大学6

クラリネット奏者

ウィキデータURL学校名人数
http://www.wikidata.org/entity/Q463055パリ国立高等音楽・舞踊学校62
http://www.wikidata.org/entity/Q1488183リュブリャナ音楽院19
http://www.wikidata.org/entity/Q686522ウィーン国立音楽大学14
http://www.wikidata.org/entity/Q503246ジュリアード学院13
http://www.wikidata.org/entity/Q847099リスト・フェレンツ音楽大学13
http://www.wikidata.org/entity/Q1153515東京芸術大学9
http://www.wikidata.org/entity/Q2631642ブルノ音楽院8
http://www.wikidata.org/entity/Q2994538フランス国立高等音楽院8
http://www.wikidata.org/entity/Q248970バークリー音楽大学8
http://www.wikidata.org/entity/Q1144673王立音楽アカデミー8

ヴィオラ奏者

ウィキデータURL学校名人数
http://www.wikidata.org/entity/Q503246ジュリアード学院22
http://www.wikidata.org/entity/Q463055パリ国立高等音楽・舞踊学校20
http://www.wikidata.org/entity/Q847099リスト・フェレンツ音楽大学18
http://www.wikidata.org/entity/Q686522ウィーン国立音楽大学15
http://www.wikidata.org/entity/Q927373プラハ音楽院14
http://www.wikidata.org/entity/Q215539モスクワ音楽院13
http://www.wikidata.org/entity/Q60450カーティス音楽学校10
http://www.wikidata.org/entity/Q312578フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ音楽演劇大学ライプツィヒ9
http://www.wikidata.org/entity/Q1144673王立音楽アカデミー8
http://www.wikidata.org/entity/Q304985王立音楽大学7

注意すべき点

なお、今回のグラフを読むにあたって注意すべき点はいくつかあります。以下列挙します。

  • ウィキデータは「完全なデータ」ではないことに注意しなくてはいけません。例えば、有名なオーボエ奏者のウィキデータが立項されていない可能性や、有名なクラリネット奏者のウィキデータに出身校の情報が記入されていない可能性を考慮する必要があります。ウィキデータはウィキという仕組みに基づき市民たちが整備するプロジェクトなので、抜け・漏れ・ミスは完全には排除しきれないと把握しておく必要があります。
  • 「グラフで赤く記された場所以外には、オーボエ(クラリネット、ヴィオラ)を教える学校がない」と考えてはいけません。あくまで「その学校を『出身校』プロパティの値として持ち、かつ『職業』プロパティがオーボエ奏者、クラリネット奏者、ヴィオラ奏者のいずれかであるウィキデータが作成されていない」だけに過ぎません。ただしもちろん、「その学校の出身者でいわゆる『プロの音楽家』になった人物(より厳密に言えば、ウィキデータの立項基準を満たした上で、『職業』プロパティに『オーボエ奏者』などと記載されるのが妥当だと判断される人物)がいない」という可能性も同時に考慮する必要はあります。
  • 今回は出身校を図示するためのSPARQLクエリにおいて、プロパティ「出身校 (P69)」の値となりうる変数に制限を課しませんでした。そのため、いわゆる「音楽学校」以外も地図上に示されている可能性があります。例えば、一般大学を卒業したオーボエ奏者で、その情報がウィキデータに記入されている場合、上記の地図にその一般大学が反映されています。いわゆる「音楽学校」のみをピックアップしたい場合は、SPARQLクエリ上で音楽学校を表す変数に「『分類 (P31)』が『芸術教育機関 (Q1792623)』もしくはその下位クラス(例えば『音楽学校 (Q1021290)』などが存在)」という条件を付与する必要がありますが、今回はお遊びなのでそこまで厳密には行いませんでした。
ケルン音楽舞踊大学。(Raimond Spekking, CC BY-SA 4.0)

まとめ

ウィキデータ・クエリ・サービスを活用して音楽家たちの出身校を世界地図上で図示し、楽器ごとに比較したプロセスについてまとめました。本稿がどなたかのお役に立てば幸いです。

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