「ウィキオーケストラ」はいかにしてポーランド音楽をウィキマニア2024で演奏したか

ウィキオーケストラとは?

ウィキマニア2024カトヴィツェでは、国際「ウィキオーケストラ」が初舞台を踏みました。このプロジェクトの企画は6月に発表され、ウィキメディア運動の中から関心のある音楽家を募集したのです。原型となったのは、ドイツ語版ウィキペディアコミュニティの年次大会WikiConで演奏している、ウィキフクロウオーケストラでした。このオーケストラのメンバーであるルーカス・メッツガーは、ユネスコの音楽都市に選定されたカトヴィツェで行われるウィキマニアで、合奏を実現させたいと考えたのです。

世界各地の異なる国々から19人が募集に応じ、ウィキオーケストラに参加しました。ヴァイオリン2人、ヴィオラ（私）、チェロ、コントラバスとエレキベース2人、フルート2人、クラリネット、ピアノ、ギター、ウクレレ、アコーディオン（ヴァイオリン兼）、打楽器、そして5人の歌手。プログラムは2曲で、まずポーランドの代表的音楽家ショパンのピアノ曲を合奏に編曲したものと、ポーランド南西部のシレジア民謡になりました。各自に楽譜が送られ、皆自宅で練習しました。ショパンのピアノ曲は「夜想曲作品9の2」で、映画音楽にも使われた有名な曲です。一方シレジア民謡は「カーリク」という題で、鉱夫カーリクのエピソードを女性が知る、というもの。歌詞はポーランド語で歌うことになったので、録音が共有され、歌手たちは自宅で練習しました。オーケストラのメンバーはウィキマニア前の数週間、準備についてグループチャットで会話を重ねました。海外からのメンバーのために、レンタル楽器が手配されました。ドレスコードは黒と決まり、黒服を忘れないように準備しました。

最初の―そしてただ一回の―リハーサル

ウィキマニア初日の開会式の後、ウィキオーケストラのメンバーはディナーを共にし挨拶を交わしました。知り合い同士の方もいる様でしたが、私は初対面の方ばかりでした。2日目にはレンタルしたヴィオラを受け取り、ホテルで少しだけ音を出してみました。新しい楽器でしたが、しっかりした明るい響きで、演奏に支障はなかったです。

3日目の夜にいよいよ初めてのリハーサルを、本番と同じく開会式にも使ったホール舞台で行いました。最初に「カーリク」の合奏部分のテンポを決め、演奏に慣れた後に歌も入って合わせていきます。指揮者は無しなので、打楽器奏者がリズムを刻んで合図をだします。歌手たちはポーランド語の歌詞をしっかり練習してきたので、それを聴いた地元の方にも成果が伝わりました。次にショパンでは、ウィキメディアンでプロの音楽家でもあるカトリン・クリッヒェルが指揮をしました。どちらの曲も最初にルーカスから音楽作りのポイントの細かい指示があり、みなそれを忠実に実行していきました。

本番

4日目最終日の閉会式は、まずギター奏者のゲレオン・カルクールによるキーノートスピーチ。ウィキメディアと音楽についての洞察に満ちたお話でした。次にルーカスがウィキオーケストラについて説明し、メンバーとショパンの曲を紹介しました。その間に黒服に身を包んだメンバーが舞台に上がり，指揮者も登場して演奏開始。ピアノソロで始まった曲が種々の楽器に彩られ、妙なる調べがホールに響き渡りました。万雷の拍手に送られてメンバーは席に戻り、舞台ではウィキマニアの様々な表彰が続きます。会の終盤に再びルーカスが「カーリク」の説明をする間にメンバーが再登壇し、打楽器奏者の合図で曲に入りました。女声と男声が交互に4番まで会話し、アコーディオンやウクレレが加わった器楽がそれに寄り添います。最後は皆で「ヘイ！」と叫んで手を上に挙げました。

音楽の経験も背景も全く異なる、世界各地から集まったメンバーが、たった数時間のリハーサルで演奏を実現できました。それは音楽の力もさることながら、コラボレーションを基盤としたウィキメディア運動という価値観を共有しているのが大きかったと思います。翌日には舞台写真が早速ウィキメディア・コモンズにアップされ、アンサンブルのウィキデータ・エントリーも作られました。このようにしてウィキオーケストラは、ウィキマニア2024のテーマである「開かれた協力」という理念を共有することができました。