稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。2024年10月2日、J-WAVE のラジオ番組『GRAND MARQUEE』に出演してウィキメディアの話をしたので、その模様をまとめます。
依頼
2024年9月末、番組スタッフのAさんよりメールで出演依頼があったので承諾しました。なお、Aさんからは「そもそもウィキペディアとは何か、どう使えばいいか、番組のウィキペディア記事にはどう対応すればいいのか」についてリクエストがありました。
仮台本を作成
その後、Aさんと私で一度オンラインミーティングを行うことに。「特に準備せずミーティングに臨んだら、重要な情報を伝え忘れてしまうかもしれない」と思ったので、事前にQ&A形式の仮台本を下記のとおり作成し、送付しました。また、仮台本とあわせて、ウィキペディアの各種方針が概説された、日本語版ウィキペディア「Wikipedia:ウィキペディアへようこそ」のリンクも送付しました。
Q. そもそもウィキペディアってなんですか?
A. アメリカの非営利団体「ウィキメディア財団」が運営する、フリーのオンライン百科事典です。基本的には誰でも編集が可能です。ただ、なんでもかんでも書き込んでいいというわけではなく、出典を明示するなどのルールがあります。
Q. ウィキペディアって誰が編集してるんですか?
A. ボランティアたちが趣味で編集しています。給料などは発生しません。
Q. なんでお金も出ないのに編集するんですか?
A. 基本的には楽しいからですね。ただ、ウィキペディアを編集するモチベーションは人によって様々で、「色々な人に読んでもらえるのが嬉しいから」という人もいれば、「自分の推しに関するウィキペディアを整備できるのが嬉しい」という人もいます。私のモチベーションは「社会インフラの改善に貢献できるのが嬉しいから」と「自分が勉強を継続するきっかけとなるから」でしょうか。
幸か不幸か、ウィキペディアは今やインフラのひとつと言えるくらいの巨大メディアになってますよね。つまりそれを改善すれば、世の中の人々がアクセスできる情報、しかも出典がきちんと明示されている情報を増やすことができるわけです。ウィキペディアは最高のメディアだとは言いませんが、ベターなメディアだとは思うので、今後も充実させていきたいですね。
また、ウィキペディアを編集するのは、私個人にとってもメリットがあります。具体的には、自分のスキルアップにつながるのです。たとえば好きな音楽家のウィキペディア記事を書くために、私は英語の論文を読んだり、昔アメリカで発行された音楽雑誌を漁ったりしていますが、このおかげでリサーチや執筆スキル、語学運用能力が多少上がったかなと思います。
Q. 論文を参照してきちんと整備されたウィキペディア記事もあれば、出典も示さず書かれいる記事もありますが、私たちはウィキペディアとはどうやって付き合っていけばいいんですかねえ。
A. あくまで大雑把な情報を把握するための入口として使っていただければと思います。より深く知りたい場合は、ウィキペディアの出典として用いられている文献を実際に読んでください。
Q. ウィキペディアといえば、たまにイタズラが発生していますが、これらにはどう対処していますか。
A. これもボランティアたちが対応しています。基本的には議論、調査ののち削除するか否かが決定されます。
Q. ウィキペディアって、レポートなどの出典には使っちゃダメと言われたんですが、本当ですか。
A. はい。絶対に使わないでください。もしウィキペディアの記述をレポートなどに使いたいと思った場合は、そのウィキペディア記事が参考文献として活用している資料を実際に確認してください。また、もしそのウィキペディア記事に出典がない場合は、誤情報である可能性もありますので、自分で出典をきちんと探してください。
Q. そういえば最近、この番組のウィキペディア記事ができたんですが、どうすればいいですかねえ。
A. ウィキペディアにおいて、自分自身の記事を編集することは、中立性の観点から推奨されていません。なので、演者やスタッフの皆さんが「GRAND MARQUEE」のウィキペディア記事を編集するのは、あまり好ましくはありません。そこで、私がオススメするのは、ウィキペディアを編集する人たちが出典として活用できる、番組に関する本やネット記事をたくさん公開することですね。
Q. 最後にひとこと
A. ウィキペディアの編集は楽しいですし、自分のスキルアップにもなりますし、他の人の役にも立つのでぜひ参加してみてください。編集のルールなどについて知りたい場合は「ウィキペディア ようこそ」と検索していただくと各種マニュアルがまとまったページがヒットしますので、読んでみてください。また、図書館や大学でウィキペディアの講習会が開かれることもあるので、興味があれば参加してみてください。本日はありがとうございました。
事前ミーティング
同じく9月末、事前ミーティングを実施。上記の仮台本には記載していない、私がウィキペディアに参加した経緯や、2023年に受賞したウィキメディアン・オブ・ザ・イヤー、さらには良質な記事制度についての情報を共有しました。また、私からは、仮台本にも記載した「自分自身の記事を編集するのは基本的に推奨されていない」という点を改めて念押ししました。
台本拝受
その後、Aさんが修正した台本をメールで受け取りました。事前ミーティングで確認のあった、私がウィキペディアに参加したきっかけなどについて追加されていました。
現地へ
10月2日の16時ごろ、六本木ヒルズ森タワーに集合し、スタッフのBさんと合流。ゲスト用のパスを受け取り、J-WAVE のオフィスへ移動しました。まずは待合室でAさんとお会いし、簡単に打ち合わせ。その後、しばらく待機しました。なお、待合室では、16時からスタートした『GRAND MARQUEE』が流れていたので、耳を澄ませて聞いていたところ「ウィキペディアの記事って何本くらいあるんでしょうね」という会話が行われていたので、急いで「Wikipedia:全言語版の統計」を確認しました。
出演
16時20分ごろスタジオへ移動。ミキサールームで少し待機したのち、CM中にレコーディングブースへ。パーソナリティのタカノシンヤさん、Celeina Ann さんとご挨拶しました。余談ですが、おそらくこの時にミキサーさんが私用のマイクの音量調節をしてくださったのではと思います。特にマイクテストなどはなかったので。
CM明けにいよいよ、ウィキペディアのコーナーがスタート。基本的には台本に沿って進みつつ、適宜寄り道もしました。会話の大まかな流れは以下のとおりです。
タカノ:そもそもウィキペディアって何なんですか?
Eugene:基本的には誰でも編集できる、オンラインの百科事典ですね。
Celeina:誰でも編集できるとのことですが、実際には誰が編集しているのでしょう。
Eugene:ボランティアたちが趣味として編集していますね。
タカノ:「ウィキ」という省略の仕方は間違っているとのことですが。
Eugene:私はよく「ウィキペディアを『ウィキ』と略すのは、自動販売機を『自動』と略すようなもの」と喩えています。ウィキペディアは「ウィキ」と「エンサイクロペディア(百科事典)」のかばん語ですが、「ウィキ」は「ブラウザを使えば誰でも編集できる」というシステムのことなのです。ウィキペディア以外にも、ウィキに基づくWebサービスは色々あります。「アニオタWiki」などですね。
タカノ:それはウィキペディアの姉妹サイトなんですか?
Eugene:違います。ウィキペディアの姉妹プロジェクトとしては、ウィキメディア財団が運営するウィクショナリー、ウィキデータなどがありますが、ウィキメディア財団に関係ないプロジェクトでも、ウィキに準拠するものは色々あります。
Celeina:Eugene さんはどのようなモチベーションでウィキペディアを編集しているのですか?
Eugene:自分が勉強したことを反映することで、社会のインフラがより良くなるからですかね。例えば、日本ではあまり有名ではなく、日本語の記事も少ない指揮者についての情報を、英語資料などを参照して日本語版ウィキペディアにまとめておくのはやりがいがあります。
タカノ:他の人も同じような気持ちで編集しているんですか。
Eugene:ウィキペディアを編集する人々のモチベーションに関する研究は色々ありまして、「モチベーションは人によって様々」と言われています。例えば、色々な人に読まれるのが嬉しいという人もいれば、自分の「推し」についての情報をまとめられるのが嬉しいという人もいます。私のモチベーションは先述のとおり、インフラを整備できることですね。
Celeina:優しさに溢れたサイトですね!
タカノ:ところで、良いウィキペディア記事とそうでない記事はどのように見分ければよいのでしょうか。
Eugene:まずは「出典が明記されているか否か」を判断してください。また、出典が明記されているものの中でも特にクオリティの高いものは、ボランティアたちから「良質な記事」と認定されており、記事名の横に星が記されます。
タカノ:この番組「GRAND MARQUEE」のウィキペディア記事もあるのですが、これにはどのように対応すれば良いのでしょうか。自分たちで編集するのが一番正確ではと思うのですが。
Eugene:ウィキペディアには「自分自身の記事は編集しないように」という内容のガイドラインがあります。これは百科事典としての中立性を担保するためですね。自分についての情報をまとめる際には、批判的な意見などを無視してしまうこともありますしね。
タカノ:自分たちの番組のウィキペディア記事を充実させたい場合、どうすればいいんですかね。
Eugene:出版社やジャーナリストなどが、この番組を取材して記事を書いてくれるように頑張るという感じですね。ウィキペディアの出典として用いられるのは、基本的に第三者が書いた資料なので。
タカノ:先ほど、ウィキペディアの記事数について話していたんですが、世界でどれくらいあるんですか。
Eugene:「Wikipedia:全言語版の統計」を確認したところ、記事数が最も多い英語版ウィキペディアで688万記事ですね。(一同しばし沈黙)意外と少ないですよね。
Celeina:そうですね。先ほども「億単位かな」と話してましたし。
Eugene:ウィキペディアには書かれていない記事が実はたくさんあるんですよね。SNSを見ても「なんで○○のウィキペディア記事がないんだ」という投稿を散見しますしね。私も「あれもない、これもない。しかし全部書く時間はない……」と思いながら過ごしています。
Celeina:もっとたくさんの人に、ウィキペディアに参加してほしいと思ってらっしゃいますか。
Eugene:そうですね。各種ルールを確認した上で、参加していただければと思います。
タカノ:ウィキペディアには登録など必要ですか。
Eugene:登録しなくても編集できますが、アカウントの作成が推奨されています。また、アカウント名は本名と関係ないものをお勧めします。
タカノ:Eugene さんがウィキペディアンになったきっかけを教えてください。
Eugene:シェイクスピア研究者で、ウィキペディアンでもある北村紗衣さんが武蔵大学で開催した市民向け講座ですね。これに参加して「なかなか面白そうだ」と思ったので、編集するようになりました。
タカノ:その後、大学でサークルも立ち上げたとか。
Eugene:はい。早稲田Wikipedianサークルを立ち上げました。
Celeina:そこまで Eugene さんを突き動かすものはなんなのでしょう。
Eugene:やはり、市民でもインフラを整備できるという充実感ですね。日本であまり知られていないアメリカの指揮者のウィキペディア記事を作成したところで、ただちに色々な人に読んでもらえるというわけではありませんし、そう閲覧数自体も大したことないとは思いますが、それらの指揮者について知りたいと思った人が入手できる情報が拡充するというのは嬉しいです。
Celeina:ウィキペディアを編集することで、インフラが整備されるほか、自分の知識も広がりますよね。
Eugene:はい。音楽の知識を色々身につけることができましたし、参考資料としてアメリカの古い音楽雑誌を漁ることで、英語力やリサーチスキルが身につきました。これらのスキルは、直接的ではないにせよ、自分のビジネスにも役立っています。
タカノ:最後に一点質問させてください。ウィキペディアのサーバー費などはどのように負担しているのでしょうか。
Eugene:アメリカの非営利団体、ウィキメディア財団が寄付金でカバーしています。もしよければ寄付してみてください。
まとめ
15分程度のトークだったので、不十分だったなと感じた点はありますが、必要最小限の情報はお伝えできたのではと思います。この放送を聞いて、ウィキペディアに興味を抱いてくださる方がいれば幸いです。
各種記録
- https://x.com/GRANDMARQUEE813/status/1841378829656641615 – X (Twitter) における『GRAND MARQUEE』のポスト。
- https://x.com/GRANDMARQUEE813/status/1841390054155207113 – X (Twitter) における『GRAND MARQUEE』のポスト。
- https://radiko.jp/#!/ts/FMJ/20241002160000 – radiko における放送アーカイブ。2024年10月9日まで聴取可能。
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