ウィキメディア財団では3年前、2030運動戦略の2項目に対応して知識の公平性を述べ、知識の格差を縮める趣旨で知識公平性基金を試験的に発足しました。目標は人種による権力のバリアや優先的な存在に遅れをとり、知識構造の主流から取り残された人々を対象に、知識を生み出し共有する人々を支えることにあります。知識公平性基金は、知識のより広範なエコシステムを支援することで、ウィキメディアのコミュニティがそれぞれの言語や地域に差し迫る知識の格差を表明してもらおうとしています。
当基金が端緒についてから、財団はどうすればウィキメディア運動において知識の公平性を表明し効果的なパートナーになりうるのか、多くの学びを得ることができました。2023年にはコミュニティとの会話を複数回、実施しており、知識公平性基金の目標と波及効果に関してボランティアの皆さんから受けたフィードバックに耳を傾け、その後の助成金支給に主要な変更を施しています。
ここで言う変化には以下を含みます。
- 知識公平性基金と助成金ならびに波及効果を主題に、もっと一貫性のある明確な意思疎通を図ること。
- ウィキメディア運動に参加するグループを対象に、知識の公平性に取り組む活動に助成金を出すこと。
- 知識公平性基金の資金の波及効果を、もっと明確な指標で示すこと。
第2ラウンド受給者の成果
2023年3月時点で第2ラウンドの受給者を発表しました。助成金の一部として受給者よりそれぞれが進めている作業の波及効果を単年度の事業終了の前に共有してもらいました。その内容はメタウィキ上に公開し、事業年度末の最終報告書はこれから2、3ヵ月のうちに提出される見込みです。左記の報告書類から目についたところをあげてみます。
- プロジェクト・ムルタトゥリ(Project Multatuli):助成金を使って作ったストーリーは16本あり、エッセー2件は写真ジャーナリズムの手法を使い、インドネシアにおけるさまざまな問題、つまり社会における先住民女性の役割、公衆衛生、社会的に恵まれない若者や障がい者の文化、人権を扱った。これらストーリーはそれらの主題についてウィキペディアの記事執筆の情報源という役割を得た。このプロジェクトと地域社会のウィキメディアンを結び、写真ジャーナリズムに投資したことを活用する取り組みが期待される。
- クリエイト・カリビアン(Create Caribbean):口伝の歴史を記録するプロジェクトの参加者を募集したところ、60件の推薦があったという。オンラインと対面型のインタビューを実施し、対象者はアンティグア、ジャマイカ、プエルトリコ、ドミニカ、セントルシアに分散しており、正統とされる以外の知識の情報源を集めた。
- 半島先住民の権利擁護連盟(AMAN=The Alliance of Indigenous Peoples of the Archipelago): スマトラ島北部、リアウ、ヌサ・ブンガで先住民と市民ジャーナリストを対象に開いた研修会は3回。「2023年には先住民ジャーナリスト(JMA)から寄せられた記事は154件で、ウェブサイトに公開した」という(JMA=indigenous journalists)。閲覧総数は利用者数 3728人、ウェブサイト上の投稿は 2万537回に達した(クリック、共有、コメント投稿その他)。また主催者からこれらの場に招かれたウィキメディア・インドネシア協会の人々にとって、ウィキペディアのコンテンツ、特に先住民の人々に関する知識やそれらの人々が発信できる知識にどのような需要があるか学ぶ一助となった。
第3ラウンドの受給者
前回の助成金受給者から学んだことを踏まえ、知識公平性基金から資金を受ける最新の助成金受給者を発表します。10ヵ国の組織13件には助成金を提供して知識の格差を埋め、新しい知識を創造して共有する取り組みを支援します。助成金受給者自身の言葉で詳細をお聞きください。
(1) AfLIA(アフリア=African Library and Information Associations and Institutions):アフリカ図書館・情報協会および関連機関(仮訳)とはアフリカにおける図書館部門の統括団体で、アフリカ34ヵ国が加盟しています。ウィキメディアのプロジェクト群とはアフリカ図書館員週間などの取り組みを通じて連携の経験があり(African Librarians Week)、学習コースのアフリカの図書館とウィキペディアや、専門家を支援するウィキデータ・コースでは情報リソースをすべての人にわかりやすく提供できるように企画しました。
しかしながら、まだやるべきことは残っています。今回の助成金は第一に、ウィキデータとウィキペディアの典拠管理の構造(Authority Control)の再検討に充当します。現状、典拠管理テンプレートは〔検証〕を目的として、アフリカに関するコンテンツの読者をアフリカ大陸外の国立図書館に誘導するだけです。助成金受給事業として意味論的な典拠管理を構築するモデルを作るわけですが、アフリカの国立図書館群にはウィキベースを使って意味論を切り口に先方のリソースの典拠管理を作ってもらうこと、そのデータはウィキメディア・ドイツ協会のご協力により(Wikimedia Deutschland)、ウィキデータ項目と、さらにウィキペディアのアフリカのコンテンツとリンクさせる道筋をどう築くかです。第二の目標はオンラインの会話を調整してアフリカの図書館部門とアフリカのウィキメディアンを結び、その先にはウィキメディアのプロジェクト群と活動をご紹介して、アフリカの図書館でも採用してもらうように働きかけて実現への足がかりを固めていきます。
(2) アーカイブ・ネパール(Archive Nepal):このボランティア団体はネパールとアメリカ合衆国を拠点とする非営利組織であり、ネパールの豊かな文化遺産の保全と促進を目標に学芸調査やアーカイブ化されたリソースの利活用を進めています。今回の助成金は、ネパールの多様な民族構成に沿って少数民族や周縁に置かれた地域社会が伝えてきた歴史的な文書の台帳づくりと電子化の資源となります。AIを活用するツールを採用し、ウィキソースの皆さんとの協働により、これらの資料にアクセスしたくても制限がかかってしまう不平等に対処するため、グローバルなコミュニティの力をお借りして文書をテキストファイルに引き写したり、現代人が読み書きできるネパール語や英語などに翻訳を進めていきます。これらの写本のデジタル化と保護により、将来の世代に引き継ぐことと、包括性や文化理解、コミュニティの関与をも促すことになります。
(3) ビルマの民主の声(DVB=Democratic Voice of Burma):1992年にノルウェーのオスロで設立されたDVBは、ビルマの人々に向けた公平なニュースと情報の発信を目指しています。現在、私たちは衛星テレビニュースをビルマの人々に24時間、年中無休で提供し、毎日、オンラインで公開する記事は数十件あります。DVBは亡命先で活動し、専任記者はビルマ国内外に100名を抱え、Facebook のフォロワー数2000万人、YouTube の登録者数250万人、国内のテレビ視聴者数は少なくとも1500万人にのぼります。この助成金の使途は傘下のジャーナリストの研修と技能開発を進めたり、衛星テレビやSNS(ソーシャルメディア)やウェブサイトを介して、視聴者への普及をさらに最大化します。この拡大と露出によって、ビルマの人々や問題に関してよりオープンで正確かつ創造的なコンテンツが生まれるよう、期待してやみません。
(4) 地球ジャーナズム・ネットワーク(Earth Journalism Network):今世紀に入り、どこを見ても環境の話題ばかりです。私たちの使命は地域社会のジャーナリズムを強化して、気候や環境危機の最前線にいるコミュニティや政策立案者に役立つこと、その人たちが力を蓄え、声をあげて解決策づくりに取り組んだり公が説明責任を果たす行動を求めるようにすることです。ウィキメディアの支援を受けて実施する活動は2件あります。まず先住民環境報道プロジェクトの一環として、研修プログラムと記事助成金を設け、世界中の先住民ジャーナリストを支援します。先住民メディアのトレーナーとしてアミラ・アブジバラさんとステラ・ポールさんのご指導の下、参加するジャーナリストたちには1対1で編集を指導、技能の実践的なトレーニングを受けたり、主要な専門家との人脈作り、長編の調査報道プロジェクトを完了する資金の恩恵を受けます。そして2つ目は地域社会の報道現場に着目して、アメリカ合衆国とカナダで十分に注目されていない地域社会にサービスを提供する担当者の移民や黒人、先住民族や有色人種の人たちに投資します。これらの実行には、今回の助成金をシードとして独自の革新的な報道プロジェクト開発に充当し、主流メディアに反映されない問題やグループ、場所に注目を集めることができるように目指します。
(5) 国境を越える発想(Ideas Beyond Borders):この団体は知識、表現の自由、知的好奇心を促して中東の個人やコミュニティに力を与えようと尽力しています。私たちの活動を通じて検閲や誤報に対抗し、オープンな対話と批判的思考の文化を育んでいきます。この助成金はジャーナリズム、メディア、ソーシャルメディア(SNS)擁護の総合的な研修を通じて、イラクとクルディスタン地域の民族および宗教に基づく少数派 13件、26 人の若いリーダーに力を与えます。私たちIBBとクルディスタン情報ネットワーク(KurdistanIN)およびそれぞれのリーダーは、ドキュメンタリー13 件ならびにウィキペディアの記事13 件を作成し、それぞれのコミュニティ固有の口承史と文化遺産を保存し、同時に少数派の問題に対する意識向上の大規模なキャンペーンををSNS経由で高めます。
(6) 国際ジャーナリスト・センター(ICFJ=International Center for Journalists):この団体(ICFJ)は自由で強固な社会に不可欠な信頼できるニュースを世界中のジャーナリストに届けることを可能にします。ウィキメディア財団から助成金を受けたことにより、私たちは国際ジャーナリスト・ネットワーク(IJNet=International Journalists’ Network)を介してジャーナリストに提供する多言語リソースを拡充し、過小評価されてきたコミュニティにとって極めて重要なトピックに焦点を当てることができます。さらに「ソリューション・チャレンジ」と呼ぶ活動では、報道機関が AI を活用して革新を起こし、サービスを提供する相手となるコミュニティとの信頼関係を深めるよう実践と支援を施します。サポートします。
(7) 未来のみのパハル(Just Futures Pahal):未来のみのパハル(JFP=Just Futures Pahal)はネパールのダリット女性が率いる非営利団体です。カーストの観点から、尊厳と正義、公平と包括的な民主主義、持続可能性を主題に新しい物語を理解し、育むことに取り組んでいます。私たちは1億2千万人を超える全世界のダリット女性が見えない存在のままにとどまらず、公正な未来のための新しい知識を生み出す貴重な存在として認識されるべきと信じています。この助成金は、私たちの最初のダマル・フェローシップを支援します。このプログラムは9か月間集中で実施し、参加者のダリット女性6人はカースト、ジェンダー、セクシュアリティ、階級に関連する物語を探求し、育みます。この助成金はさらにデジタルスペースの設立に役立ち、そこでは独自のJFP学習およびリソースセンター、これらとその他のトピックに関する口伝と文書化された知識資料をどちらもアーカイブしてアクセスを確保します。それらの波及効果として、私たちは疎外された人々の知識を公開されアクセスしやすい方法で広めたいと考えています。
(8) コントラス(Kontras=The Commission for the Disappeared and Victims of Violence):失踪者および暴力被害者委員会(通称コントラス=KontraS)はインドネシアで設立された非営利団体で、人権と民主主義を促進し、国家が国民の人権を尊重し保護する義務を確実に果たすことを目指しています。今回の助成金を用いて人権文書センター(PUSDOKHAM=プスドカム)を設立します。プスドカムには、優先するプログラムの構成要素が次の3件あります。(1)インドネシアの人権関連情報のアーカイブ・センターとなり、インドネシアの人権擁護活動、人権擁護者、人権侵害事件の文書収集と保管を含めて機能すること。(2)市民が人権侵害を報告するプラットフォームを提供すること、(3)人権監視の調査方法に関する教育センターとして機能すること。インドネシアのウィキメディアンの人々との会議に基づいて、私たちの研修のアジェンダにはウィキメディアのコミュニティとの協働が含まれます。これらの協働により両者のパートナー関係をさらに深めたいと考えています。
(9) オープン賠償アフリカ(Open Restitution Africa):オープン・レスティション・アフリカ(頭字語=ORA)は汎アフリカ型の女性が主導する取り組みであり、拠点はケニアと南アフリカに置いて、アフリカの物的遺産の返還に関する情報をよりアクセスしやすく、透明性があり、使いやすいものにしようと専念しています。私たちの事業は3 つの中核領域を前提としており、返還の手順に関して事案ごとに配慮した草の根研究を収集すること。この研究にアクセスを提供するオープンデータの特注のプラットフォームを設けること。認識を高めること。ORA は知識公平性基金から受けた今回の助成金により、今後 12 か月を費やして詳細な返還事例研究シリーズを公開し、アフリカ大陸全体で返還活動を推進するために役立てます。
(10) 声を上げる(グローバルな声)Rising Voices (Global Voices):グローバル・ボイセズは「声を上げる」イニシアチブ(Rising Voicesライジング・ボイセズ)を介して知識公平性基金の資金を活用し、先住民族言語コミュニティの支援を構築して強化、拡大します。この数年にわたりアフリカ、アジア、ラテンアメリカのさまざまなウィキメディア提携団体や貢献者と協力してきました。グローバル・ボイセズのコミュニティとウィキメディア運動に参加する個人が集まって両方のコミュニティに関する知識を持ち寄る場を提供し、それらを活用して将来のパートナー関係を共同で計画し実行していきます。この取り組みにはウィキメディアのグループ群との協働も追加され、ユネスコと共同開発した「先住民族言語の電子化イニシアチブ」ツールキット<sup>※1</sup>を用いて、国際連合が定める「国際先住民族言語の10年」<sup>※2</sup>の一環としてピア主導のデジタル活動ワークショップを提供します。この取り組みにより、ラテンアメリカにおけるピア・ラーニング・フェローシップ<sup>※3</sup>のプログラムも拡大します。(※1=”Digital Initiatives for Indigenous Languages” toolkit。※2=the International Decade of Indigenous Languages。※3=Fellowship Program in Latin America。) co-developed with UNESCO as part of . This initiative will also expand the peer learning .
(11) 文化資料・記録学部(School of Cultural Texts and Records):2003年設立のジャダブプール大学文化資料・記録学部(インド=School of Cultural Texts and Records at Jadavpur University, India)ではアーカイブ作成や資料のデジタル化、書誌学と文献研究、編集と書籍史の分野で大学の能力強化を目指してきました。私たちの使命は一般の人々の間でアーカイブ利用を促すことです。私たちは危機に瀕した南アジアのアーカイブ・プログラムのハブを自認し、大英図書館とも提携してワークショップを定期的に実施し、さまざまなアーカイブの実践に関して伝えています。知識公平性基金のリソースは、私たちの活動範囲を広げ、十分なサービスを受けていないコミュニティに働きかけるためにインドの遠隔地を訪れたり、ワークショップを提供して簡単で低予算のデジタル化技術を伝授できます。まだデジタル化されていない重要な文化資料にオープンなアクセスが実現するよう、ウィキメディアを介してデジタル化した資料を共有する予定です。
(12) 語られなかったシリア(Syria Untold):独立系メディア組織「UntoldStories」(アントールド・ストーリーズ=語られていない物語)は、「SyriaUntold」(シリア・アントールド)というシリア人の声や物語を扱う2言語のプラットフォーム、「MENA Art Gallery」(中東・北アフリカ地域アート・ギャラリー)という地元のアーティストを支援するオンライン空間、2言語雑誌で相互に関連する世界的課題を扱う「UntoldMag」(アントールド・マグ)の主要プロジェクト3件を運営しています。ウィキメディア財団の支援を受ける私たちは、過小評価されてきた声を増幅し、私たち自身のコミュニティの形成し維持する多様な人々の過去と現在の物語を伝えることに焦点を当てます。アラビア語と英語で高品質のジャーナリズムと知識を生み出すと、主流の物語に異議を唱え代替の視点を提案することで、シリアや西アジア、北アフリカとそれを超えた世界中の共通の現実の交差性を強調します。
(13) オークランド戦争記念館(Auckland War Memorial):正式名称ターマキ・パエンガ・ヒラ・オークランド戦争記念館は、ニュージーランド最大で最も多様な都市オークランド、マオリ語でターマキ・マカラウにあります。 この 5 年間、私たちはウィキメディアのさまざまなプロジェクトに積極的に協力して、世界中のユーザーがオープン・ライセンスのコレクションを利用できるようにしてきました。この資金のおかげでウィキメディア・アライアンス助成金を受給した作業を継続でき、ウィキペディアにオークランド地域史に関するコンテンツを投稿して多様化させ、中等学校の授業で活用できるようになります。大学生4名を支援して当館の幅広い夏季学生奨学金プログラム参加と、当館を本拠としてウィキペディア編集プログラム10週間に参加してもらいます。第2期ウィキペディア・インターン生は受け入れ先の博物館の嘱託ウィキメディアンの指導を受け、ウィキペディアにおけるオークランド地域史のコンテンツ改善と多様化に努めます。特に重点を置くのは、これまであまり取り上げていない場所や人物、関連項目です。当プロジェクトは「アオテアロア ニュージーランド新歴史カリキュラム」に沿っています(Aotearoa New Zealand Histories Curriculum)。学生グループにはデジタル・リテラシーの強化を通じてウィキペディアの編集を指導し、オークランドの文化的多様性を反映して知識表現のギャップに対処するためにも、ウィキのより広範なエコシステムの紹介を目指します。
知識公平性基金の今後
本来、知識公平性基金は人種平等に取り組み、無償の知識をさらに促す活動を支援するため、1回限りの助成金基金として開きました。初年度の2020年に以来、当初の基金には新しい資金を追加していません。第3ラウンドの終了時点、基金残高は81万5000アメリカドルを数えます。公平性基金は最後の「ラウンド」を今後4ヵ月で実行し、第1ラウンドで数件選ぶ最も影響力のある助成金受給者に運動への取り組みを深めてもらい、作成するコンテンツがウィキメディアのプロジェクトに掲載されるように最終的な「トップアップ助成金」を提供します。
委員会はこの最終ラウンドをもって助成金交付を終えると公平性基金口(Equity Fund)をいったん閉じて、この実験からの学びを発表します。私たちは近々、第3ラウンドと当基金の将来についてコミュニティと対話し、今後数ヵ月以内にこれら助成金のさらに詳しい情報を共有する予定です。
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