自分の書いた記事が読まれてほしいという欲望が全くない上、そもそも何かを書くこと自体好きでもないのに、ウィキメディア・プロジェクトの執筆・編集にそこそこ労力を割いている人間のモチベーション

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稲門ウィキペディアン会の Eugene Ormandy です。本稿では、私がウィキメディア・プロジェクトを執筆・編集するモチベーションをお示しします。

Uraniwa, CC0

自己紹介

私はボランティアとして、ウィキペディアをはじめとするウィキメディア・プロジェクトを執筆・編集しています。また、ウィキメディア財団のコミュニティ・ブログ Diff に、様々な記事を寄稿しています。さらに、依頼があった際は、商業媒体にウィキメディア・プロジェクトについての解説・エッセイを寄稿しています。

読まれてほしいという思いは全くない

「自分が書いたものが多くの人に読まれてほしい」という欲望が、私には全くありません。読まれようが、読まれなかろうが、心の底からどうでもいいです。実際、自分がどんな記事を書いたのかも、あまり覚えていません。

ただし、製造物責任は果たしたいと強く思っています。つまり自分が書いたものに誤情報が含まれないよう注意したり、出典を明記したり、他者の意見と自分の意見を峻別したりするようにはしています。また、依頼を受けて商業媒体に寄稿する際は、閲覧数やSNSでのリアクション数といった定量的な指標を設定し、それをクリアするようにしています。ただし、あくまで仕事の一環です。

書くこと自体そこまで好きではない

くわえて、書くという行為自体、そこまで好きではありません。もちろん嫌いではないのですが、自分にとって必要不可欠というわけでもありません。そのため私は、自分が書く文章の文体やデザインにほとんどこだわりがありません。伝えるべき情報がきちんと記載されていれば、多少不恰好でもさっさと公開してしまいます。もちろん、読者の読みやすさはある程度考慮しますが。

岳亭春信『墨をする官女『春雨集』 摺物帖』 (Public Domain)

インフラを効率よく整備したい

自分の書いた記事が読まれることに興味がない上、書くという行為自体そこまで好きではないのに、なぜウィキメディア・プロジェクトの編集・執筆を行うのか。その答えはシンプルです。「自分のスキルの範囲内で人類のインフラを最も効率よく整備できる行為が、ウィキメディア・プロジェクトの執筆・編集だと判断したから」です。

大変幸運なことに、私は心置きなく勉強できる環境で過ごせました。経済的な理由で進学を断念しなくてもよかったですし、先人たちが様々な機会を与えてくれました。ウィキペディアの編集スキルも、そのおかげで身につけたものの1つです。才能も向上心もない私のような人間に、色々な支援をしてくれた人々、そして社会には、本当に感謝しています。そして、私より遥かに優秀であるにもかかわらず、経済的な理由で進学を断念しなくてはいけなかった人々や、本来勉学に割きたかったであろう時間を、奨学金の申請や役所での手続きに使わざるをえなかった人々の姿を見るにつけ、「恵まれた環境のおかげで身につけた自分のスキルは社会に還元しなくては」という思いを強くしています。

では、どうすればいいか。社会への貢献を定量化することは難しいですが、無理矢理「自分のスキルと、そのスキルを適用するプラットフォームの社会的影響力の積」と設定するならば、私の場合これが最大となるのは「自分の執筆スキルを活用して、ウィキメディア・プロジェクトを編集する時」です。前者はたかが知れていますが、後者は相当巨大です。

幸か不幸か、ウィキペディアおよびウィキメディア・プロジェクトは、インターネット最後の良心の1つとでもいうべき存在になってしまいました。多くの問題を孕んではいるものの、インターネットにアクセスできれば(そして国家等の妨害がなければ)誰でも無料で閲覧・利用できるプロジェクトのうち、これほどクオリティの高いプロジェクトはそうありません。また、ウィキメディア・プロジェクトはウィキ、すなわちブラウザを利用すれば誰でも編集できるというシステムに基づいて運営されており、市民が改善し続けることが可能です。

繰り返しになりますが、私はウィキペディア記事を書くことが大好きというわけではありません。また、書いたものを読んでほしいという思いは全くありません。ただし、恵まれた環境のおかげで身につけた自分のスキルは、できる限り社会に還元したいとは強く思っています。そして、そのスキルを還元するプラットフォームとして、ウィキメディア・プロジェクトは2024年時点でベストだと思っています。

まとめ

自分がウィキメディア・プロジェクトを執筆・編集するモチベーションについて書いてみました。ウィキメディア・プロジェクトに携わる人間によるオーラルヒストリーの1つとして機能すれば幸いです。なお、もちろん「書くことが大好きだ」「自分の書いた記事が読まれることが嬉しい」というウィキメディアンを否定するものではありませんので悪しからずご了承ください。

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